【短編】シンデレラはハッピーエンドを描きたい
作風の紹介を兼ねて短編小説を書いてみました。
只今「シンデレラはハッピーエンドを描きたい」というタイトルの連載小説のストーリーを構想中なのですが、それに絡めた内容となっています。
しかし、なかなか筆を進める時間がとれず……。
ひとまず、こちらの短編小説をどうぞお楽しみくださいませ。
とある遠い遠いところにある王国にシンデレラという少女がいました。
いじわるな継母と義姉たちに虐げられていたシンデレラは、ある日、魔法使いの魔法に助けられてお城の舞踏会に参加し、王子と出会いました。
十二時の鐘が鳴る中、魔法が解けてしまう前にと慌てて立ち去るシンデレラ。王子は残されたガラスの靴を頼りに国中を探してシンデレラを見つけ出し、そして二人は幸せに暮らしましたとさ。
――これはそんな「めでたしめでたし」の先にあるお話。
王都の賑やかな大通りに面したカフェで三人の少女たちが楽しそうに話している。
テーブルの上には瑞々しいフルーツに彩られたケーキ、そして温かな湯気が香り立つ紅茶で満たされたティーカップが並んでいる。
少女のうちの一人が髪を耳にかけながら口を開く。サラサラと流れるような銀色の髪が光を受けて輝いている。
「ねぇ、もう読んだ? シンデレラの――」
「読んだ読んだ。今回も最高だったわ!」
隣に座っている少女が蜂蜜色の目を輝かせながら半ば被せる勢いで話に食い付いた。
「羨ましいわよね。あの王子をそばで、ずっと近くで見ていられるなんて」
「でもそのおかげで私たちも素晴らしいものに出会えているのよ」
蜂蜜色の少女がうっとりとした表情で話す内容に、銀色の少女が完全に同意というかのように頷きつつ言葉を返す。
「いつもラブラブというか王子が完全にメロメロだもんね!」
「メロメロって(笑) まあでもそうよね。あの二人の間に割り込む隙なんて一ミリも無いわね」
「特に今回はほら、あのシーンが最高だったわ! いつも穏やかな王子が勘違いから嫉妬して情熱的に――」
「ストップ! そこまで!」
二人の少女が盛り上がる中、今まで静かに紅茶を飲んでいた少女が話を遮った。
紅いネイルが映える指先が上品に音を立てることなくカップをソーサーに置く。
「……私、まだ読んでないの」
ネタバレは勘弁してくれ、と真剣な眼差しで訴える少女。
突然話を遮られた二人の少女たちは、紅色の少女を見つめ返して。
「カフェを出たらすぐに本屋に行きましょう」
銀色の少女が提案する。
「良いわね。私、布教用にもう一冊買うわ」
蜂蜜色の少女が謎の同意をした。
そんな二人の反応を見た紅色の少女は。
「最高の友人たちに恵まれて私は幸せ者ね」
とても幸せそうに微笑んだ。
「最近はこういう作品をシンデレラストーリーって言うらしいわよ」
「王子に見初められてっていうパターンのこと?」
「そうそう。ロマンチックよね」
「そういえばやっぱりあれって実話なのかしら」
「はっきりと明言してないけど、お城で働いてる友達の話では本当らしいわよ」
「お城……求人募集してないかしらね」
「メイドの枠に空きがないか確認してみましょ!」
少女たちの話は尽きない。
ティーカップの中身がとうに温くなっていることに少女たちが気付くのは、まだ先のこと。
「シンデレラ!」
美しい薔薇が咲き誇る瀟洒な邸宅に似つかわしくない大声が響いた。
「あら、王子。突然我が家にお越しになって、どうなさったのですか?」
平然と。一国の王子に対するには些かフレンドリーな返答をしたのは、昨今「シンデレラストーリー」として話題になっているシンデレラ本人である。
「これは、何だ!?」
息を切らしながら問う王子が手に持っているのは一冊の本。
「本ですね」
「それは見ればわかる! 今、王都で非常に話題になっているそうだな」
「そうですか。それはそれは」
「嬉しそうにするな。というかここを見ろ!」
「作者名ですね」
「そうだな。君の名だ」
どこぞの映画のタイトルみたいだな、と思いながら王子が持っている本を見る。間違いなく私の名だ。というか私が書いた本だ。
「よくある名前ですから」
「童話の主人公を冠する名前がよくあってたまるか!」
「……たしかにそれは私が書いた本ですけど、何か問題でも?」
これ以上しらばっくれても仕方がないので開き直ることにした。
「問題しかないわ! 何だこれは!?」
「何って、ただの恋愛小説じゃないですか」
「この主人公の『王子』って私のことだろう!?」
「王子なんてこの世界、掃いて捨てるほどいますよ」
「君、言い方……いや今はそんなことはいい。それよりこの相手! あとこの挿絵は何だ!?」
王子が開いたページに描かれているのは耽美な絵。カラー印刷でないのが悔やまれる。
「そちらの挿絵は義姉様たちの力作です。今回は我ながら会心の出来、と仰っていました。お相手は宰相様ですね」
「仲良いな君ら!? ……何故、私と彼のことを書いた」
王子の声のトーンが僅かに低く真剣なものとなった。私も王子の目を真っ直ぐに見つめて真面目に答える。
「本当のことでしょう?」
「それは……っ」
「このままでは本当に『シンデレラストーリー』になってしまいます。せっかくこの物語を書き換えたというのに、それでは意味がないじゃないですか」
そう、この世界は繰り返していた。同じ物語を何度も何度も。
物語の強制力だろうか。一目惚れしたわけでもない私のことをたった一つの靴を頼りに探し出すとは、ご苦労なことである。同じサイズの人いっぱい居たでしょ、これ。……待って、本当にどうやって見つけ出したの?
