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三頭犬と魔物使い

三頭犬を捕獲せよ!~魔物使いミラナと魔犬になった幼なじみ~

作者: 花車

 場所:モルン山

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



 黒く艶めくステージに、封印の魔法陣が刻まれた巨大な石の柱が並び立っている。


 体長十三メートルの赤い魔犬は、その巨躯を激しく揺らしながら、まるで空間を波立たせるような激しい咆哮をあげた。


 全身が赤い魔力のオーラに包まれ、足元からは猛烈な炎が立ちあがる。炎の壁が魔犬の周囲を取り囲んだ。


 それはまるで地獄の業火だ。水属性魔導師の降らせた雨も瞬時に蒸発し、炎耐性の高い炎属性魔導師でさえ、一歩も前へ進むことができない。


 巨大な頭はひとつひとつが約三メートル。


 次々と特大の火炎球を放っているが、幸いなことに封印の柱はびくともしない。


 私はその陰に身を隠しながら、四方八方から集中砲火を浴びてなお暴れ回る、魔犬の姿を見守っていた。


 あまりに恐ろしい光景だ。その圧倒的な迫力に、水の保護魔法に守られた私でも、のどがカラカラに乾いてしまう。



「クレーン! もっとでっかいゴーレムは出せないの!? とにかくあのワンちゃんの動きを止めてちょうだい!」



 甲高い声で叫んでいるのは、真っ黒なローブに身を包んだ闇属性魔導士のベルさんだ。



「……大きさはこれが限界」


「ならもう一体出しなさい!」


「人使いあら……」



 土属性のクレーンさんはそうぼやきながらも、掲げていた魔導杖を両手でかまえた。額に汗を滲ませ呪文を唱える。



「犬の動きを封じ込めろ! ジャイアントロックゴーレム!」



――ゴゴゴゴゴ……!



