エピローグ「晴雅、平穏という名の修羅場」
渋谷を襲った“破軍星事件”から三週間。
誰もがあの異変を“都市伝説”と片づける中、霧島晴雅の日常は、むしろ平穏から遠のいていた。
「はるまさ、今日こそ、勝負です!」
昼休み、剣ヶ峰 桜が弁当を両手で抱えながら、晴雅の机に一直線。
「“主君”と一緒にご飯を食べるのは忠義! そして恋の戦いでもあると拙者、心得ておりますゆえ!」
「いや、もう普通に付き合えばいいじゃん、お前……」
「つ、付き合う!? そ、それはあまりに……しゅ、主従の一線を越えてしまう……!」
顔を真っ赤にして硬直する桜。
だが、そこに割り込むように現れる黒い影。
「ふーん。じゃあ私は“前世からの因縁”枠ってことで、優先権あるよね?」
九条 紗夜。現代でも制服をカスタムしたような黒のロングスカートでキメている。
毒舌気味だが、晴雅に対しては何かと構ってくる。
「こないだの戦いのとき、私の式を盾にしてたよね? あれ、命令でやったってことで責任とってもらうから」
「お、おい待て。勝手に因縁を恋愛交渉に使うな」
「ん~、じゃあ“好きになったほうが負け”でしょ? 私はまだ負けてないもん」
(……それもう、負けてる自覚あるやつのセリフだろ)
そんなふたりのやり取りを、ため息交じりに見つめるのが御門 薫子。
「はぁ……。これだから“戦国脳”は……」
制服の襟を正しつつ、晴雅の隣に着席。ごく自然に距離が近い。
「今日、空いてるでしょ? 一緒に帰るの。陰陽寮の報告もあるし、街を一緒に“視察”するのよ」
「“視察”って、デートの言い換えだよね?」
「……言わせないでよ。こっちが照れる」
(え、照れるんだこの人!?)
桜「し、主君とふたりきりは許しませぬっ!」
紗夜「このタイミングで告白とかしたら、爆ぜるからね」
薫子「……じゃあ、いっそ、全員で回る? 渋谷のカフェ街」
その日、晴雅は“異世界級の修羅場”に巻き込まれることになった。
だが、不思議と嫌じゃなかった。
誰かと未来を語り、何かを選んでいける。
戦いのない日々の中にも、まだ“戦い”はあって――
それはもう、命を削るものじゃなく、心を通わせるための“恋の術式”だった。
彼は小さく笑いながら、こう思った。
(……ま、これはこれで悪くないか)