『毎年恒例でぜひとも一言だけ…!』
『2月下旬のこの日だけは、どうしてもひと言、言いたいシリーズ!』(←そんなシリーズって有ったっけ?“のがみの独り言シリーズ2024”じゃないの?)
ども、皆さん、こんにちわ!のがみつかさです!今日は祝日しかも我らが令和天皇様のお誕生に有らせられます。本日ニュース等で陛下ご自身が率直なお気持ちを述べられているのを渇見して以前にも増して大大大尊敬&大感銘を感じざるを得ませんでした。災害、天災事変等において常に我々一般市民に寄り添い、それでいてご自身のお悩みの如く、苦しみ悲しみを分かち合おうとなさる陛下のお人柄には脱帽以上に頭が下がる思いで食い入るようテレビにしがみ付いて拝見しておりました。どんな時も常に明るく爽やかに私見をお述べになるお姿は、とてもじゃありませんが、我々一般市民には到底真似できない善良精神の賜物ではないかと…尊敬の念を払って止みません。長くなりましたが、本日はそんな陛下の謙虚さ、誠実さに少しでもお近づけできるような思いでこの物語を創ってみました。もし良ろしければお付き合い頂くと有難く存じます。それじゃ、どうぞごゆっくり…!
『無礼講』
ここは江戸城に近い、お堀が取り囲んだ城下町の、とある長屋での話。時は江戸時代中期の寒い冬の事。あれは確か人々の往来激しい、慌ただしさ目立つ年末、そう師走年の瀬、蕎麦屋にて。
「するってぇと何かい?今度、徳川家将軍のお世継ぎ様がお生まれになって、もう14年の年月が経ったって言うんだねぇ?早いもんだ、時が経つのはさ!俺たちが年を取るのも無理もねぇ話だよ!ねぇ、八っつあん!」
「あたぼうよ!昔から“光陰矢の如し”って言うじゃねぇか!昔の人ってぇは上手いこと、言ったもんだねぇ!その日、その日を大事に過ごさねぇと俺達もあっと言う間に耄碌しちまうから、今のうちに何か習い事でも始めてみるか?」
「へぇ~じゃ何かい?おめぇさん、今から算術、読み書き、そろばんの勉強でもするつもりかい、八っつあんよぉ?」
「バカ言っちゃいけねぇよ、熊さん!俺達、もうそんなに若くねぇからさ!それに俺ら、昔っから学問ってのが苦手でさ!そろばん弾いただけで何が何だか訳分かんなくなるし、ちょっと指が触れたぐらいで数が合わなくなって来るなんざ、でぇ嫌いだよ!習字だってそう!なまじ読めない漢字ばっかり書いて一体何が面白いんだか?そんなことするよりお互いじゃれ合って墨の塗り合いした方がよっぽど楽しいに決まってらぁ!な、そうだろ、ハっつあん!」
「確かにそれは言えてるな。真面目に学問するほど馬鹿らしい妙技は無ぇってもんだ!おめぇさんの言う通りだよ、熊さん!」
「大体さ、ガキってぇのは昔っから外で犬や猫みたいに野原を駆け回ってる方がよっぽど健全だよ!それをあんまし根詰めて手習いや学問ばっかりやらせるから将来碌な大人になれないんだよ!ま、うちの倅は、この俺に似て遊んでばっかいるから安心だけど!」
「うちだってそうよ!野郎と来たら食事も惜しんで一体何やってかっつうと一生懸命独楽回しに夢中なんだもん!ガキだよなぁ!呑気なもんだよ、全く…!」
「言えてる、言えてる!それはそうと将軍様のお坊ちゃんともなると、そうもいくめぇ!やれ剣術だの、やれ武士たる者…べからず!とやらを厳しく叩き込まれるんじゃないのかな?」
その頃、江戸城将軍家宮中では、口うるさい側近がお世継ぎ様へいつものお説教を垂れ始めることに…。またこれが恐ろしいくらい長くて、クドイ訓示めいたボヤキ節が炸裂中でござい!
