キューピットは誰だ?
お読み下さりありがとうございます。
やっと!やっとシルヴィオが出てきました。ちょっとほっとしました。
「来たか。」
「は。」
目がくらむほど豪華絢爛な部屋では王子がこれまた趣向を凝らしたソファに片足を組んで深く座っている。
その前にシルヴィオが片膝をついて跪いている。
豪華な内装に負けない煌びやかな装いの王子は少しウェーブしたハニーゴールドの短い髪をクルクル指で回しながらシルヴィオを見る。
「楽にして良い。」
その言葉でシルヴィオも頭を上げ王子を見る。
その目は深い緑。銀色の長い髪に緑色の少し横長の目、少し薄い唇に鼻筋が通った綺麗な面立をしている。特に左目の下にあるホクロが凛々しいなかにも色気をこれでもかと醸し出している。
「うん、今日もかっこいいな。」
シルヴィオ・ヴァイツは総じて色っぽいのである。
「殿下。殿下がそれを申しますか。」
殿下も大変見目麗しい。吸い込まれそうな青い瞳を幾分薄めてニヤッと笑った。
「難航してるようだな。」
「それに関しましては殿下に紹介していただいたにも関わらずこの様な結果になってしまい申し開きもございません。」
そう言うとまた深深と頭を下げた。
「いや、君はそういうのタイプじゃないもんね。知ってたのに詳しい話もしなかった私も悪い。」
「申し訳ありません。」
「君、最初に名前も名乗らなかったんだってね。」
くすくすと笑いながら王子、アンドリュー・メイデン・ガルダンがシルヴィオを見ている。
「お恥ずかしい話ですが、早く要件を言わなければとつい焦っていたようです。」
ぶっ
「あはは、いくらなんでも早すぎでしょ。」
そうしてシルヴィオにも着席を繋がす。
確かに何故そんなに自分は焦っていたのだろうか。
シルヴィオも座った所でメイドがお茶の用意をすると静かに壁へと下がっていった。
「私もあの後考えてみたのですが…多分雰囲気に飲まれたのかと。」
「へぇ。一騎当千と言われた君が?」
「それは私以外からの評価です。決してそのような力はありません。」
シルヴィオは自分の持つ力にはきちんと理解してるが行き過ぎた評価に辟易としていた。若干眉をひそめたシルヴィオもまた色香を出しており部屋の隅に居るメイドや護衛までもがため息を無理やり飲み込んで静かに見守っている。
「一騎当千。そんなの現実的に考えて無理でしょうに。そのようなことをほざく暇があれば鍛錬せよと部下には都度申しております。」
「確かにな。けどそれくらいの働きはあった。そこはちゃんと受け止めて欲しい。」
数年前まで頻繁に起きていた隣国との戦に終止符を打ったのはここにいるシルヴィオだ。
『一騎当千、妖艶なる貴公子 シルヴィオ・ヴァイツ 隣国との戦争を終焉に導く』
その知らせは瞬く間に国境から王都へ、そして国中へと回ったのだった。
その結果シルヴィオは子爵から伯爵へと陞爵したのだ。侯爵にとの申し出を断り、その代わり伯爵と共に王都に邸宅を下賜されたと聞く。
もちろんそれからの夜会ではシルヴィオの居場所は女性の群れを見たら分かると言われるほどとなった。
「してシルヴィオよ。ネブラスカ嬢はどう思う?さっきは雰囲気に飲まれたと言っていたが。」
「そうですね。彼女は何か、他の女性と違いました。儚げだが芯があるような…手放してはならないような焦燥感さえありましたね。」
「ほうほう。」
「…殿下、楽しんでますね。」
「もちろんさ!私には既に婚約者が居るからね。こういう浮ついた話は聞いていて楽しいよ。」
アンドリューは近々戦のあった国と反対側に位置する隣国の第2王女と結婚する予定だ。そうして隣国との関係を強固にして行くのだろう。
「どこが浮ついているのか分かりかねます。」
未だ眉間にシワがよっている。少し顔を傾けたシルヴィオが発する深い声に壁際のみんなが悶えるのは当然のことである。
「いつもと違うのだろう?嫌ではなかった?」
「そう、ですね。嫌な気持ちにはなりませんでした。むしろ」
(夜会では早く終われ鬱陶しいとまで思っていたが…)
「むしろ?」
む、とした顔を隠そうともせずシルヴィオがアンドリューを睨む。
アンドリューは綺麗にスルーしてニコニコとシルヴィオの答えを促す。
「むしろもう少し彼女と話をしてみたかったです。」
そう、もう少し、あとほんの少し、彼女と話が出来たら。あの壊れそうな細い手に触れられたら。そのような名残惜しい気持ちが積もりに積もり、部下にアドバイスを貰いながら手紙をしたため、プレゼントを選び送ったのだ。
(案外楽しかったな、ネブラスカ嬢に似合うものを探すのも)
それを聞いたアンドリューは鼻の穴を若干広げてうむうむと頭を縦に振った。
「そうかそうか!では私の出番だな!待ってろシルヴィオ、この私アンドリュー様がネブラスカ嬢と会わせてやろう。」
そう自信満々に言い放ったアンドリューにまたもや眉をひそめたシルヴィオであった。