表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集まれ妖怪の森クリニック  作者: 中川聖茗
1/11

序章

序章


 その嵐は3年続いた。

耐え難い波風、そして予想外の家族の反乱。

家長として出来る限りの手は尽くしたのだが…。

ついに家は沈没した。

僕は荒海に放り出され、もはや波に呑まれるのを待つのみと観念した。

と、その時である。一羽のカラスが僕に近づくと、僕の腕を足で掴むや、そのまま宙に持ち上げた。これが噂 に聞く八咫烏かとも思ったが、良く見ると足は二本しかない、普通のカラスだった。これは多くは望めまい、下手をすればカラスの餌食となって、海の藻屑となってしまうのか、と怖れたが、カラスはカアカアと鳴きながら、僕を運んで行く。すると遠くに小さい島が見えた。カラスはそこまで僕を運んで行って、ヤシの木の繁る浜辺に僕を下ろした。安心すると疲労が一気に僕を襲い、僕はそのまま意識を失った。

時間がどれほど経過したかは分からない。気がつくと、僕はあるクリニックの玄関前に横たわっていた。ひどく暑いと感じた。どこかの南の島だろうか?カラスが何とかここまで運んでくれたのだろうかと思った。

そこには「ここは精神障害者のための夢の森、君も家族だクリニック」と書かれた看板が立てかけられていた。

クリニックは玄関を除く三方を鬱蒼とした 森で囲まれていた。

「なるほどこれが夢の森というわけか」

と、思うが早いか、カラスが突然「かー」と鳴いた。

先ほどのカラスかと思ったが、一回り大きい。羽根のツヤも悪く、これは高齢のカラスかと僕は推理した。すると彼女(と僕は直感で感じた)は、僕の目の前に舞い降りた。口に何かをくわえて、僕に渡そうとしている。

僕はそれを手に取って見た。するとこう書いてある。

「おめでとう!君は今日から精神科医としてここで働くんだよ。頑張ろうね」

僕は外科医だ、変だな、と思いはしたが、与えられた運命は素直に受け入れよう、とあっさり納得した僕は、目の前の クリニックの玄関ドアをノックした。ノックしながら改めて周囲の 森を見ると、鬱蒼とした、しかもまったく手入れのなされていない、その森は、小ぶりながら、一度入ったら出てこれないだろう、不気味な様相を呈していた。夢の森とは程遠い“奇怪な”様相である。

またクリニック自体も超怪しげであった。

まず外観が”変”だった。普通の家のようでもあり、レストランのようでもあり、また、ただのゴミ屋敷のようでもあった。

玄関の植え込みには、なぜか、白雪姫と七人の小人の、小人たちの”うす汚れた”像が、置かれていた。しかもその横には古井戸があり、”この中覗くなかれ”という古びた表札が立てられていた。

運命を受け入れつつ、一方で不安な気持ちに満たされながら、僕はドアをノックし続けた。

 そしてついにドアが開かれた。するとどうだろう、いきなりくす玉が割れて「歓迎!ドクターニンニン」と書かれた垂れ幕が目の前に垂れ下がった。

そう確かに僕の名前はニンニンであるが、なぜその名前を知っているのだろう…。加えて、取って付けたようなくす玉の歓迎は、その派手さとは裏腹に、何か陰謀めいた匂いを感じさせ、少し不安な気持ちになった。

しかし物は考えようだ。ー「そうか俺は結構有名だったと言うことか」と、天性の楽観的な性格が幸いし、数奇な自分の運命を僕はあっさりと受け入れたのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