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集まれ妖怪の森クリニック  作者: 中川聖茗
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第八章

 次の日起きると、僕は自分がどこかクリニックの地下室とは別の場所の、なにやらとてつもなく大きい部屋にいることが分かり、ひどく驚いた。

「ここはどこだろう?」そんなことを考えていると、一羽のカラスが僕の目の前に舞い降りた。

 カラスのヤータンではない。ーーひとまわり大きい。そうかこれはカラスのバーヤンだと直感で分かった。すると彼女は口に咥えた紙を僕に渡した。

 その紙にはこうあった。

「やあニンニンさん!ケム二マクの退治、ご苦労さんでした。私はカラスのバーヤンと言って、ドドンパ大王のおばあちゃんで、今は孫の式神となって、孫を守っています。あの子はとても苦労した子で、私が女手一つで育てた子なのよ。小さい頃はね、「バーヤン、どうして我が家の焼肉は牛肉じゃなくて、豚とトリだけなの、って、それを聞かれたときは辛くて辛くて、ーー(後はバーヤンの流した涙のせいであろう、字がにじんで判読できない)」

 それを読み終えると、僕は何とも複雑な気持になった。「焼肉って、豚でもトリでも食べられるだけましじゃん。我が家では肉なんて貴重品で、豚肉ですらたまにしか食べれなかったからな」---そんなことを思うと、続いて、小さい頃の記憶が蘇ってきた。ーー本当に貧しい食卓だった。それでも母が苦労して作った食事を感謝して食べていた。しかしいかんせん、量が足りない。いつも腹ペコだったのを覚えている。

 僕の母は生前、僕が成人してから、よくこう言ったものだった。

「ニンニン、本当にすまないね、私は、あんたが小さいころね、まともなものをたべさせられなくて、それが、今でもね、申し訳なくて、申し訳なくて」

 亡き母とのそんな思い出をかみしめていると、そこへイカムーチョが現れたので、僕は少し驚いた。「なぜ、彼が?」と不審に思っていると、彼は初めて会った時のように、手足をバタバタさせながら言った。

「やあ、ご苦労でしたね。まあ、適当にやってくれたら良かったんですけど…」

 そうもごもごと何やら言いながら、次の間に案内をするので付いていった。

 ドアを開けると、そこは豪勢なシャンデリアの吊るされた部屋で、テーブルには多くの御馳走が並べられていた。そしてテーブルにはあのリスパアリマス女史も席についていた。彼女は僕を見るとポケットに手を入れがさがさとさせた。そしてリスパダールを取り出しながら言った。

「先生、遠慮なく言ってくだされば、妖怪退治にこれを使っていただけたのに。これからはそうしてくださいね」

 僕は、軽く会釈をすると、彼らの招くままに、席に着いた。

 すると、パンパかぱーんと言うラッパの音と共に、「ドドンパ大王のお、な、り~」という声がどこからか響き、もう一方のドアが開くと、派手な衣装に身を包んだ大男が現れた。手には杖を持っている。

 両脇には女性が二人いた。そして後ろにも女性が二人、ぴたっと寄り添って歩いてくる。それは”いそぎんちゃく”と表現するにふさわしい恰好であった。これは、ドドンパガールズ、と命名しようと思ったが、年齢が30代ぐらい、いわゆるアラサーであろうか、ガールズには相応しくないと考え、ドドンパアラサッサーズと名付けた。

 彼はテーブルまで歩いてくると、席に着いた。無論、、両側の席にはその女性たちが腰かけた。彼は、えへんと、一つ咳払いをした。そして言った。

「やあ、ニンニン君、ご苦労だった。君の働きには本当に感謝している。さあさあ、食事を共にしよう」

 こうして会食が始まった。 とてもぎこちない会食であったが、まあ頂けるものは頂いておこうと、僕はごちそうに手を伸ばした。

 イカムーチョはさかんにドドンパの機嫌を取っている。リスパアリマスも同様である。イカムーチョは、僕の登場で、彼のクリニック内での支配が揺るぎかねないということをよく理解していたのだろう。今はドドンパにすり寄るしかないのだ。しかし、このあからさまな太鼓持ちの姿勢には辟易した。

 一方、リスパアリマスは、純粋にドドンパに敬意を持っているようであった。であればあったで、その太鼓持ちぶりは尋常ではなかった。

「まあ、他人のことは放っておこう」

 そう心に思い、この二人の太鼓持ちのことは無視して、僕はドドンパに尋ねた。

「この後のプランはどうなるんですか?」

僕は改革をするなら徹底的に速やかにやり抜きたいと思ったのである。

 するとイカムーチョが横やりを入れた。その場で「まあ、先生、それは、まあ、そんなに急がなくても、全体の会議で、ほかのスタッフもいますからね」

 と、相も変わらず、手足をバタバタさせながら言うのだ。主導権を握りたいのだな、と僕は直感した。僕は少々立腹したが、それは何とか抑えて、その場で穏やかに反論した。

「いや、次にはデイケアに巣くうザコ妖怪をすぐに退治にかかりましょう」

 そう言われて、イカムーチョの顔が険しくなった。彼は言った。

「いやあ、あまり性急にするとね、ーーー先生、まあ、全体の会議でよく話し合って、ーーー」

 と、そこまで喋ると、ドドンパがそこで話を遮った。そして言った。

「まあ、今日はその話は、それぐらいにして、ニンニン先生は、私が追って沙汰をするまで、ゆっくりしていてください。次の組閣の時には医療福祉担当大臣をしてもらうことが先かと考えてます」

 僕はそんな肩書なんかどうでもいいと思った。しかし、ザコ妖怪は主を失ったのでどうせ長居はするまいとも思ったので、ここはドドンパの言うことを聞くこととした。

 会食が進んで、ドドンパのイソギンチャク女二人が、少々酔っぱらったようだ、涙を流しながら、ドドンパを絶賛し始めた。

「ドドンパ大王は本当に立身出世を絵に描いたようなお人ですね。革命に敗れ、ジャングルに逃れ、そこで屋台のラーメンを開きながら再起を図り、見事にこの島に逃れた後は、今の王国を作られた。そして今度は隣の島に精神障害者の楽園を作ろうと尽力されている…。本当に涙なしには語れないですわ!」

 僕は聴いて呆れてしまった。

 確かに歴史で学んだことがある。ある南の島で、政府の転覆をもくろんで、革命戦線なるものを作り、武力で革命を起こそうとしたが、鎮圧され、ジャングルに消えたという話を…。

 そうか、その時のリーダーがドドンパであったのかーー僕は自分がこの時代の異端児の元に招かれて、彼と共に、精神障碍者の楽園を作る計画に参画しているのだ、という高揚感を味わいつつも、心のどこかでは、これは何かが間違っている、と思う自分もいて、何やら複雑な気持ちになった。

 そんなこんなで、会食が終わって、帰ろうとすると、リスパアリマスが、僕を送ると言って、船に乗せた。この老女は根っからの善人のようでもあったが、ドドンパに深く心酔していて、帰り道、食事会でのドドンパの出世話を、さらに細かく僕に話して聞かせてくれた。

「あの人はね、貧乏な家に生まれて、裸一貫からここまで頑張って、ーー(あらためて文章にする必要もないので途中省略)ーーついにはこの島の王様となったんですよ」

 お涙頂戴の立身出世話は、適当に聞き流して、僕は明日から始まる生活に大いなる不安を抱えて、その日は早々と床に就いたのであった。


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