愉快なオールドネイ公爵家
オールドネイ公爵は海側に面した広い領土を持ち、1年を通して暖かな気候で野菜や果物の育ちもよく農業が盛んだ。港がある事から海外との取引も多く港町では多国籍の人達が逞しく行き来している。青く光り輝く海を背に色んな国の雑貨屋や食堂が並ぶ街中はちょっとした観光スポットでもある。名だたる貴族達もこの港町に別荘を持つほどである。
勿論当主の腕が無くてはこの大きな領地を回せない。建国当時の王弟がオールドネイ公爵家の始まりと言われ、その手腕からガルダン国の経済的窮地を何度も救った影の立役者とも言われている。それからオールドネイ公爵を継ぐものはもれなくカリスマ性があり、明るく民を導いてくれていると王陛下から下々の者まで広く親しまれている。
そのオールドネイ公爵の保有する王都にある屋敷へ帰るとネブラスカに良く似た男性が笑顔で待っていた。
「やぁやぁ可愛いネブラスカ、今日はどうしたんだい?」
ネブラスカのふんわり柔らかい紫色の頭の上を優しく撫でる。
「お兄様…」
兄を見上げたネブラスカは透き通った水色の瞳にじんわり涙を浮かべたかと思うと直ぐにそれは崩壊し、頬を濡らし始めた。
そう、彼はオールドネイ家長男でありネブラスカの兄でもあるマグリッドである。
細身ではあるが身長も高く常日頃きちんと鍛えており、ネブラスカと同じ紫の長い髪を耳の左下で1つにリボンで纏めている美丈夫だ。
「よしよし。ネブラスカ、少し休んでおいで。疲れていては悪い方へばかり考えてしまうよ。」
この様な事は日常茶飯事と言うようにサッと自然にハンカチを取りだし、マグリッドは涙で濡れそぼった頬を優しく拭いた。
ネブラスカとサリーを優しく見送るとさっと表情が難しいものに変わった。
周りのみんなの雰囲気も一気に緊迫したものとなる。
「サリーはネブラスカに着いて行ったから護衛のエリックか。少し来てくれ。エリオット、代わりの護衛を頼む。」
最初からマグリッドの傍に待機していた執事のエリオットは「は」と頭を下げ玄関を後にした。
そしてその晩ネブラスカを除くオールドネイ家族と護衛やネブラスカに近しい人々の話し合いが夜遅くまで続いた。
「まぁ!」
「なんだって!!」
「ぷろぽおずってなぁに、お兄様?」
「む、む、娘はまだやらん!」
もちろんサリーも護衛のエリックもシルヴィオの事は見知っていたので、ネブラスカ以外の家族の反応は聞いてもなお驚きが隠せなかった様だ。
「い、嫌だ、そんな、私の可愛いネイビーがっ…」
「貴方、鼻水が出ていらしてよ。ほら、しっかりしてちょうだい!これからが大変なんだから!」
オールドネイ公爵家夫妻が横隣りに座ったその向かいにマグリッドと幼い弟のミンディが仲良く座っている。
「お、おにいさま、いたい…」
「はっ、すまないミンディ。少し気が動転していたみたいだ。」
マグリッドは相手の名前とプロポーズの2大打撃で動転してか、優しく撫でていたミンディの頭が今見たら鳥の巣のようにクシャクシャになっていた。
「私の可愛いネブラスカ…っ」
みんなの様子を見ていたミンディがキョトンとした顔で首を傾げお母様も見つめる。
「ですが、良い事、なのですよね?」
その言葉に息を飲んだ面々はミンディを見つめ、わらわらと集まり、心ゆくまで可愛いミンディを撫で回した。
「お、おやめ下さい〜お首が取れるぅ〜!」
そしてみんな思った。
(((ミンディ(様)が居て(居らして)良かった……!)))