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南方朱雀編 第二話「朱雀の檻」

――夜の東京。

新宿御苑の地下で、再開発工事が突如中止された。

原因は、不可解な地熱の上昇と作業員の発狂。

専門家は“自然ガス”の噴出と説明したが、晴雅にはわかっていた。


(これは“朱雀の檻”が――きしんでいる)


 


「やっぱり……炎の気配が強まってる」

御門 薫子が地図に術式を走らせながら、式盤を操作する。


「このままいけば、朱雀は物理的にこの世界に“羽化”するわ」


「つまりどうなるの?」


九条紗夜が眉をひそめる。


「東京、焼ける」


 


沈黙。

その中、小夜が囁くように言った。


「……私の中にある朱雀の核が、もう抑えきれなくなってるの。

 このまま私が“人間”でいる限り、朱雀は完全体にはならない。

 でも――」


「でも、あなたが壊れたら、そのまま出てくるってことね」

薫子の声には一切の揺れがなかった。が、その瞳の奥に、決意が揺らいでいた。


 


桜が口を開く。

「主君。拙者が、小夜殿を――その手で討ちます」


「待て」


晴雅は、手をかざして制した。


「……まず、全部聞かせろ。前世で“お前が裏切った”本当の理由を」


 


小夜の指が、静かに自身の胸元をなぞる。

そこには、赤く光る勾玉――朱雀の魂核こんかくが埋め込まれていた。


「……私、前世では“破軍星”の器だったの。

 私の中に、あれが封じられていた。

 だから、晴雅さん、あなたが私を信じてたのを……私はずっと、怖かった。

 “破軍星”を再び目覚めさせてしまうかもしれない私が、あの場所にいてはいけないと――」


 


「じゃあ……あの裏切りは」

「自分で選んだの。あなたの封印を妨害することで、“器”としての私を自滅させたの」

「そんなやり方……誰も望んでなかった」


晴雅は低く言った。


「勝手に自分を犠牲にして、勝手に“終わらせたつもり”でいるなら、それが一番の裏切りだ」


小夜の肩が小さく震える。

だが、そのとき――


 


「熱い……!? 街が……!」

紗夜が空を見上げる。

空に、巨大な“朱の鳥”の影が浮かんでいた。


「来るわ……朱雀が、この次元に“羽化”しようとしてる!」

薫子の声が震える。


そのとき、小夜の身体から“炎の羽根”が吹き上がった。

彼女の輪郭が崩れていく――魂ごと、焼かれている。


「……朱雀、私を食べようとしてる」


 


晴雅が叫ぶ。


「くそっ、小夜! まだ話は終わってねえんだよ!」


彼は術式を広げる。

「――式神結界、《霊環ノ陣》、展開ッ!!」


結界が彼女の周囲を包み、朱雀の霊圧を強制的に“凍結”する。

しかし、それも数秒しか持たない。


 


「薫子! 緊急封印術の補助!」

「了解ッ、《陰火八重封》展開!!」

「桜、斬撃で結界の接点を切れ! 紗夜、式札で朱雀の術脈を寸断!」


全員が一斉に動き、結界が光を放つ。

そして――晴雅は小夜の目の前に立ち、こう言った。


 


「小夜。まだ遅くない。

 ……自分を“許して”やることから、始めろ」


 


小夜の瞳から、ひとすじの涙が落ちた。

炎の羽根が静かに消え、朱の光が空に吸い込まれていく。


「……ありがとう、晴雅くん」


 


世界は、静けさを取り戻した。

しかし、完全に“終わった”わけではなかった。

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