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集まれ妖怪の森クリニック  作者: 中川聖茗
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第六章

 さて次の日である。僕は昨日のみみちゃんの言葉を思い返していた。「院長を追放するか」‐ ‐言うは易く行うは難しである。直接対決とするか、あるいは周りから崩していくか、さてどちらが有効的であろうか?僕は頭をひねった。

 考えがまとまらなくなった僕は、クリニックの庭を散歩することにした。庭の樹木が南の島の風になびいてなんとも心地よい眺めである。僕は芝生に腰かけた。

 さてどうするか、と考えて空を見上げていると、なんと、空から黒い物体がこちらに向かって舞い降りてくるではないか。ーーあれは?、と思う間もなくその黒い物体は僕の右肩に舞い降りた。

「これは何ということだ!」仰天した僕はその姿を横目で見た。すると、何とそれは、一羽のカラスであった。あの時、溺れかけた僕を救った、あのカラスであろうか?ーー僕はそう確信すると、彼に呼びかけた。

「やあ久しぶりだね、僕が心配になってやってきてくれたのかな?」少し嬉しくもあったのである。

 しかし彼は黙ったままだ。「これはあのカラスではなく、やはりただのカラスであったか? 」と僕は戸惑いもし、失望もして今度は悲しくなった。

 するとどうだろう。彼は「カー」と鳴くと、続いて地面にジャンプし降り立った。そしてこう、人間の言葉で話し始めた。

「ニンニン、だめだよ!気弱になったら。今日は君を励ましに来たんだ」

 なんと、そう喋るや、羽をバタバタさせている。僕は驚きつつも、安心感に包まれて、彼と差し向かいに、地面に腰かけた。そして言った。

「ありがとう。カラス君。よく来てくれたね。実際のところ、本当に困っているんだ。ーーどうすればこのクリニックのケムマック院長を平和裏に退陣させられるだろうか?」

 そう尋ねると、カラス君は、僕の周りをぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。そして「かー」と、一鳴きすると、続いて僕に言った。

「君に大切なことを伝えよう。この島にはかなり以前から人間が住んでいて、それはそれは、とてものんびりした国だったんだよ。ところが隣の島の支配者マーモ大王が何年か前にこの島を占領したんだ。彼は思い付きで何でも実行する人で、ドドンパと花火を打ち上げたは、道路でもビルでもなんでも立ててしまう人なんだ。そんな彼の島で、認知症患者と精神障害の人が増えると、彼らをこの島に強制移住させることにしたんだ。そして、そんな彼らを治療するためにこのクリニックが作られたってわけなんだよ」

 僕は驚いた。そうか、そんな歴史があったのか、と複雑な思いになった。それにしても、強制移住はやりすぎでは?とも思った。

カラスはさらに続けた。

「ところが、ドドンパ大王は、その名のごとく、ドドンパと花火を打ち上げるように、華々しく建物だけ建ててあとはイカムーチョを事務長に指名し、運営を任せきりにしたものだから大変なことになった。イカムーチョはドドンパの腹心の部下だったんだが、これが全く無能だったんだ。ここぞとばかり、南の島の妖怪達が集結し、このクリニックを乗っ取ろうと、次々に人に化けて求人に応じてくるのを見抜けず、あっと言う間にクリニックは妖怪たちの巣窟となっちゃったんだよ。さらにはイカムーチョ自身も妖怪にたぶらかされて、自らも妖怪化してしまったんだ。そしてマーモの言うことを聞くふりをして、自身がクリニックの一番の実力者になろうと、ケムニマクと熾烈な争いを繰り広げているって訳なのさ」

そういうことだったのか…。僕には全てが合点がいった。

カラスは続けた。

「 そしてドドンパ大王が、君がこの島に流れ着いたのを知ると、妖怪達の退治のために君をリクルートしたと言うわけなんだ」

そこで僕は彼を遮った。疑問を解消したかったのだ。

「カラス君、よく分かった。ーーところで一つ質問がある。そもそも君は何者なんだい?」

カラスはまたもや、かー、と一鳴きすると、答え始めた。

「僕は君の式神だよ!ニンニン!君は家が沈没し荒海で危機にさらされた時、無意識に僕を呼び出したってわけなんだ。ーー僕の名前はカラスのヤータンと言うんだ!ヨロシクね」

 式神と聞いて、式神を呼べる力が自分にあったということにも驚いたが、どうして僕の式神は、よりによって真っ黒なカラスなんだろうー昔映画で見た安倍晴明の式神は確か可愛い女の子だったーと、不公平感も強く感じ、僕はひどく複雑な心境にもなった。

 カラスのヤータンはそんな僕の気持ちをしっかり見抜いていた。ーー流石に式神だけの霊力は備えているようだ。彼は言った。

「ニンニン、映画の世界と現実は違うよ!ーー僕を忘れちゃったかい?君が中学生の頃、道端で死んでいたカラスを公園に弔ったこと…」

覚えている。あれは中学生の時、道端にカラスの死骸があるのを発見した僕は、このまま放置してはこのカラスは、野良猫たちに無残にも引き裂かれてしまうだろうと思い、死骸を近くの公園まで持ち運び、そこへ埋葬したのだ。

「僕はあの時のカラスなんだ。君の心優しさに心打たれて、ずっと魂として君を見守ってきたけど、今回の君の危機を見て、今度は式神となって、君を助けに来たってわけさ」

僕はここに至って全てを了解したのだが、ただ、まだ一つ疑問があった。

「島の浜辺から、僕をクリニックまで運んだのは君じゃなかったよね?あのカラスは君より一回り大きかった…」

カラスのヤータンは答えた。

「ああ、あれはカラスのバーヤンと言ってー名前は僕のパクリなんじゃないかなードドンパ大王の式神で、かつ守り神さ。何でもドドンパのおばあちゃんの生まれ変わりらしい。ーードドンパはおばあちゃん子だったんだ」

そこまで言うとカラスのヤータンは、また羽をバタバタさせた。そして続けた。

「いいかい。今からが肝心な話だからね、良く聴いてね。君に妖怪退治の極意を教えよう。意外と簡単なんだ。ーー彼らは人間の姿を維持するのにすごく大きいエネルギーを使っていて、結構ストレス状態なんだ。だからさらに強いストレスを与えれば、化けの皮が剥がれて妖怪の正体を現すーー元々比較的低級な妖怪たちだから正体がバレればすぐに逃げ出しちゃうさ」

なるほど、と思った。ストレスを与えればいい、それなら何とかなるかと、一転して楽天的な気持ちになった僕は、「ありがとう、カラスのヤータン」と言って、彼の頭を撫でると、クリニックへ戻った。

「決戦は明日だ」そう固く心に念じ、その夜はやや興奮した気持ちのまま、僕は眠りについたのであった。


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