窃盗事件が起こる街と占領された研究所
アルス、エリス、ヘスティアの3人はブリーズの街に行く馬車に乗り、エンスタシナを出発した。途中で野営をし、翌日にブリーズの街に着いた。馬車を下りた3人は一先ずギルドが経営している宿に行き宿泊の手続きを済ませると、依頼を進めるために街の人たちに聞き込みをしに行った。
「とりあえず宿は確保できましたし、僕はこっちの方に行ってみますので、向こうの方はお願いします。」
「1人で大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。エリスはヘスティアさんの方についていってください。」
「じゃあエリス、私と行きましょうか。」
何かを察したヘスティアはエリスを連れてアルスとは別の方向に歩き出した。路上に立ち並ぶ店の人や、街行く人に聞き込みをしていると、アルスが心配なのかエリスが落ち着いていないように見えた。
「アルスなら大丈夫よ。何か策があって私たちとは別行動をとったみたいだし。」
「そうなの?」
「そうよ…って言ってる間に早速呼ばれたわ。行きましょう。」
そうして2人はギルドブリーズ支部に寄った後、アルスの向かった方へ歩いて行った。
エリス達と別れた後、アルスは人気の少ない路地裏へと入っていった。
「(レータ、ホーミングアレストスの用意しといて。)」
「(おっけ~)」
周りに聞こえないように魔導書内のレータに魔法の用意をするように言いながら路地裏を奥へと進んでいった。近くの角を右に曲がると、大柄の男性1人とその横に2人の男性がいた。
「ガキが一人でこんな所に来るとはな。」
「ボス、このガキ中々高そうな物身に着けてますぜ。」
「そうだな。このガキも売りゃあいい値段が付くだろ。」
3人の男性がそんなことを話していたため、アルスは話し終わるのをおとなしく待っていた。
「あなた達がこの街で窃盗事件を起こしてる人達ですよね。僕はギルドの依頼であなた達を捕まえに来ました。(あと後ろに4人か。レータ、4人分追加で)」
「(ほいほ~い)」
アルスが3人の男性に対して捕まえるということを言った。横にいた2人の男性は「こんなガキに」と笑い飛ばしていた。そしてボスと呼ばれる男が合図をすると、アルスの後ろから4人の男性が現れた。
「おいおい、面白い冗談を言うガキだなw」
「俺らを捕まえるとか草」
「おまえら!死なねぇ程度に痛めつけてやれ。」
ボスらしい男の声で他の男性たちを含め、一斉にアルスに攻撃をしようとしてきた。しかしアルスが魔導書を開くと、魔力でできたロープがその場にいた7人を追尾して捕らえた。攻撃はどれも届くことなく捕らえられた現状に、ボスらしい男は納得がいってない様子だった。
「てめぇ何しやがった!」
「何って、最初にあなた達を捕まえるって言ったじゃないですか。それで、あなた達は何者で盗んだものはどこにあるんですか?」
アルスが全員を捕らえ、尋問しようとしていたところにエリスとヘスティアがギルドの兵士を5人連れてやってきた。ギルドの兵士たちは拘束された7人の男性を錠で拘束すると、4人で連行していった。
「この度は誠にありがとうございました。やつらは夜陰教団と言われる組織のメンバーなのです。末端のメンバーだと思われますので大した影響力はないと思われますが、この街の被害はなくなるでしょう。後はこちらにお任せください。エンスタシナ王国のギルド二は伝えておきますので、報酬等はそちらでお受け取りください。」
「ではお願いします。」
お礼を言ってくれた兵士もギルドブリーズ支部の方へ戻っていった。その後、アルスは合流したエリスに問い詰められていた。
「なんで私たちに行ってくれなかったの?」
「3人もいたら出てきてくれなかったかもしれないじゃん。」
