第三章
さて、クリニックには地下室があり、そこが僕の宿舎となった。コンクリートの壁には至る所にどす黒いシミがあり、薄暗い天井の電球とあいまって、 邪気に溢れ、不気味なことこの上なかった。普段は神も仏も畏れない僕であったが、ここは、いざという時は変幻自在に自分勝手、わがまま、御都合主義になれると言う性格が幸いし、たちまちの内に神と仏の前にひれ伏すと、僕を守ってくださいとお願いした。するとすぐに、物陰から「ニャー」と鳴き声がするや、一匹のネコが現れた。
これは神が遣わしてくれた守りネコに違いないと、これも御都合主義的に解釈し、早速そのネコに「ミミちゃん」と名前をつけた。特に深い意味はなく思いつくままに付けた名前である。
ミミはとても可愛い容姿をしていたが、尻尾が二股に分かれていた。これが噂に聞く「猫又」かと、怖れもしたが、尻尾を両手で持って左右に引っ張ったところ、うにゃらうにゃらと、腹を見せてゴロゴロするので、これは悪いネコでは無いと安心した。そしてその出会いに感謝し、きっと彼女(勝手にそう確信した)が、恐ろしい物の怪でも出てこようものなら、すぐにひっ捕らえて食ってくれるだろうと、これもご都合主義的に解釈すると、安心してその夜は熟睡出来たのであった。