ネブラスカは意外と真面目なのです
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とある暖かい春の日、5歳になったネブラスカと近しい年齢の貴族の子供達が集まってお茶会をする事になった。
「あら、あの子が?」
「ひょろひょろじゃないか。」
「やだ、震えてるわ、こうしゃくけとして恥ずかしくないのかしら。」
「なんだ、思ったより子供じゃん。」
ヒソヒソと聞こえてくる陰口はネブラスカの耳にも入ってきた。
(初めてのお茶会、楽しみだったのに…)
ハイラルキートップのオールドネイ公爵家はその当時から中級貴族に恨み妬まれていた。どう足掻いてもオールドネイには敵わない、それが親から子へと伝わっていた。
「っあのっ!」
ネブラスカが意を決して話しかけようものなら皆して聞こえないふりをした。
「わー、このお菓子美味しそう!」
「本当に。こっちも美味しそうだよ!」
そろそろお開きの時間になるとネブラスカが一番に席を立つ。
「しょせん、家が凄いのだけなのでしょ?お父様がそう仰っていたわ!」
「そうそう、凄いのは名前だけっ」
「なぁんだ…」
「全然可愛くねぇし!」
キャハハハと後ろから聞こえてくる。
ネブラスカは震える足で1歩1歩馬車へと歩いていった。
その後ろに付いていたサリーの鬼の形相を見た御者はギョッとしたが、程なく屋敷へと帰宅したのだった。
今まで家のみんなに蝶よ花よと愛されてきたネブラスカ。だがそのお茶会は温かみの一切ない全くの別物だったのだ。お子様の貴族デビューの日、ネブラスカは見事にずっこけた。
ネブラスカは落ち込んだ。落ちて落ちて遂には石にでもなるのか?というくらい部屋から動かなくなりやせ細った。
そんなネブラスカだが、家族と公爵家で働く者たちの励ましや優しさのお陰で少しづつ時間が進んでいった。
(きっと頑張ればみんな私を見てくれるわ)そう思い、先ずは出来ることを頑張った。まだ人と話すのが無理だから家庭教師を付けてもらい勉強に励んだ。礼儀作法やダンス、刺繍もコツコツ続けた。そこは腐っても公爵家の娘である。年頃になると素晴らしい刺繍やカーテシーを見せては家族のみんなに褒められるのであった。
「凄いわネブラスカ!繊細で綺麗な刺繍ね。これならバザーに出しても良いのではなくて?」
「そうですか?では今度…バザーに出させて貰えないか神父様へ聞いてみます。」
こうしてバザーに出すようになったネブラスカは家だけだった居場所を教会へと、そしてそこに隣接する孤児院へと広げていった。
そんなある日、商談の客が帰ったあと1人廊下の隅の方で胸を抑えているネブラスカを見つけ、父が慌てて声をかけた。
「どうしたんだいネイビー。こんな所で。大丈夫かい?お、おい!誰か医者をっ!」
「あの、わたくしは大丈夫です。ちょっと息苦しくて…」
そんな!?と顔を青くする父に気付いたネブラスカはそっと土気色の顔を上げた。
「…あの人はお父様のご友人ですか?」
「うん!?そうだねぇ。仕事をする上でこれからたまに会うことになるだろうか。」
「……わたくし、あの方は苦手です。」
「苦手?ネイビーが?」
ネブラスカが他人を苦手だと話すのを初めて見た旦那様は目を大きく見開いてネブラスカの様子を見た。
潤んだ水色の瞳を大きく開いてお父様を見上げる。
「あの方は…とっても嫌な感じがします。息が苦しくなります。」
(ふむ、なるほど。どういうことか。)
「ネイビー、心配してくれてありがとう。私も一度調べてみるよ。」
そうして本当に身辺調査を徹底的にした結果商談相手は隣国で悪どい事業を裏で展開している者だったのだ。
それ以降商談をする際は別室にネブラスカとマグリッドが待機することになった。
「お兄様、息苦しい…」
「分かった。」
マグリッドは静かに従者に目配せをする。
こうして度々裏が真っ黒な人物を割り出しては排除してオールドネイ公爵の危機を救って行った。