「それでも一人で行くなんて何が起こるか分からないんだから、次はちゃんと言ってからにしてよ!」
「分かったよ。」
アルスは渋々納得した。エリスもそれは感じていたようで、少し不機嫌そうだったが、ヘスティアがこの後どうするかを話し始めた。
「とりあえずこれで依頼が終わったわけだけど、この後はどうしましょうか。せっかく来たのにもう戻るのはもったいない気がするわ。」
「あ、そういえば聞き込みしてる時聞き込みしてる時、カフェがあるって言ってたよね?そこ行ってみようよ!」
「ではいきましょうか。」
「(そんなこと聞いたかしら…)」
エリスが提案した案に“いつの間にそんなことを聞いたのか”とヘスティアは思ったが、3人でカフェに行くことにした。カフェに入った3人はそれぞれ食べ物や飲み物を注文し、ヘスティアが話し始めた。
「そういえばエリス、今日は割と日光に当たってるけど大丈夫そう?ここに来るまでの馬車でも寝てたみたいだし、辛かったら言うようにね。」
「大丈夫だよ、もし何かあっても二人がいてくれるしね。それにあの時は寝てたっていうか、ソイルから“繋魔法”が来て、真実眼を使うように頼まれてたから目を閉じてたんだよ。まぁ結局寝ちゃったけどね、あははは。」
エリスはケーキを食べ、そう答えた。ヘスティアもそれに納得し、頼んでいたお茶を飲んだ。
「ん〜このケーキおいしい!ってアルスは何も頼まなかったの?じゃあ私のちょっとあげるよ!ほら、あ~ん」
「流石に恥ずかしいのですが…」
「食べてくれないの?…」
エリスはアルスにも食べてもらいたく、ケーキを少しとって「あ〜ん」といいながらアルスの方に持って行ったがアルスは恥ずかしがって遠慮した。しかし、涙目になっていたエリスを見て、「あの子かわいそう」「兄妹?妹にやさしくないお兄さんね。」といった周りからの声や視線が刺さり、結局食べさせてもらうことにした。
「た、食べるから!そんな顔しないで。…ん。…んん、これ美味しいね。エリス、ありがとう。」
「そうだよね!これおいしいよね!えへへ~。」
アルスにも食べてもらい、美味しいと言ってもらえたことで嬉しくなったのかエリスは笑顔になり、周りの雰囲気も和やかになった。エリスに食べさせてもらったアルスは顔を赤くし恥ずかしそうにしており、ヘスティアはその様子を微笑ましく見ていた。
ソイルとゼータはレイネールに転移してきた。転移した後、ソイルはこっそり十字型の物体を飛ばした。
「この地下に博士が居るのか。」
「ソイル、これ、分かるの?」
「まぁな。(エリスに見てもらってるだけだけどな)」
はたから見れば何もないが、エリスと視界繋魔法しているソイルにはエリスが“真実の目”を使った時と同じように見えていたため、地面にある扉が見えていた。ゼータはその扉を開け、2人は地下へ入っていった。地下には様々な機械や素材、資料などが置かれており、そこには一人の子供?がいた。
「む?おお、君は賢者なのだ?」
「ああ、ソイルだ。よろしく。」
「ソイル、よろしくなのだ。ワシはクロス・マキナなのだ。クロス博士とよく言われておるのだ。」
「あんたがクロス博士か。小さいのも女なのも正直驚いたな…まぁそれはいいとして、今は何が起きてる?」
ソイルは、シルバーブロンドでワンサイドアップの髪に銅色の目、白衣を着た少女がクロス博士であることに一瞬驚いたがすぐ冷静になり、現状を聞いた。
「ワシもよく分かってないんだが、急に地上の研究所に何者かが攻めてきたと思ったら、何か特殊な魔法でワシとゼータ以外の結機族が操られてしまったのだ。ゼータがワシをここに転移させてくれなければ、今頃どうなってたか分からないのだ。」
