館へ
二〇一九年 七月十二日 岩手
ここは岩手県に位置する港だ
パーティーに招待された者はここへ集う
現在着いている者はトルテ、ヒメア、シラユキの三人だけ
他二人と初対面のトルテは緊張していた
「あの、君ももしかして招待されて……?」
ヒメアはトルテに聞いた
「ひゃっ……えあ、っ……はい」
緊張で言葉が上手く出ないトルテ
「船は何艘もあるし、私たち先に行こうと思ってるんだけど……」
ヒメアは「あっ」と自己紹介を忘れていたことに気づく
「やあ、フェアリーズ! 私はヒメア、アイドルさ」
その後、この場は静まった
何を返せばよいか分からないトルテと、トルテが何か話すのを待つヒメア
これが俗に言う修羅場だ
「私はシラユキ。君の名前を聞いてもいいかな?」
「は、はい! と、トルテと申します」
シラユキは微笑む
「えっと……あ、あの……失礼を承知で伺うのですが……えっと……足何があったのかなとか……少し気になったり」
「そんなの初対面の相手に話せるわけないでしょ」
ヒメアは怒り、トルテの胸ぐらを掴む
「ご……ごめんなさい」
シラユキは大きく手を叩いた
「ヒメア、手を離して 私は別に気にしてない」
「お姉ちゃん……。お姉ちゃんが言うなら」
ヒメアは胸ぐらから手を離す
シラユキはトルテの方を向き
「妹がすまないね。この目は生まれつき 足は……訳ありで話せないんだ」
「いえ、そんな……私が百悪いです。本当にごめんなさい」
トルテは泣きそうになっていた
「本当に気にしないでくれ それより船が何艘も停泊していると思うのだが、私たちは他を待たず先に行こうと思っている。トルテちゃんも一緒どうかな?」
「えっ……わ、私なんかがいいんですか?」
シラユキは車椅子を動かしトルテに近づく
「ああ。来てくれたら嬉しい」
「そ、それではお願いします」
その後三人は船に乗り、船は出航した
「さっきは痛かったよね ごめん」
「謝らないで下さい……私が悪いんですから」
ヒメアは笑った
「この話はここで終わり。いいね?」
「は、はい!」
時刻は十二時半 シラユキは聞いた
「トルテちゃんはお昼食べた?」
「い、いえ、パーティーもありますし、食べてきませんでした」
「到着は夕方くらいになる」
シラユキは沢山のハンバーグが詰められた弁当箱を二つ出した
「よければ食べる? 少しヒメアの好物が多くなってしまったけど」
─トルテ─
好物が多くなってしまったって……
ハンバーグしかない……でもお腹も空いたし
「本当に頂いていいんですか?」
「お姉ちゃんがいいって言ったらいいの。お姉ちゃんの手料理を食べれるなんて、トルテも幸せ者ね」
ヒメアは何故か照れていた
─トルテ─
お姉ちゃんの手料理?
っ……
「あの、目が見えなくても、その……料理って作れるんですか?」
「私ほど耳が良くないと不可能かな? 後は記憶力も大切」
「そ、そうなんですね……」
─トルテ─
耳? 記憶力? それって料理に関係あるのか?
いや、焼き加減とか耳で分かるのかな?