 地面に浮かびあがった魔法陣から、身の丈四メートルはある岩の巨人が出現し、魔犬に向かって歩いていく。


 彼のほかにも数名の魔導士が、それぞれに巨人を召喚し、暴れ狂う犬の動きを封じようと奮闘してくれていた。


 しかし魔導師たちの召喚した巨人たちは、魔犬の巨木のような脚に振り回されては、黒く鋭利な獣の爪で粉々につき砕かれるばかりだ。


 狂気に満ちた赤い瞳。びっしりと並んだ剥き出しの牙。


 あれが同郷の幼なじみの、オルフェルが変わり果てた姿だなんて。


 まるで明るい太陽のように、いつもみんなの中心で笑っていた彼が、どうしてこんなことになっているのか、私にもすべてはわからない。


 だけど、いま彼は、この封印の解けかけた空間を赤く熱く染めあげながら、まさに外へ躍り出ようとしているのだ。



「抑えきれない」


「このままじゃ、削る前に逃げられます」


「眠り姫ちゃん! もう一度沈静化魔法を!」


「は、はい!」



 私は魔笛をかまえ、魔犬に魔法が届く距離へ近づいていく。


 魔法障壁を得意とする魔導師が、私の前を守ってくれていた。



「調教魔法、カームダ、きゃぁっ!」


――ドカーーーーン!――



 オルフェルが吐き出した火炎球が、私を守る障壁に直撃した。それは膨大な炎の魔力を帯びた、直径一メートルを超える巨大な球体だ。


 赤とオレンジの閃光がほとばしり、激しい爆音が響き渡る。魔法障壁と保護魔法で守られていた私ですら、その爆風に吹き飛ばされた。



「ミラナ……!」



 石柱に頭を打ち付け、視界が一瞬白くなる。鋭い痛みとともに、頭から流れ落ちた血が頬を伝う。


 だけど次の瞬間には、緑に輝く治癒魔法が飛んできた。傷がすーっと癒されて、急速に痛みが引いていく。



「ごめん、次はケガさせない。爆風は僕が必ず制御するから」


「ありがとう。お願いね、シンソニー」



 友人の言葉に励まされながら、私は再び立ちあがった。



「エサに注意を引きつける! その隙にやってくれ!」


「さぁこっちへ来い! でっかい犬っころ!」



 叫んでいるのは王国軍の兵士たちだ。用意してきた大量のドックフードを積みあげて、魔犬の気を引こうと大声でよびかけている。


 いまこの場所には、この国で最強クラスの魔導師や戦士たちが、二十人も集まってくれている。


 私が魔犬を捕獲したいと言ったばかりに、彼らは作戦を練り物資を準備して、多くの労力をかけてくれているのだ。


 もし魔犬を殺すだけなら、戦闘だってここまでてこずることはないだろう。



――頑張らないと。



 私はまた笛をかまえて呪文を唱える。



「調教魔法、カームダウン……!」

――ピーヒョロリン♪――



 魔法はオルフェルの胴体に黒い魔法陣を浮きあがらせる。だけどそれはすぐに消えてしまった。



「お願い、鎮まって……! オルフェル……!」



 私は泣きそうになるのを必死に耐えながら、何度も何度も魔法を唱える。



「だめだ。ドックフードに興味を示さないぞ」


「くっそー、苦労して運んできたのに」


「左側の頭に狙われてるぞ! 障壁を展開しろ!」


「この部屋から出られると厄介よ。攻撃の手を止めないで、もっと体力を削いでちょうだい!」



 ベルさんが魔導師たちに命じると、オルフェルへの魔法攻撃は、ますます激しくなっていった。


 多属性による連携魔法や、強化魔法で威力を増した強烈な攻撃魔法が、魔犬の身体を着実に傷つけていく。


 そしてベルさんの隣に立っているのは、この国の英雄、光の大剣士様だ。彼は十八メートルを超える巨獣を、大剣で一刀両断にしたという伝説を持っている。


 私が捕獲に失敗すれば、彼がオルフェルを仕留めるだろう。私としては、それだけは避けたい。



「オルフェル、聞こえる? ミラナだよ! 目を覚まして、私と一緒にいこう!」


「ミラナ、調教魔法に重要なのは、自分が主人だという強い意思だ。魔獣の迫力に負けるな。諦めずにもう一度!」



 私が必死に魔犬によびかけていると、調教魔法の師匠であるナダン先生が、私に激をとばしてきた。


 彼はいま、オルフェルの巨躯を重力魔法で押さえつけている。


 オルフェルはその圧力で全身の傷から血を噴き出した。赤い瞳が苦しげに歪む。



――うぅ、もう。見てられないよ……。



 心が引き裂かれそうに痛んでいる。できることなら彼を傷つけず、優しく保護してあげたかった。


 だけど私の実力では、沈静化するにも捕獲するにも、ギリギリまで弱らせる必要があるのだ。



「重力魔法が効いてる! 攻撃を畳みかけろ!」




「「「うぅおぉぉおおおおぉぉん!」」」




 悲しげに轟く魔犬の遠吠え。彼の前足が地面に沈む。


 手加減してくれているとはいえ、本当につらい光景だ。衝撃が体に響くたび身がすくみ、魔笛を握る手が震えている。



――死なせない。私があなたを飼うんだから!



「カームダウン! カームダウン! カームダウン……!」



 ひたすら沈静化魔法を唱えていると、ようやくオルフェルの目から闘気が消えた。赤い巨体がぐったりと、真っ黒なステージに崩れ落ちる。



「ミラナ……。ミラナ……」



 虚ろな目で虚空を見詰めながら、彼は私の名を呼んでいる。



「やるんだミラナ。いまこそ、テイムだ!」


「頑張って! 眠り姫ちゃん! 成功を信じてるわよ!」




――そうだよ。私はもう、迷わない。




 私はひとつ深呼吸をして、最後にその呪文を唱えた。




「私があなたを使役する! 調教魔法、テイム!」

――ピロリ♪ ピロリ♪ ピロリ♪――




 魔笛の音が響き渡ると、燃えるように赤いその巨体は、私の腰ベルトに取り付けられた小さなビーストケージに引き摺り込まれた。



 こちらは『三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~ 』のプロローグとして第一話に挿入していたものですが、第一話が長くなるので短編として分けてみました。


 ミラナは魔獣をテイムすることで、戦闘を指示することができる魔物使いです。


 本編はオルフェルがどうして魔犬になってしまったのかをゆっくりと時間をかけて振り返りながら、魔獣になった仲間を集めて冒険する物語です。


 オルフェルが魔犬になった経緯や、ミラナが彼らを捕獲しようとしている理由、ミラナの思いや魔獣との関係などなど、気になった方はぜひ↓のバナーから本編をお読みくださいませ!


挿絵(By みてみん)

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