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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

家族の部屋に夢があったから

作者: 孤独

カタタタ…………


時代は進み。昔の常識が非常識とされる事もある。

輝く目を持つ子供もいて、冷めたようで現実をしっかりと受け止める大人もいて、微笑みながら楽しんでいる年寄りもいる。


「悠人ー、ご飯できたわよー」


そんな言葉をもう30数年。母親、恵理は何十万回と部屋の中にいる息子の悠人に言ってきた。そんな息子は


「うるせーー!テーブルに置いておけ!!」


そんなの一々朝から報告するんじゃねぇーって怒ってる。

可愛い息子ももう30を超えた。学校は行っていないし、仕事も行っていない。しかし、夢はある。


「相変わらず、悠人は作家を目指して頑張っているのね」


作家を目指している。……そんな夢に否定しないどころか、応援している母親の恵理。本人の意思でそーいう学校にも通わせてもいた。彼女も昔は、そーいう夢を目指していたから気持ちは分かる。もっとも、その途中で素敵な旦那と出会って、悠人を身ごもったんだから十分な幸せだ。

この世界情勢で引き籠りがいても、悠々自適に過ごしているくらいに順風満帆の家族生活。(旅行とかが少ないのあるけど)。

しかし、息子の転落ぶり……もとい、どこにも地に足をついてないわけだが。そんな姿を見ていて、ふと思い込む。


「私も、もう一回。悠人みたいに作家を目指そうかしら」


仕事をしてない息子がちゃんと育ったか怪しいもんだが、目を離してあげれるし、いつでも放り出せる(ご飯抜き)。あんな息子が犯罪なんてできるわけないと、教育をしたと思ってもいる。

恵理にとっては、生活のためである夢。じゃなく、楽しむための夢でしかない事だった。


まさか、こんな事になるとは……


◇         ◇


『第26回、台風ラノベ大賞作 ”筏のワラシーベ”』


物語の流れだけを書くと。

引き籠りの少年のワラシーベが、2年かけて作った自分の筏で海に出ていき、様々な国を回った後に自分の作った飛行機で国に帰ってくるのだが、実は自分の国は科学技術を超越した国であったと知るのであった。

……というお話。

成長したかと思ったら井の中の蛙だったという、主人公のお話だ。


それが面白かったかはともかく、……結果が出たわけだが


『受賞おめでとうございます。E-LIさん』

『ありがとうございます』


作家を目指す悠人が大賞を受賞したのではなく、……そんな息子を持つ、母親が執筆した作品が大賞を受賞したのであった。


「なんでだ、コラーーー!?」


こちとら働きもしないで10年以上も執筆し続け、色んなコンペで最終選考に8度も残る記録を出した事はあるのに。

『私もラノベをまた書いてみようかしら』って、2年前から書き始めた母親が受賞するとか。


「審査はどうなっているんだ!!このコンペはオカシイ!!」


努力を結果に変えられないのなら、それまでなのだが……。


「インタビューは恥ずかしかったわ~」

「照れるな、母親!!」


当人もこの受賞には当然驚くし、息子のは2次選考で落ちたと聞いていたから、私もダメなんだろうなって思っていたら、まさかの大賞だ。

それの要因と言えば、このインタビューの記事に書かれている、恥ずかしい事


「悠人の部屋にある大好きなラノベや漫画を休日に読んでいたから、知識はあったのよ」

「それをそのままインタビューで答えてんじゃねぇーーー!!息子のラノベを読んでる事を公表するんじゃねぇ、恥ずかしい!!」

「あなたが1年以上やっていないゲームも、お母さんとお父さんでコッソリ遊んでたからね。あなたは部屋にいたから知らなかったでしょうけど」

「えーーー!?じゃあ、いつの間にかセーブが消えてたり、上書きされてたのって、母さん達が遊んでたのか!!」


息子の娯楽に興味を示す親はいても、その娯楽を嗜んでしまう……いや、息子以上に嗜んで昇華までしまう両親なんて


「最悪だ……最悪だ……」


10年以上も作家になる事を目指したのに、2年程度の努力で叶えてしまう存在が自分より年上どころか、身内にいるどころか、実の母親であるという屈辱。

これってつまり、努力はともかく……自分にある才能が……


「悠人ー。ずーっと前から、夢に対してイライラしてちゃダメよー」

「!!」

「私達はね、あんたが楽しんでくれてたら、なんだっていいよって家族関係にしてるんだから。少なくとも、人生楽しんでなさい」

「……母さん」


10年以上も働かない自分に、責めるような言葉を一切しなかった母親。


「じゃあ、母さん。バスの運転に行くからね」

「……え?」

「あら?それも初めてだったかしら。私と父さんは副業もしてたのよ。7年ぐらい前から」

「知らねぇーし!!母さんは郵便の窓口さんだろ!」

「それは本業で、副業で週2回、バスの運転手もしてるのよ(夜間帯)。悠人が自由に遊べるように、知り合いのバス会社さんに雇ってもらったの」

「…………し、知らねぇ。俺はそんなこと知らねぇ!」



もしかして、母さんの作品の主人公って……俺がモデルだったのか。

本業、副業、趣味……いやいや、子育てにおいても成功してるなんて。俺は知らなかったよ!


っていうか、俺が恥ずかしすぎる!

長いタイトルにしようかと思ったが、勘違いしそうなので無難なのにしていました。


候補↓


『10年以上もラノベ作家を目指す息子のおかげで、母の私が大賞を受賞しました!』

『息子が読んでるラノベで学んだ知識を活かし、母がラノベを作って応募したからね!今更恥ずかしいって、大賞をとっちゃったからもう遅い!』


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― 新着の感想 ―
[良い点] 家族の温かさ、凄さに気づいたところ [一言] 素敵な短編をありがとうございました。 息子ー、まだ遅くないぞ!
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