「胸がとろける!」
その言葉を聞き、ふとヒメアの胸を見た
トルテは己の無き胸と比較し心中で泣いた
「ヒメア、悪いが食べさせてくれ」
「任せて!」
ヒメアはシラユキにハンバーグを食べさせた
これは姉妹故の間接キスであり、ヒメアも赤の他人にこうはしない
「お二人は仲良しなんですね」
トルテは微笑んだ
「仲いい……たしかにな」
「お姉ちゃんとは生まれてからの付き合いですので! ってね」
トルテは声を出し"んふふふ"と笑った
ヒメアもつられて笑った
シラユキも小さく笑う
船は進み 無人島が見えてきた
無人島は海に囲まれた丸い島
島は広く、中心に大きな館がある
館の周り、そして停泊所から館までの一本道だけには木々が無く、まるで通れと言われているかのよう
そして島の至る所に廃家はある
「ここ本当に無人島なの? 無人島ってのは人のいない島を指すのであってだね」
と一人解説を始めるヒメア
そして無人島へと到着し
船を降りた三人
無人島は空気が美味しくヒメアは深呼吸をした
「んで、結局あの大きい家でいいの?」
ヒメアの言葉にトルテは首を傾げた
「とりあえず行ってみる?」
シラユキがそう言うとヒメアは車椅子を押し始める
「お姉ちゃんが言うなら行くぞ!」
「えっあの……ヒメアさんはお姉さんを信頼されているのですね……?」
「勿論! お姉ちゃんは天才で可愛いからね!」
トルテにその言葉が真実だとうと過大評価だろうと、どちらでもよかった
トルテは姉という存在を羨ましく思っていた
そして館への一本道を歩いていた
不気味な風は吹き 背筋の凍るような道だ
「あの……その……」
トルテは何か言いたそうだった
「どしたの?」
「あれ」
トルテは指指す
その方向にはボロボロの男が仰向けで倒れていた
「おい、そこのフェアリーズ、大丈夫か?」
ヒメアはそう言いゆっくりと近づく
男はピクリとも動かない
トルテはいざとなればショットガンを構えようと考えていた
ショットガンと言えどエアガンだ
「ゔゔっ……」
男はそう唸り声を上げた
「ぎゃっ!!」と驚き声を上げるヒメア
銃声がしたのはその時だった
倒れた男の頭に向けて一発
「「ぎゃぁぁぁ」」
トルテとヒメアは悲鳴を出した
男の声は消えた
そして森の方から人影が
「あんた達大丈夫だった?」
少女は聞いた
「ちょ、何やって」
「ほほほほ、本当に何やってるんですか!? この人たぶん……死んじゃいましたよ?」
戸惑うヒメア 続いてトルテも言葉を出した
「問題ないわ。そいつはゲーションって言って、化け物の一種よ」
─トルテ─
この島では男性の方は化け物?
そういうことだと思うけども……
こんなの酷い
と思ったトルテだが、何も言えなかった
なぜならトルテは人と話すのが苦手だからだ
「ゲーションに噛まれた人間はね、ゲーションとなって人を襲う……ゾンビ? みたいなものよ」
─トルテ─
あれ? 本当に化け物って意味だったんだ
しかし頭を銃で撃たれるなんて……少し同情しちゃう
─ヒメア─
ゲーション? にわかには信じがたいけど……きた
これって映画とかでよく見るやつだよね!?
島に取り残されて……って、まあ船で帰れるけど
ヒメアは振り向き港を見た
ヒメアはその光景に青ざめた
「船がない!!」
「これって……閉じ込められた感じ……ですよね?」
─シラユキ─
ゲーションの溢れる島
逃げ場はない
なるほど、敵はおそらくそれを狙って
「ゲーションは日に弱いけど、影の多い森なら日の出てる時間でも動けるわ。あなた達が何故この島に来たのかは知らないけど、あの大きい館を目指しなさい」
少女は館を指指した
「分かった! えっと、君の名前は?」
ヒメアは聞いた
「メラア。この島に閉じ込められてから五年よ。よろしく」
そして三人も名前を名乗った
「しかしあの館は?」
シラユキは首を傾げる
「あれは私が来るより前からあった空き家。今は私が住んでいるわ」
「そう、ならありがたく使わせてもらう」
そして館まで向かう途中、三人は会話をしていた
「にしても怖かったよお」
ヒメアはシラユキの膝に抱きつく
「ちなみにトルテちゃんって、少しは戦えたりする?」
「えっ……はい。一応少しだけ凄いことができます」
トルテはそう聞かれるのを待ってたかのようにワクワクとしていた
「なるほど……つまり、敵の狙いは強い人間を島に集めて、一気に消すこと……とかかな?」
「「ええぇぇ!?」」
トルテとヒメアは驚いた
─トルテ─
敵の狙いがシラユキさんの言う通りだとするなら……
この島に呼ばれ船は消え……説明がついてしまう
「いや、私とお姉ちゃんの力があれば消されるなんてことない!」
姉と自分に自信満々のヒメア
「敵の罠なら、さっきのメラアちゃんも敵かもね」
「お姉ちゃんが思うのならメラアちゃんも敵!」
トルテは疑問に思った
「敵は誰であれ、目的が分かりませんね」
「だから私達を消すことでしょ?!」
「い、いえ……その、消す理由が分からないということです」
ヒメアは顎に握った手をやる
「確かにね。仮に消されたとして、敵になんのメリットがあるのよ? ねえ、お姉ちゃん?」
シラユキは答えた
「考えられる筋は幾つかある しかし、正確な狙いを推測するには情報が少なすぎるね」
そうこう話してるうちに館へと到着した
シラユキは大きく手を叩く
「大きい館だね」
「さっきから思ってたんですが、シラユキさんって目見えないんですよね? なんで色々と分かるんですか?」
トルテは首を傾げる
シラユキは少し笑った
「手を叩くと音が反響するよね そして音が返ってきた時の僅かなズレを利用して、物や生物の正確な位置、形を把握しているのさ。色が分からないのは残念なところ」
「す……凄い。人間業とは思えない」
「目が見えないと聞くことくらいしかやることないからね」
そして館へと入った一同
館内は埃で汚れており、下手な絵がいつくも飾られていた
下には赤いカーペットが敷かれており、階段もいくつかある
「うわ、下手糞な絵。私ならこれの一点五倍は上手く描ける」
ヒメアは謎にマウントを取った
シラユキは手を叩く
「何かいるね」
シラユキは正面の一番大きな階段の上らへんに向く
「お姉……ちゃん?」
トルテはシラユキの向く方を見た
「あれは……」
「トルテちゃんまでどうしたの?」
トルテは指差す
ヒメアは指の差す方を向いた
「人?」
向く方には桃髪で長髪 不気味なほど真っ赤で大きい目
少女の顔は微笑んでいた
「あっ……あ」ヒメアは恐怖で気絶し、後ろへバタリと倒れる
「ヒメアちゃん!!」
─シラユキ─
私達を招待したのはあいつか?
