エピローグ「日常、時々、ときめき。そしてまた次の鼓動へ」
◆ 桜(剣ヶ峰 桜)との朝稽古
「主君っ! 朝稽古のお時間ですっ!」
日曜の朝。学園裏の神社跡地で、元気に木刀を構える剣ヶ峰 桜。
その姿はブレザーのまま、まるでコスプレのように決まっている。
「なあ桜、たまには寝坊くらい許してくれ……」
「拙者、あなた様に忠義を尽くす者……心身共に健やかでいていただかねば!」
「健やかどころか、死ぬ……!」
しかし、組手の途中、足を滑らせて――
「きゃっ!? ……ぬわっ、うわぁぁあっ!」
どすん。
「……ぐっ。ご、ご無事ですか、主君!」
「いや、お前が今、俺の上に……というか、至近距離でお腹に肘入ってる……」
「す、すみませんっ! し、しっしっ失礼いたしましたあああぁっ!!」
顔を真っ赤にして跳ね起きた桜は、転んだ衝撃で制服のリボンが乱れ、慌てて髪を直す。
だが晴雅は、その姿に小さく笑った。
「……ま、こういうのも悪くないな」
◆ 紗夜(九条 紗夜)とのゲーセンデート未満
「ここ、取れそうじゃん。見てなさいって」
休日のゲーセン。
クールな顔でUFOキャッチャーを操作する紗夜。
ぬいぐるみの狙いは完璧――に見えて、スカッ。
「……あれっ」
「“陰陽術的に干渉してないだけマシ”だとは思うけどな」
「うるさいっ! もう一回やる!」
結局3000円使っても取れず、ふてくされる紗夜。
しかし帰り道、彼女はなぜか同じぬいぐるみを袋に入れて晴雅に渡す。
「……ネットで買った」
「今の努力、何だったんだ……」
「別に……取れなかったから、じゃなくて。
晴雅がちょっと笑ってくれたのが、悔しいけど、嬉しかったから」
「……素直に言えばかわいいのに」
「言ってるじゃん、十分に!」
◆ 薫子(御門 薫子)との図書室おさわり事件(※合法)
放課後の図書室。
二人で“白虎の霊跡”に関する文献を調べていたとき、薫子がふと、
「ちょっと、手、貸して」
「ん?」
無言で、晴雅の手を取る薫子。
そして、両手で包み込むようにぎゅっと握った。
「……最近、ちょっと柔らかくなったのね。心が」
「な、何の確認だよ。手でやる必要あるか?」
「身体は嘘をつかないって、うちのばあ様が言ってたの」
「ばあ様、なんかすごい名言多くないか?」
そのまま手を離さず、薫子は照れもせずに言う。
「好きよ。あなたのそういう、“真ん中に立ってくれる”ところ。
でも、だからこそ“誰の手を最後に握るか”は、ちゃんと選びなさいね?」
「……それが一番難しいんだよ」
◆ 小夜(紅林 小夜)との再会の帰り道
朱雀の暴走を制御できるようになってから、小夜はすっかり穏やかな表情を見せるようになっていた。
「……こうやって何もない道を、一緒に歩けるだけで。
すごく、幸せだなって思うの。前は、いつか終わるって怖がってばかりだったから」
「終わらせないって決めたからな、今度は」
「……じゃあ、今度は私から“お願い”してもいい?」
「なんだ?」
「帰り道、手……つないでみたい」
小さな声。でも確かな想い。
晴雅はそっと手を差し出す。
「いいよ。ほら」
握られた手は少し熱かった。朱雀の力ではなく、彼女自身のぬくもり。
──そして、その夜。
晴雅のスマホに、また見知らぬ番号からメッセージが届く。
『朱雀が安定したことで、“西の門”が開き始めている。
白き刃が、東の地を切り裂く前に――目覚めよ、“四神統”の末裔よ』
そして、新たな転校生が学園へやってくる。
銀髪の、異様なほど整った少年。
口元には笑み、背中には刀。
「……また面白くなりそうだな」
晴雅は、空を見上げた。
―新章「白虎双刃編」開幕――