400字フィクション「母子」
L字のカーブで描かれた長いソファーに私は腰かけた。
ちょうどL字の下辺中央だ。
その正面3m先には受付がある。
今は待ち時間で妻の帰りを待っている。
ソファーの右端を見ると0歳と思われる子を抱いて座る母親がいる。
赤ちゃんは時折声を上げている。
泣きそうな気配を察知し、母は子を抱いたまま立ち上がり、
上下に揺らしては微笑みかけてあやした。
すると、直ぐに落ち着きを取り戻す赤ちゃん。
しかし5分後、遂に泣き始めてしまう。
「あぅー!」
一向に泣き止む気配はない。
周囲にいる未来の母親たちがその母子に視線を向ける。
その眼差しは皆暖かい。
母親は我が子を泣き止ませようと常に気遣い、
柔らかな愛情で子を包んでいる。
きっと私もなりふり構わず泣いていたのだろう。
すると妻が受付横の通路から出てきて私の隣に座った。
「わたしもあんな風になれるかな?」
妻が心配そうに言った。
私は大きくなったお腹をさすり、
「大丈夫、二人でなろう」と返した。