そうならば話は早いのだが
「名を聞いていいかな?」
シラユキは聞いた
「ワヨはサカツキってな まあ招待されてきたんやが、お前らがワヨを招待したってわけでもなさそうだな」
「わ、わよ?」
トルテは聞き返す
「触れるなガキが殺すぞ」
「ひえっ……」
トルテは泣きそうになる
「どちらかと言うと私達も招待された側でね」
シラユキは冷静そうに言った
「そか、ほなら招かれた者同士仲良くするか?」
「分かった 仲良くしよう」
─サカツキ─
こいつらとエスタを会わせるのはまずいか?
面倒なトラブルになりそうだが……
「ちなみに招待されたのはワヨ等の他に、お前ら三人だけか?」
「私の知る限りでは、妹のヒメア、そしてさっき偶然会い、ここまで共に来たトルテちゃんだけだね。逆に聞いても」
サカツキは階段をゆっくりと降りる
「オケ。ワヨ、んでワヨの仲間一名、そしてその仲間の連れで三人。遅れて仲間と呼べるのか不明なゴミ三人も来る予定」
─トルテ─
この人絶対にやばい
ゴミとか言っちゃってるよ……
本人が聞いてたらとか不安にならないのかな?
そしてサカツキは階段を降り終え
「んじゃあこの島には現在六人いるわけだな」
「いいや」
シラユキは否定し
「さっきここに住んでる子に会った。つまり最低でも七人はいるね」
「んふふ 何故に船が去っていたのか……。検討は付いているが、一つ……主催者はこのパーティーに参加してくれるのかな? なあ?そこの銀髪よ」
サカツキは少しかがみ、車椅子に乗っているシラユキと顔を近づける
「これがミステリー小説ならば犯人は既に登場済みか? ここが物語でないなら、犯人もとい主催者は参加しないという手を打つか?」
「さ……サカツキ……さん?」
トルテは小声で名を言った
シラユキは淡々と話し始める
「主催者……そうだね。私の考える主催者の目的通りなら、主催者がこの島に来るメリットはない。つまり後者、参加しないという手を打つ……かな」
「なるほど……異論はない」
そしてサカツキは顔を上げる
「部屋は好きなところを使えよ あー、ちなみに黄色い扉だけは入らないほうがいい。ワヨはキッチンを探してくるで」
サカツキはそう言い左へと歩いていった
─トルテ─
助かった……サカツキさん明らかに威嚇オーラみたいなヤバいの出てたもん……
ほら、ヒメアちゃんも、こんなになっちゃって……
「ヒメアちゃぁーん!!」
トルテは泣き叫ぶ
ヒメアは起き上がった
「私が死んだみたいな叫び方するなよ!!」
「ごめん……」
「にしても、私何やってたんだっけ?」
その後、三人は正面階段を登り上へ
正面階段以外に、左右に一本ずつ階段はあり、全て二階へと繋がっている
正面階段を登る先にすぐ見えるのは黄色い扉
そして左右に一つずつ扉
その更に左右に一つずつ扉が
これが続いており、黄色い扉を中心に計九個の扉がある
左の階段から行けば一番左の扉前に登り着き、右階段から行けば当然一番右側の扉前に登り着く
ちなみに扉同士の間は五メートルほど
館は外装の大きさに反し、二回までだ
一階には迷路のような廊下があり、キッチンを探すもトイレを探すも一苦労
サカツキと別れた時から五時間が経とうとしていた
既に夕方