「いいですかな、若君様!若様も何分脇目も振らず只管、お勉強なさって将来は、将軍家の跡取りとして、また江戸幕府内の栄えある主君として、この江戸城下一帯は疎か、ひいては我が日本国土を支配する一国一城の主として君臨なさいます故、今からでも少しづつ少しづつ書物なりに親しみ遊ばせ、語学研鑽等に励まれるよう何事にもご精進頂き…若君様!わたくしめの話ちゃんと聞いておられますかな?」
「で、できたぁ!爺ぃ、どうじゃ?余の描いたこの絵!“一筆書き”とは言え、かなりの力作だとは思わんか?」
「はぁ?な、な、何と?“へのへのもへじ”とは…?若―ッ!私は文字を書くよう、紙と筆をお渡ししたのですぞ!それをこのようなみっともない絵に現を抜かすとは…?」
「それじゃ、お主、これはどう思う?“つるわむし”まるで爺ぃの顔そっくりだとは思わんか?上手く描けたと褒めてくれたら、そちに褒美を遣わすぞ!何なりと申せ!」
「若君様―ッ!お戯れ遊ばすのもいい加減になさいまし!爺ぃは…爺ぃは…もしこのことがお父上や奥方様に知れ渡りでもしたら、さぞやお悲しみになられるや知れませぬぞ!卑しくも将軍家の跡取りが庶民風情の描画に現を抜かすとは何事です?爺ぃとて悲しくて悲しくて…かくなる上はこのわたくしめが全責任を負って今すぐ切…???」
「待て、待て、爺ぃ!何もそこまで事を荒立てなくとも良かろうものを!分かった、分かった!余の負けじゃ!真面目に字を書くよってその脇差に当てた右手を今すぐ引っ込めてたもう!」(…とは言え、爺ぃも相変わらず頭が硬いのぉ!童とて、これ以上同じ祖業を続けてたら息が詰まって気が変になりそうじゃ!何か、もっと為になる学問は無いものかのぉ?一日中座学ばかりに固守してたら、下界の様子が全く把握できないではないか!城の外では一体何が行われているものやら、皆目見当も付かないよって一度自分の目で庶民の暮らしぶりとやらを見て体感してみても悪くは無かろうて…。)
そんなこんなで徳川家の跡取り、若君も14歳で元服を迎えた師走半ばのこと、家来らが農民らから回収した古着、特に継ぎ接ぎの着物を身に纏い、お女中の化粧道具をちと拝借して如何にも町人っぽく変装、城内には一切内緒でこっそり城を抜け出して町内をひとり歩きすると言う大胆不敵な行動にうって出ることに…‼
「ひゃー愉快、愉快!快適そのものじゃ!自由ってモノがこれほど良いものとは気がつかなんだ!最高の学びそのものじゃ!“自分の目と耳と足で体感し、世情を知る”、これこそが真の意味での学問なり!実学たる所以ぞよ!」
若君だとは誰からも悟られぬよう徹底的に一般社会に溶け込むことを念頭に彼は、町内のいろんな所を見学しては一喜一憂し、時には注意深く耳を傾け、生まれて初めて見る光景に驚き、頷くこと数知れず、あっという間に雑学知識豊富な若者へと変身。正にこれこそが彼自身にとっても“いとをかし”なるものなりかと…。そんな好奇心旺盛な若君とは言え、そこはまだまだ子供。人が集まる場所では積極的に自分から入って行っては、耳を傍立て一言一句聞き漏らさず、どんなことにも首を突っ込みたがる性格が災いしてか身元正体がバレそうになることもしょっちゅう!そう、言葉の障害ってやつだ。
「あれ?おめぇさん、何だよ、その口調って言うか、喋り方は?まるでどっかのお殿様じゃあるめぇし…『~ぞよ!』って笑っちゃうね!」と蕎麦屋のご主人曰く。
「あ…いえ…その、つまり…何だ?芝居小屋で覚えた台詞ってやつでさぁ!あっしはそのような高貴な身分のお侍ではござらぬよって…どうか平にご容赦致し候!」
「その…候が正に侍口調なんだって!おめぇさん、一体どこのお生まれだい?」
「江戸城…イヤ、え、ドジョウが良く泳いでいる…え~と、ちょっと失礼!厠は何処でござろうか?」
若君は慣れない庶民言葉に翻弄され、これ以上此処に長居してると身元正体がバレそうになるのを恐れて厠からそっと一人抜け出して三軒茶屋の離れにある寺子屋へ辿り着くことに…。
「へぇ~こんな所に寺子屋があったとは今日の今日まで知らなかったぞよ!民の人々っていうのは一体どのような学問に励んでおられるのかな?何か凄く興味が湧いて来たよってほんのちょっと覗いてみようかのぉ!」
そういうが早いか、一般人に交じって裏側からこっそり侵入し、中の様子を垣根越しにじっと食い入るようなまなざしで覗き込む若君。
「おぉ!何と今日は上手い具合に“習字”のお稽古とは、中々風情ある光景よのぉ!ん?…と思ったら何だ?羽子板片手に墨の付いた筆持って…あれってもしかして“羽根つき”ではござらぬか?うん、うん!間違いなく“お正月恒例のお遊び事の定番なり”と余は観たぞ!」
可愛らしい幼子から図体のデカイ子供たちの戯れる様子に笑みが零れる若君は、競う、争う芸事全般に於いても沸々と闘争心が湧いてくるのが彼の武将なる所以でもあり、持って生まれた侍の悲しい性。どうにもこうにも自分も参加したくなるのは致し方無いと言いましょうか?
