懺悔室にて神父様を困らせてしまいました
お読み下さりありがとうございます。
「神父様、わたくし家を出ようと思うのです。」
「っごほっ。またまた、今度はどうしたのかな?」
ここは教会の懺悔室。ネブラスカは懺悔室で話を聞いてもらうことで気持ちが軽くなることを知ってからよく通っていた。外出先が今や教会しかないのも理由の一つである。
今日も朗らかな春の日の元、教会に連なる孤児院へ差し入れを行い、お祈り帰りに懺悔室へと赴いたのだ。
「私がいると皆様に迷惑をかけてしまうのです。」
いえ、本当にずっと昔から迷惑ばかりおかけしているのですが…とジメジメ自虐が続いている。
「ふむ。もう少し詳しく話してくれるかい?」
「あの…神父様は驚かれるかと思いますがわたくし先日ぷぷぷ…ロポーズを…」
「ん?」
「あの、プロポーズを受けてしまいまして…私ごときに一生の伴侶になって欲しいなど恐れ多い…そのような奇跡のような悪魔のような考えたくもない出来事がありまして…」
「ほほぅ、私ごときと言ってはいけないよ。それにプロポーズおめでとう、と言っていいのかな?」
「実はお断りしたのです。その場で。でもその後、家の方に手紙とプレゼントが山のように届きまして…しかもその全てがわたくし宛なのです!」
「なるほど。お断りされたのに山のように届いたんだね。」
「はい。家族とメイド達以外で初めて頂きました。」
お互い顔は見えないまでもネブラスカは下を向いていた顔をバッと上げ、カーテンの閉まる小さな窓を見た。
「そして知ってしまったのです。プロポーズの相手の方がかの有名な…」
「有名な?」
「シルヴィオ様だったのです!」
あぁ、お名前を言うのも恐れ多いです…
そう言うと両手で顔を隠してしまった。
「ほう、あの一騎当千と名高いシルヴィオ・ヴァイツ騎士団長殿ですか。」
ここでやっと相談役の神父さんからのきちんとした返しが来た。
相談役とは即ち9割方聞き方に回ることが大事なのだ。
「ぐずっ… そうなのです。そんなこの国にとって最高峰の誉れ高い方がどうして私ごときにプロポーズされたのでしょうか。あれからずっと考えてしまいどうお返事を返せば良いのかも分からず…結局家族に返事を書いて頂く事になってしまいました。わたくし、自分が本当に嫌になります。」
濡れたハンカチ片手にネブラスカの声も徐々に小さくなっていく。
手紙には先日の詫びとシルヴィオの自己紹介、そして改めてのプロポーズの文が綺麗な字で書いてあった。サインを見るに長い手紙も本人が書いたもののようだった。微かに爽やかな香りのする便箋を震えながら何度も読み返した。
開くまでに数日かかったのは言うまでもない。
読んでいる間涙がこぼれ落ちそうになるとサリーが拭ってくれた。抜かりない。
それに加え淡い色の花束や紫の石が花の模様で散りばめられた華奢な作りの綺麗な髪飾りや首飾り、ネブラスカに似合いそうな可愛らしい帽子など沢山送ってきたのだ。
「それでもう、わたくし家を出てひとりで暮らしていく方が良いのではないかと思いましてこうして相談させていただきました。」
こんな相談に神父様の貴重なお時間を頂戴してしまい申し訳ありません…と蚊の様な声が壁越しに聞こえる。
「どうして家を出ないといけないのかい?」
「わたくしはかの方に相応しくありません。きっと何か事情があると思うのですがわたくしには恐れ多くて…勿論我がこうしゃ…いえ、我が家は少し大きな家ですからそれなりにお互い有益な関係を結べるとは思いますが…それでも私には無理です。無理な自信しかありません。」
(どんな自信なんだ)
「どう考えても分不相応。お断りしないといけませんしそうなりますとかの有名な方がお相手なのです。結果的に家に多大なる迷惑と大いなる不利益、挙げ句風評被害も出てきてしまいます。さすれば我が家は大暴落すると思うのです!」
と、言い切るとおいおい泣き出した。
(今日も安定のネガティブ思考だな)
神父もゆっくり時間をかけて考えをめぐらせる。
(まぁあの家族に限って一人暮らしなど許してはくれまいよ)
相手にこちらが見えないことをいい事に、神父は何かを思い出したのか、ふふっと笑った。
ちなみにネブラスカは神父にバレてないと思っているがもちろん身元は完璧にバレている。
そして相談役はこの教会の神父だと思っているネブラスカだが、実は何を隠そうこの国ガルダン国の王太子殿下だ。
(ややこしくなってるな〜最初が悪いぞ、シルヴィオよ…)
民の声を聞きたいと単発的に始めた相談役だが、特にネブラスカが来る際はなるべく知らせてもらい訪れるようにしている。
彼女の心配事は人からすれば些細なことなのだ。特に王子からすれば。でも何時も悩み苦しみそして頑張っているネブラスカを見ていると自分も頑張らねばと思ってしまう。不思議な子だ。
(放っておけないんだよな~なんとなく)
いつも真面目に相談してくるネブラスカには幸せになってもらいたいと王子自らシルヴィオにネブラスカを紹介したのだ。
(それなのにあいつ…)
(どちらも真面目すぎるな)
相談が終わった後王子は1人小さな部屋でため息を吐いた。
「呼ぶか。」