孤児院にて
お読み下さりありがとうございます。
「ネブラスカ様~!今度はこっち~!」
「はい!分かりました。こちらですね。」
ガヤガヤと孤児院の外に設けられた小さな遊び場で子供たちの声が聞こえてくる。
教会に併設された孤児院には15人の子供達が慎ましく暮らしている。
ネブラスカが幼少期塞ぎ込んでしまい家に閉じこもっていた頃、それを見かねた夫人がいつも寄付する孤児院へと一緒に訪問したことがきっかけでそれ以来ネブラスカは足繁くこの孤児院と教会、懺悔室に通っている。
ネブラスカは差し入れとして持ち込んだ絵本を読み聞かせしている。とは言っても絵は所々しかなく色も無いが、それでもワクワクする物語を聞けるとあって毎回みんな肩を寄せあって聞いてくれる。大盛り上がりだ。
「『そんなことはさせないぞ!いざゆかん!』」
「「「「ゆかん!!!」」」」
冒険物語はいつも男の子たちに大人気でみんなノリノリで参加している。ネブラスカも絵本の役に入り切っている。
「こうして勇者一行は無事お姫様を助けることが出来ました。
おしまい。」
そういうとパタンと本を閉じた。
「お姉ちゃんありがとう~!」
うふふ、可愛い。大空の下みんなの笑顔を見てると何もかも忘れて嬉しくなってしまう。
パリッ
「ん?だあれ?」
小さな女の子が小枝を踏む音が聞こえた門へと目線を送るとそこにシルヴィオが立っていた。
「シルヴィオ様!」
ネブラスカも驚いてその場で直立した。
「やぁ、ネブラスカ嬢、突然すまないね。」
「王子様?」
「いや、勇者様だろ。」
「えー、騎士様じゃない?」
「きゃ、かっこいい!」
「しっ、聞こえてしまうよ、あっちへ行こう」と、気を利かせた年長の子供によって子供達が孤児院の中へと入っていった。
「すまない。邪魔をするつもりではなかっんだが。」
そう言うとネブラスカがいた場所まで歩いてきた。足が長いので数歩である。シルヴィオの後ろから夕日が当たって神々しい。
眩しすぎて目を細めながらネブラスカが挨拶をした。
「先日は失礼をいたしました。オールドネイ公爵が長女、ネブラスカ・オールドネイでございます。」
綺麗にカーテシーをする。
ネブラスカの今日の装いは濃いめの紺色の足首まであるシンプルなAラインワンピースだ。装飾品も上半分をまとめあげた髪に水色の小粒なピアスが光るのみ。それがまた清楚な雰囲気を醸し出しネブラスカの儚げで凛とした姿に合っていた。
一方のシルヴィオも今日は勤務時間外なのか質の良さそうなシンプルなクリーム色のシャツに黒のパンツを履き、腰には使い込まれた立派な剣を下げている。髪もまた耳元の左下で纏めて紺色のリボンをくくっている。
「あの、先日は急に逃げ出…去ってしまい、申し訳ありませんでした。」
腰を折って頭を深く下げた。
「いや、こちらこそ突然の申し込みに自分の名前すら言わず、申し訳なかった。私はガルダン国騎士団長のシルヴィオ・ヴァイツだ。先日伯爵を陛下より頂いた。」
そう言うシルヴィオの声は低く落ち着いていて、耳に優しく響いた。
(騎士様だからもっと物々しい方だと思っていたけど物腰が柔らかいかたなのかしら)
想像と違って優しく接してきたシルヴィオに戸惑いつつじーっと顔を見つめる。
「ときにネブラスカ嬢」
はっ
「はい」
ついつい猫背になっていた背筋をピンと伸ばす。
「この後少し話をしないか。」
(もうお父様があの件に関しては断ったと思うのだけれど、ここで断るのも失礼よね)
「分かりました。その前に孤児院のみんなに挨拶してきてもよろしいでしょうか。」
「では皆さんさようなら。」
「お姉ちゃんまたね!」
「また来てね~!」
帰り支度を終えドアを開けようとした時小さな女の子が耳元でこしょこしょ呟いた。
「あの王子様のこと、頑張ってね!」
「しっ!こら!」
年長の女の子が慌てて小さな女の子を抱き上げる。
困った顔のネブラスカではあるが、ここは1つ平和な解決法としてにこりとそちらに微笑んで孤児院のドアを閉めた。