「エッヘン!頼もう!ぜひともこのわたくしめと、どなたか、ぜひご一手願いたい!」
…と威勢の良く掛け声かけるも左程経験も浅く参加するもんだから敢無く一回戦敗退!その上、人生初のお墨付き(?)…ではなく、お墨化粧を施される事態に…???若君、危うし!
「えっ?うそでしょ?ぼかぁ、これでも一応次期天下の“殿様候補”ですよ!顔に墨を塗られるのを黙って承知できますかぁ?そんな破廉恥極まりない所業には到底付き合えないですって!」と余計な代弁噛ました作者の老婆心を他所に彼はとびっきりの笑顔で…こう連呼し始める。
「うひゃ―愉快、愉快、最高!顔に墨を塗られるのがこんなにも快感とは…?こんなにも楽しくて…心躍る体験と言うか、経験は我が人生初めてなり。庶民の噓偽りない健全爽やかな持て成し、アッパレこの上無しぞよ!」と満面の笑みを称えては周りの子供らと仲良く溶け込んでいた若君ではあったが、その様子を遠くからじっと見つめる一人の男の姿が…。もしや若君の命を狙う他国、脱藩者の暗殺者では…?(←「若様、今度こそマジ、ヤバいっスよ!」)
いや安心召され!実は彼は暗殺者どころか、若君が城を抜け出してからずっと彼の後を尾行していた徳川家一門の密使、その名も“早乙女右平”という年の功で若君より一回り上の若者だった。彼の使命は勿論、不測の事態に備えて命を懸けて若君様を守ると言う、今で言うところのSP/ボディーガードなのである。彼はその後、若君を追って無事城に戻るのを確認すると、即城内の側近にその日の出来事を事細かく報告。江戸城内側室部屋にて呆れ顔でぼやく、側近、通称“爺ぃ”曰く…。
「やれやれ!若君の無謀振りにもほとほと困ったもんじゃのぉ!一般民衆と戯れて一体何の得になると言うのだ?さっぱり理解できんわい!いいか、右平!このことが城内に知れ渡ることの無きよう、一切誰にも口外してはならぬぞ!わしと左方との機密事項である故、良いな!」
「ハハッ!承知仕りました。それではまた後程…!」
そう言い残すと密使はあっという間にその場から姿を消すことに…流石元忍者畑出身、恐るべし!
そして年が明け、正月を迎えた三が日での出来事!なんと偶然にも城内では、“将軍家主催の城内羽根つき大会”が催されることに…その名も“無礼講in 江戸城”とはこれまた如何に?おっと“なぜ江戸時代に横文字が入っているんでござろうか?”のツッコミは、この際そっちへ置いといてともうしましょうか、一切読まなかったことにして頂き候。各々方良ろしいかな?
因みに参加者は勿論、城内若手侍全員で負ければ当然の如くお墨の御馳走が、お顔に…!
…で大会当日、参加者全員握りハチマキに“必勝、打倒先輩殿!”やら“手加減無用、後輩!”と銘打って和気藹々、張り切りムード全開の面々。しかも日頃の鬱憤を晴らすかの如く大騒ぎで盛り上がる江戸城内、大広間は熱気ムンムン、笑え!叫べ!大騒ぎの大熱戦!
また羽根つきと聞いて居ても立っても居られない若君は、あろことにか、側近の反対を押し切って緊急参戦!「余の出番じゃ―ッ!」と言ったどうかは、定かではないとして急な出来事、思わぬ展開に驚き、慌てふためき、正に面食らった感バレバレの若手侍の面々。あれだけ闘争本心剝き出しだった彼らの表情は一変してもろ沈滞ムード一色!どいつもこいつも申し合わせたようにあの手この手で若君を勝たせようと業とらしく扱けて見たり、空振りしたりのもう演技過剰の見え透いた八百長オンパレード。
「し、しまったぁ!拙者の負けでござる!若君様には到底足元にも及ばないでござる!お強い!」
ところが、当の本人とてこれ程の屈辱は耐え難く、ただでさえ勘のいいい若君は徐々に戦闘意欲を失くし、対戦毎に辟易して終いには湧き上がる苛立ちを隠し切れず…?
