ネブラスカを構成する甘いもの
「どうしましょう。絶対無理です。け、結婚なんて。私はこのままずうっとこの家に居るのもだと思っていましたのに…」
ベッドに突っ伏したネブラスカの独り言は続く。
「聞き間違い…ということは無いかしら。
もしくは、人間違いとか…!ありえますわね!」
突然がばっと起き上がったかと思うと水色の硝子のような目をカッと見開いた。
(お嬢様、人間違いではございません。お名前を確認されていたではありませんか…)と、サリーは思ったがそれはそっと心の中に閉じ込めドアのそばでひっそり立っていた。
(またお嬢様の悶々タイムが始まってしまわれたわ…今回は長引きそうね…)
ふぅと息を小さくつくと、サリーは気持ちを入れ替えこれからお嬢様に元気になっていただけるハーブティーの用意やハンカチの補充など、頭の中で計画を立てるのであった。
ネブラスカの家族は仲睦まじい両親に優しくイケメンの兄とこれまた可愛くイケメンなまだ幼い弟が居る。ネブラスカは貴族が通う学校を卒業したばかりの17歳、兄は20歳で当主の手伝いをしているが王太子殿下の覚えもめでたく、婚約者の居ない彼には釣所が山のように届いている。そしてミンディはまだ4歳だ。まだまだ幼いが常に周りをよく見ていて、大きめな水色の目をキュルキュルさせては拙い言葉で周りを癒し従者やメイドの心を射止めていると評判だ。将来がおそろしい。
みんなネブラスカの性格を熟知しており、結婚など無理せずずっと家に居て良いと話していた。兄妹そろって美しい紫の髪の色は父から、薄い水色の瞳の色は母から受け継いでいる。ネブラスカも色白で目鼻立ちもすっとしており、フランス人形の様に綺麗な顔立ちなのだが性格が悲観的過ぎて常に姿勢が悪く目も俯きがちでよく見えない。顔色も常に色白を通り越して青白いのが玉に瑕である。
幼い頃より家にいたネブラスカは1人で部屋にじっとしていることが多かった。外へ出ては周りの負担になると幼いながら思っていたからだ。
まだ小さかった頃は旦那様がよく部屋へとやって来た。
「可愛いネイビー、見てごらん。隣国から取り寄せたピーチャという果物だよ。とっても甘くて美味しいんだ。」
「ピーチャ?」
1人用のソファに座ったま暇だったネブラスカは固くなった身体をゆっくり動かしてと戸口に立つお父様の方へと歩いていった。
「そうだよ、ネイビー。ほら、もう既に良い匂いがするだろう?」
「ほんとです!甘いですね。」
「そ、そ、それでだな、ネイビー、私と一緒にピーチャを食べないかい?」
そわそんしだした旦那様を廊下から見守るのは奥様である。
「もっと堂々と誘って下さいまし!んもう、あんなに練習したのに!」
「…ですが…」
「っ何も迷惑など無いぞ!私が我儘を言っているんだ!私が一緒に食べたいんだ。どうだい?ネイビー?」
少し考えた後にネブラスカはこくんと頷いた。
「コンコンコン」
「はい?」
今度はマグリッドである。
「ネブラスカ!今学校から帰ったよ。今朝ぶりだね。元気にしていたかい?」
今日はお土産があるんだと手に持っていた上品なデザインのお茶菓子の箱をネブラスカに渡した。
「これが今王都で流行っているマッカロンという真っ赤なお菓子だよ。」
「マッカロン?」
この頃のネブラスカも学校には通わず家で家庭教師に教わっていた。自習をしていたネブラスカはペンを机に置き、お兄様の待つ戸口へと急ぐ。
「甘酸っぱくて美味しいらしいんだ。」
マグリッドは学校帰りの制服のままソファへ座るとサリーにお茶の用意を促した。
こうして2人でお菓子を食べるのも日課になっていた。
ネブラスカは決して幼い頃から控えめな子ではなかった。
何故ネブラスカだけこんなにネガティブになったのか…それはネブラスカ5歳の時まで遡ることになる。