なんやかんやあって私の能力でその絶望に終止符を打つことができたのだ。存分に褒め称えるが良い。
とはいっても、まだ全ての物語を解放出来たわけではない。この世界にはまだ絶望に苦しんでいる物語の住人たちがいる。
「下地は出来ました。今なら貴方たちのことを公表しても受け入れられるでしょう」
「シンデレラ、君という人は……」
王子が感極まったように声を詰まらせた。
「そして私は旅の資金が出来ました。印税がっぽりです」
「シンデレラ、君ってやつは……」
王子が呆れた眼差しで呟いた。解せぬ。
「やはり、君はまた旅に出るのか」
「『シンデレラ』は解放されましたが、まだまだ他にも救いを待っている物語たちがありますからね。これは転生でスキルを得た私の運命ですよ」
「無駄にカッコイイ言い方するな。そうか……母上もリリアも君のことを気に入っていたから残念がるだろうな」
「リリアちゃんはしっかり者ですからね。先日も『後継が期待できない兄に代わって私が婿をとって女王になる!』と帝王学の先生を質問責めにしていましたよ。この国は安泰ですね」
「しっかりした妹がいて良かったよ」
私が転生者であることは以前に説明しているため王子の反応は薄い。せっかくカッコ良く決めたのに。
なんとも複雑な表情をしてはいるが、実のところこの王子はさほど王位に関心はない。外交向きの性格だ。宰相と共にリリアを支えてくれることだろう。
「それにしてもこの本、さすがにやり過ぎじゃないか?」
軽く本の内容に目を通して赤面する王子の様子を目に焼き付ける。後で義姉様たちに詳細に伝えなければ。
「一度書いてみたかったんですよねえ。身近に参考資料がいたので、思った以上に良い仕上がりになりました。最高傑作ですよこの暴露本。売上もウナギ登りで増刷も決まってます! ちなみにこれ三作目です」
「嘘だろ……」
遠い目をしている王子には悪いが、本当だ。
転生前は絵本作家で、職業イメージ的に大っぴらには創作できなかったが、本当はこういう作品も書きたかった。
まさかシンデレラに転生することになるとは思わなかったし、この世界で転生前の夢を叶えることが出来るとも思っていなかったが。
人生、何が起こるかわからないものだ。
ああ、大事なことを伝えておくのを忘れていた。
「この本ですけど、王妃様と宰相様には事前に許可を取ってありますのでご安心ください」
「そうか。え、私の許可は?」
「ちなみに王妃様は私のパトロン兼ファンクラブ会長です」
「知りたくなかったその情報……」
膝から崩れ落ちる王子を横目に初版本を渡した時の王妃の様子を思い出す。まるで少女のように頬を染めて嬉しそうに本を受け取る王妃。あれは本当に可愛かった。
未だ復活する様子の無い王子に向けて言葉を紡ぐ。
「幼少期に城を抜け出した王子と町で出会って友人となり、王子の側に立ちたいと血の滲むような努力をして、その能力が宰相家の目に留まり養子に。建国史上最年少の宰相として敏腕を振るい、様々な葛藤がありながらも王子からの熱烈な求愛の末に結ばれる」
それは平民から努力の末に成り上がった一人の男の物語。
「シンデレラが主役でなくとも十二分に『シンデレラストーリー』ですよ。むしろ私はこっちの方が好きです」
待つのではなく、自分の力で運命を変えようと前に進んだからこそ掴み取ることが出来た愛。それはきっと童話のシンデレラも同じだったのだろう。
「それほどの情熱も愛も私にはまだよくわかりませんが、貴方と彼の物語はまだこれから続いていくんですから――」
「ちゃんとハッピーエンドにしてくださいね」と続けた私の言葉に「ああ、もちろんだ」と王子はしっかりと頷きを返した。
数日後、リリアや王妃様に挨拶を済ませて城門を出ようとする私に、背中から声がかかる。
「もう行くのか」
「あら王子、それに宰相様まで。お見送りしてくれるんですか?」
「貴女には背中を押していただき感謝しております。貴女の言葉が無ければ、きっと私は踏み出す勇気が出なかったことでしょう。旅の途中で必要なもの等あればご連絡ください。出来る限りのことをいたします」
黒髪黒目の宰相に懐かしさと親近感を覚えつつ、王子との関係でうじうじ悩んでいた彼に喝を入れたことがあったなあと思い出す。礼儀正しい男だ。
それにしても、敏腕宰相の「出来る限りのこと」ってもう世の中の人間にできる大概のことが出来るんじゃないのかこれ。
迂闊にお願いをするのはやめておこうと心に誓いつつ微笑みを返す。
「もしもの時はお願いしますね。でも、きっと大丈夫ですよ。私には心強い旅の仲間がいますから」
「ああ、以前に顔を合わせたことがある彼女たちか」
「彼女たちが一緒であれば、安心ですね」
私の返答に安心した様子の王子と宰相。
まあ武力も魔力も世界屈指の仲間たちですからね。何せ童話の主人公クラスですし。
「それでは行ってきます。旅を楽しみつつ、ついでに世界救ってきますね!」
背後から「相変わらずだな」と呆れたような声が聞こえた気がしたが、構わず城門を通り抜ける。
道の先で待つ仲間の元へ足早に駆けていく。
旅の先に待つ出会いに心が踊る。
次はどんな童話の世界に触れられるのだろうか。どんな物語であろうとも必ず私が絶望を終わらせる。
だって、シンデレラは――私は、ハッピーエンドを描きたいのだから。
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