「え~い、止めじゃ、止めじゃ!こんなくそ面白くない羽根つきに誰が付き合えようか?汝らが初めからやる気を見せず、こぞって皆、似たような猿芝居をしおって…馬鹿にするのもいい加減にしろッ!余が気づかぬとも思ったか、戯け者!」と大激怒の彼は足早にその場から退散、会場を後にどこかへ消えて行った若君。
一方白けた雰囲気のまま、残された若手侍らの面々は皆お互い顔を見合わせ、口々に困惑した面持ちで不満を漏らすかの如く、こう囁く始末。
「誰だって命は惜しいからあなぁ!下手に勝ちでもして一体誰が若君様のお顔に墨が濡れるって言うんだい!もし間違ってそんな事でもしたら大変!即、その場で打ち首か切腹は免れないだろうに…!身分のお高き方とは言え、こっちの気持ちだって察して欲しいよ!」
「そうだ、そうだ!」皆異口同音、周囲に聞こえぬようヒソヒソ話があちらこちらで…。
…は言え、若君とて馬鹿じゃない!いやそれ以上に感のイイお方故、彼らの気遣いが痛いくらい理解できるものの、自分と言う存在を特別扱いする、その気風に強い嫌悪感を覚え、ついあの場で本音を吐いてしまうことに。自分が出しゃばったことで家来や家臣に多大なる迷惑をかけてしまったことに心を痛めつつも、どうにもこうにも遣り切れない気持ちを払拭できず、翌日の午後、再びボロの着物に着替え、とある街へと消えって若君。
すると今度は長屋界隈でも町民や農民等らが武士たちに負けぬくらい楽しそうにお正月恒例の羽根つき大会を催していた。その光景に落胆から未だ立ち直れぬ若君が民衆に隠れてそっと一人眺めているとある一人の男の子が驚いたよう大声でこう叫んで来た。
「あ―っ!あの時、寺子屋で一緒に羽根つきしたお兄ちゃんだ!おい、みんなちょっと来いよ!お兄ちゃんも一緒に羽根つきするんでしょ?ね?やろう、やろう!ってば!美味しいお餅だってたくさんあるよ!遠慮しないで“食いねえ、食いねぇ、寿司食いねぇ”だ!」
「え?この…私が…本当に良いのかい?めちゃくちゃ下手くそだよ!いいの?本当に?」
「良いも悪いも幾ら下手くそでも絶対手加減なんかしないからね!負けたらいっぱいそのお顔に墨塗っちゃうからね!覚悟しといて!」
「うんうん!よーし、それじゃいっちょ派手に実力発揮しちゃう…ぞよ?じゃなかった大暴れでもするか―っ!みんな、かかって来―い!」
「そう、こなくっちゃ!江戸っ子はこうと決めたら猪突猛進!当たって砕けちゃいなよ!」
若君は嬉しさの余り、我を忘れて羽根つきに夢中!勝ち負けを繰り返しては長屋の子供達らとお餅片手に舌鼓打ち乍ら心底笑い転げていた。
そんな矢先、とある茶店から出て来た江戸城下の若手侍らが偶然その場を通りがかり、子供らの余りに賑やかさ、そして異常な盛り上がりに足を止め、人垣掻き分け円内を覗いてびっくり、連中の1人が大声を上げ、彼らの気を引いた。
「オイッ!あそこに立っている町人風情の真っ黒した出で立ちと言うか、お姿は紛れもなくうちの若君その者ではござらぬか?」
「え?どこだ、どこだ?あ、居た、居た!確かに身長と言い、あの右腕に見える3つの黒子と言い、間違いなくうちのお世継ぎ様に相違ないぞ!」
「若様、若君様―っ!一体そこで何を成されておいでですかぁ―っ?」
「えぇ?お殿様の子供だって?」「聞いたかよ、みんな!」「若君様だって?あの江戸城からおいでなさった高貴なお侍さんの子供…?」「ど、どうしよう!」と長屋の子供たちはお互い顔を見合わせ、終始困り顔。あれだけ賑やかだった舞台が一転して静寂な空間に…。
あちらこちらで何やらひそひそと囁きが始まる中、当の本人とてどうしようもなくバツが悪いくらい気まずさを感じてしまい…。
「どうしよう?きっとまた“良いとこの倅が暇潰しに庶民の暮らしを物見見物しに…?”とか“全くいい気なもんだな、“俺たちみんなをすっかり騙しやがってこの野郎!”って思われているに違いないと悟った彼は、居ても立っても居られず、隙を見てその場から立ち去ろうした、正にその瞬間…???
