第二話「忠臣、剣を抜く」
放課後の校庭で、晴雅は静かに佇んでいた。
「……来るな」
そうつぶやいたその瞬間、風を裂くような音が響いた。
「拙者、剣ヶ峰 桜! 転生し、主君の元へ参上仕った!」
制服姿の美少女が宙を舞いながら、木刀を振り下ろしてくる。
晴雅はそれをすんでのところで交わす。
「お前、まだそんな登場の仕方してんのか……現代ナメてんのか?」
「主君に危機ありと聞けば、たとえ地獄の果てより馳せ参じまする!」
「俺、今ふつうに高校生活送ってる最中なんだけど……」
彼女は前世、晴雅の右腕であった武士。
剣術においては無敵、だが恋愛には激烈に不器用。
「それにしても……そのスカート、ずっと全力で跳んでたけど大丈夫か?」
「……な、何を気にしている! これは制服という甲冑! 拙者には無敵の布なり!」
「布なら見えるだろ、絶対に」
そのやり取りに、突如現れるもう一人の声。
「はいはい、そこまで。二人とも騒ぎすぎ。風紀乱れすぎ」
現れたのは、冷ややかな目をした女生徒――生徒会長、御門 薫子。
彼女こそ、平安時代から続く陰陽師の正統たる御門家の末裔。
現代に転生しながらも、古の知識を受け継ぎ、すでに陰陽寮の裏側を掌握していた。
「安倍晴雅。いや、今は霧島晴雅、ね。あなた、知ってる? “破軍星”が再臨しようとしてるって」
「まさか……」
「戦国時代にあなたが封じた、あの存在が、今――渋谷に降りる」
──その夜。
渋谷のスクランブル交差点、巨大ビジョンが突如ノイズを発し、次の瞬間、空が“割れた”。
黒い霧の中から、異形の巨人が姿を現す。
それは人の形をしているが、顔の中心に複数の目を持ち、身体から炎を噴き上げる“異界の王”。
「破軍星、覚醒――」
それは、かつて晴雅が命を懸けて封印した、災厄の根源だった。
「皆、準備はいいか?」
「当たり前です!」(桜)
「仕事だからね」(薫子)
「やれやれ、ヒーロー部でも立ち上げた方がいいかしら?」(九条紗夜)
「行くぞ――《陰陽式・封星陣》、展開!!」