「なるほどな。博士とゼータは大丈夫だったわけだが、その特殊な魔法に当たらなかったのか?」
「否、ワシもゼータも魔法には触れたはずだが、特にダメージも無かったのだ。それにあそこにあるマスターコアも無事だったのだ。」
「マスターコア?」
「ワシと共にコアの研究をしていた者の魂を利用して創った、結機族のデータを管理する巨大なコアのことなのだ。」
「ってことは博士とゼータ、そのコアに共通することが、魔法が効かなかった要因だな。何か心当たりはあるか?」
「んー…元が人間であることくらいだと思うのだ。しかし、結機族には精神支配系の魔法は効かないはずだし、おかしいのだ。」ーモン
「特殊な魔法だと、悪魔族が使う“悪魔の声”か、殲誓天の特異能力ってところだろうな。“悪魔の声は”魂がないと効果が無いし、そもそも魔法だから違うとなると、特異能力か。」
「どういった能力か分かるのだ?」
「精神支配もそうだが魂の影響も無いとすると、逆に魂を持たない者、無機物とかに使える能力の可能性が高いな。」
「魂を持ってるから聞かなかったってことなのだ。」
ソイルはクロス博士から聞いた情報と、自らが持っている情報を照らし合わせてその正体について考えた。だがソイルは2つ気になることがあった。
「それはそうと、ゼータは魔法を受けてないって言ってたが、俺が会った時は負傷してたぞ。」
「それは、エンスタシナに、行く時、急に、海水が、襲ってきたから。」
「そんなことが…だから話し方がぎこちなかったのだな。ソイルは直さなかったのだ?」
「発声発語器官に関することは資料になかったからな。流石に0からは作れんよ。」
「じゃあ早速直すから、ゼータはこっちに来るのだ。」
「ん、わかった。」
聞きたかったことの一つを聞き、クロス博士がゼータを改めて修復し始めた。ソイルはその様子を見ながら、もう一つ気になっていることを聞いた。
「んで、なんでそいつは研究室に入れたんだ?そんな無防備にしてるのか?」
「いや、パスワードを入れないとは入れないようにしているのだ。」
「じゃあ誰か最近入れたのか?」
「ん〜…あ!そういえば10日くらい前にワシの助手になりたいと言っておったやつが来てな、そやつなら入れたんだが……そやつが犯人だとは。見た目も違うし、そうは思わなかったのだ。」
「変装も出来るんだろうな。ま、だが安心しろ、研究所には傷一つついてないみたいだぞ。」
「?なぜ分かるのだ?」
「セターレっつー俺が作った十字型のアイテムで見てるからな。」
「そんなものが作れるとは…凄いのだ!セターレってどういうものなのだ?」
「魔鉱石、共有石、記憶結晶、飛空石を錬金した鉱石の粉末を溶かして固めた十字型の物に精霊石をはめ込んだやつだな。」
「精霊石⁉どこで手に入れたのだ?」
「あーうちの仲間に精霊と仲いいやつがいるからな、そいつに頼んでもらった。」
「もはやワシより凄い気がするのだ…」
「俺がやったのは溶かして固めてはめただけだし、博士のが凄いと思うぞ?種族を一つ生み出したってのは、神レベルのことだろ。」
「ん、良い気分なのだ。っと、直ったのだ!これで普通に話せるのだ。」
「あー、んんっ。博士ありがとう。これでソイルとも違和感なく話せるね。」
「元からあんま違和感なかったぞ。それに上手く話せなかったとしても、ゼータであることには変わりないだろ。」
「ソイルもありがと!」
ソイルはクロス博士と今話したいことをあらかた話していると、ゼータの修復が終わり、普通に会話ができるようになっただけでなく、動きもどこか軽やかに見えた。
「よし、それじゃあ今から作戦を伝えるから、その通りに頼むぞ。」
クロス博士,ゼータと共に占領された地上の研究所を取り返すため、ソイルは自分の中でまとめた情報から考えたある作戦を2人に伝えた。