“ビチャッ!ビチャ、ビチャ、ビチャ!”
なんと若君の右目に黒い墨で大きな丸が…そればかりか左頬にはこれまたドデカイ×印が…!そして筆を持った幼い女の子が若君に向かった楽しそうに、嬉しそうに近寄って来て…たどたどしい言い方してにっこり微笑んで…一言。
「あたい、お兄ちゃんが誰だか分かんないでちゅけど、負けたんだからお仕置きでしゅ!」
すると周りのみんなもこぞって若君を取り囲み、「今度は僕と!」「何を言うか、若様の相手はこの俺だそ!邪魔だ!あっち行ってろ!」「何だと?」と言い争いながら彼の取り合い合戦が見事に勃発!ある者は袖を引っ張り、またある者は腕をつかみ取り…と途りの突然の手荒な歓迎ぶりに彼はとうと大声を上げて泣き始めた!
それを一部始終見ていたご城下の若手志士らは、一斉に怒号を上げ…
「な、何という無礼千万!若君と知った上での許し難き狼藉の数々!今すぐその場で皆手打ちにしてくれるわぁ!」と言うが早く彼ら皆、脇に刺した日本刀を抜いて子供たちに襲い掛かる、正に殺気だった、その瞬間、またしても緊張感を打ち破るかの如く、更なる雄叫び、怒号が…!
「え~い、止め―い!者ども!今すぐその荒々しい凶器沙汰の抜刀を脇へと収めよ!さぁ早く…わしの言うことが聞けぬと申すかッ?」若君の影武者で在り、密使を仰せつかった影の要人、早乙女右平の空を切る叱責と鋭い眼光が連中へと一斉に向けられる羽目に。
「で、でも…右平殿!こればっかりは…若君の一大事では…ごさらぬか?」
「え~い、問答無用!わしの命令は若君様の命令でもある。逆らうと言うならそれなりの覚悟はできているのだろうな!ならばお主から今すぐそこへ直れぇッ!」
「い、いえ、滅相も無い!どうかご勘弁の程を…!」
「お主ら何年武士をやっているのだッ?若君様の涙が悔し涙か、嬉し涙かの区別もつけられんとは情けない!恥を知れ!そしてもう一度若君様を特とお見受けせよ!」
早乙女右平の指摘した通り、若君はその場で泣き崩れながらも女の子の両腕を持って何度も何度も涙声で「ありがとう!本当にありがとう!」を繰り返し叫んでいた。
自分は“籠の中の鳥”、どこに行っても誰に会っても一人の人間として真面に扱われた記憶は無く、始終特別扱いされ、見え透いた優遇措置の数々に殊の外嫌気が差し、また殻に閉じこもっていた彼の心の扉をこじ開けてくれた長屋の子供たちの、温かく純朴な心遣いに若君は心を打たれ、感謝の涙を流したのだ。ただそれだけのことであったはずなのに…。
ところがその後悲しいことに、この噂が噂を呼び、有ろうことにか更に背びれ、尾びれがついてしまい、とうと“長屋の子供らが寄ってたかって一人の純粋無垢なお世継ぎ様を虐めた!”と言う瓦版まで出る始末!案の定子供の親たちが全員奉行所へとひっ捕らえられてしまうことに。その中には八つあん、熊さんも例外では無く、暗い表情で足取りも重く悲壮感漂わせ、無言のまま出頭させられた。また長屋界隈では女子供のすすり泣く声が幾つも聞こえて来た、
明朝申の刻(午前8時)、冷たい土の上に両手を後ろで縛られた長屋の男衆30人がそこに正座して今から始まる審理の行方を無言のまま息を吞んでいた。
“江戸町奉行 与力 近藤左衛門の上様のおな~りぃ!”
「苦しゅうない、皆の者!一同に表を上げぃ!では早速若君様から頂いた訴状について単刀直入に申し上げる旨、一言一句聞き漏らすことの無きよう、しかとその胸に刻み致せ!」
「は、は―ッ!」
男衆30人は神妙な面持ちで皆一斉にその言葉通りに首を垂れ、膝まづくことに…。
「では申し上げる!いつぞや若君様が長屋の子供たちと羽根つきした際に一人一人から罰として墨の洗礼を受けてしまったことに幾ばくかの相違はないか?」
「はい。おっしゃる通り、うちの倅の不始末全て私ら親共の全責任!如何様にお咎めを受けようとも何ひとつ異論はございません!何なりと死罪等お申し付け下さいませ。何なら今すぐこの場で私めが腹をかっ切ってでも…」
「待て待て!そう早まるでない!その武士に通じる心意気と人情に厚い貴殿らの子育てがこの国の未来を明るく支えていくであろうこと、この私が今しかと見届けたぞよ!よくぞ、子供たちを立派に躾けて下さった!若君様に代わってこの左衛門の上がお礼を申し上げさせて頂く。」
「…と、申しますと…?お代官様!あっしら全員、無罪放免ってことで…?」
「あぁ、勿論だ!そればかりではない!若君様から“くれぐれもよろしくとのこと!あの日の思い出は決して忘れない!私の一生の宝にしたい!”とのお褒めの言葉も頂戴しておる。」
「おいッ、おめえら、聞いたか?うちの若君様、そして左衛門の上様は日本一素敵なお武家様だぞ!今年も美味しいお米たくさん作って皆さんに召し上がって貰おうじゃねぇか!なぁ、みんな!絶対気を抜くんじゃねぇ―ぞ!」
「当た棒うよ!てめぇんとこの不味い米たぁ訳が違うんだい!見てろって!」
「何だと?もういっぺん言ってみやがれ!うちの米は江戸一、いや日本一の米なんだぞ!文句あっか!やるならおもてに出ろぉい!」
「上等だ!この野郎!…って手が?手が…縛られて全然動けねぇや!」
「おぉ、私としたことが罪も無い其方らに手荒な真似して本当にすまぬ!許せ!おい!今すぐ彼らの縄を解いてやれ!ただし、城内での喧嘩は、ご法度だそ!良いな?」
「勿論でさぁ!さっきは単なる物の弾み、本気じゃござんせんよ、ダンナ!えへへ!」
この時代、世の中、身分上下の差はあれど、突き詰めてみれば所詮、人間皆同じ。故に相手を常に思いやる温かい心こそが人生にとって一番大事な宝物なのかも…。そう思う、のがみつかさ“瓦版レポーター”でござった。 (終わり)
長時間のご閲覧、誠に有難うございました。
私、のがみにとって人生初、初めて書いた時代劇小説でして、今日この日の為書き下ろした次第なのですが、今回は、ある実話をヒントに3日前から構想を練り、架空の物語を仕上げました。その実話とは、これとは似て非なるもので私、のがみが高校生時にテレビニュースで渇見した、令和天皇陛下様のお姿でした。当時、陛下は皇太子浩宮様としてまた、かの有名な学習院大学4回生の学生としてまもなくご卒業をお迎えになるご用意が出来てらして卒業間近の恒例行事として…私個人認識しているのですが、ご学友のお仲間たちが陛下に対して嘘偽りない、心からの、底知れぬ愛情表現として陛下を持ち上げ、大学構内の池に怪我の無いようとは言え、遠慮なくと申しましょうか、思いっきり手加減なく一斉にドボン!されたのです。余りの衝撃的ニュースに私自身言葉を失い、「何て酷いことを!此の方を一体どなたと心得る?」(どっかで聞いたことのあるセリフ?)言うが早く両親が「これだよ、これ!これこそが真の友情、愛情なんだよなぁ!お友達も皇太子さまも泣かせるねぇ、実にアッパレ!お見事!」って頷いた様子を見て私自身、ハッと気づかされました!「そ、そうか、そうなんだ!そういうことだったんだ、本物の友情とは!忖度なんて有っちゃいけないんだよ、友人間では…絶対!」
“事実は小説よりも奇なり”
の如くお互いどれだけお悩み続けたことだろう…?私の拙い小説に比べたらよっぽど説得力ある昭和の素晴らしいヒトコマでした。ネット検索では絶対出ては来ませんが…。
改めて令和天皇陛下様、お誕生日おめでとうございます!これからももっとお慕い申し続けま~す!
《追伸》
令和6年も明けて早2ヶ月と23日が経ちました。能登地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。昨今ボランティアの方々の現地救援活動も開始されたという嬉しい知らせを受け、復興へ向けての実現化が始まりつつある気運に私自身日々関心が強くなっている今日この頃です。どうか一日でも早く被災者の方々に安らぎが訪れんことを心より願っております。(←そんな事しか出来なくてごめんなさい。)




