06 ミコとシーマ ①
この話は、ミコちゃんがメインのストーリーとなります。
セリカが目を覚ます、少し前の話。
あたしは戦いの後、すぐに退院して、同じく大けがながらもケロっと退院したシーマと二人きりでセリカを見ることになった。
ティナちゃんはすごく心配そうにしていたが、シーマが来たせいで、気を遣って自室にこもってしまった。セリカが起きたら、しばらくは独り占めさせてあげよう。
あたし一人でも十分だっていうのに、この人、どうしてもっていって聞かないんだ、もう。
「シーマ。あなたはなんでセリカの所に居ようと思ったんですか? お城のパーティーに参加すればよかったのに」
「おいおい、俺だってセリカに命を救われたんだ。少しくらい見させてくれよ」
「んっ! 今、セリカのこと呼び捨てした!」
「ダメなのか?」
「ダメ」
「きびしいなぁ、ミコは」
「あたしのことも呼び捨て! まだあんたのこと、あたし知らないのに」
シーマは少し下を向いた。ちょっと言い過ぎたかな。
「お前と、セリカのこと、少し聞いてもいいか? 出会いとか、さ」
「出会い? そんなの、生まれたときから一緒だわ。あたしは小さいころからセリカのことが大好きで、セリカもあたしのことが大好きなのよ! あんたみたいなぽっと出の男にセリカはあげないわ」
「だからあたし、セリカと二人きりで話したいこととかあるんだけど」
「それでも、俺はセリカに恩があるし、一緒にボスと戦った仲間だ。少しくらい、一緒に居させてくれよ」
「そういえば、ギザルさんに聞いたけどあんた獣人好きらしいわね。セリカのこと、好きなの?」
「ああ、もちろんミコ、お前のこともな」
あたしの方をみて、ウィンクするシーマ。
「なにそれ、変態じゃん」
「あはは」
頬をかき、笑うシーマ。悪い人じゃないのは分かってるし、本当に私たちのことを好いてくれているらしい。
人間なのに。
「今度話すよ。俺がどれだけ獣人のことを想っているか」
「今後、あんたと仲良くなる機会があればね」
「おいおい、もう少し優しくしてくれよな? ほんと、セリカとは違って愛嬌がないよな」
「うっさい! あたしは人間なんか大嫌いなの。何度人間のせいでひどい目に合ったことか……」
シーマはうつむき、膝に乗せていた手に力をこめる。
「俺の同類が、すまなかった。確かに、人間は自分たちよりもステータスが劣っていて、成長が遅い獣人を差別する。でも俺は、俺だけは、獣人にしかできないことや魅力をよく知っているつもりだ。だから、セリカとミコにも、俺のことを理解してほしい。お前たちのことを想う人間がいるってこと……もちろん、すぐにとは言わないがな」
真剣な表情。短い付き合いだけど、こいつは嘘をつかない真面目な人間だ。この話も本当なんだろうな。
「……覚えておくわ」
「ありがとう……」
……。
……。
き、気まずい。あたしはセリカと違ってこういう時、自分から何か話しかけたりすることができない。何を話していいかわかんない、わかんないよ、セリカ……!
そう言えば、小さいころからセリカはよく自分の匂いを気にする癖がある。あたしはセリカの匂い、大好きなのに……。
セリカはお風呂好きで、毎日、多いと一日に2回風呂を入る。たまに自分の服の匂いを嗅いだりして、なんか変。だけど、起きたとき、戦った後の汗や泥で汚れたままの服じゃ、嫌がるだろう。
ちなみに、あたしはお風呂大っ嫌い!!!!!! でも、セリカやティナちゃんと一緒に入るのはスキ。
よし、シーマ。ごめん!
「シーマ。あたしセリカ着替えさせるから、少し外しててくれない?」
「ん? おお、分かった。俺は下のリビングで寝てるよ。ミコ、眠くなったら交代するから、起こしてくれ」
シーマはそう言って部屋をでていった。
私は眠っているセリカの体を起こし、服を脱がせる。
「……セリカ、今くすぐっても、起きたりしないよね……ねぇ、さわっちゃうよ? ほらっ……」
私はそっと脇の下や横腹に手をスルスルと通す。優しくなでても、反応がない。いつもなら、大笑いして暴れまわるのに……。
私は無反応なセリカを見て、涙が出てきた。
一瞬、死んでるんじゃないかって。
「セリカ、起きてよ。ねぇ、あたし、寂しいよおっ……!」
涙が止まらない。セリカが居ない、それだけで、私という存在は空っぽになってしまう。
それくらい、セリカのことが大好きなのだ。
「はやく起きて、セリカ」
体をふき終わり、シャツを着せる。
……聞こえる。ドアの前に、シーマはずっといる。なにやらティナちゃんと話していたらしい。
「シーマ、終わったわ」
扉が開く。
「……目元、真っ赤だぞ、拭くか?」
左手をポケットに突っ込み、ハンカチを差し出すシーマ。あたしはそれを受け取って、上を向いてハンカチをそっと目に掛ける。
「聞いてたんですか……?」
「すまん……」
申し訳なさそうに謝るシーマ。なんかこいつも、目元赤いんだけど。
「ギザルさんも、早く良くなるといいけど」
「ああ、あいつなら大丈夫だろう。昔の話だが、崖から落ちても無傷だったんだ、あいつ」
「ふふっ、ギザルさんなら耐えられそう」
「なあ、俺、お前たちと一緒に冒険したい」
「どうして?」
「どうしてって……そんなの、お前たちが大好きだからだよ」
「なにそれ! 変態! バカ!」
「へへっ、何とでも言いやがれ!」
シーマは笑顔になり、あたしのおでこをコツンと叩く。
「だっ! なにすんのよ!」
「ミコはセリカのことが大好き、なのは知っている。でも、たまには俺とも一緒に冒険してほしい。」
あたしは、人間が嫌い。
セリカを、私やティナちゃんをいじめるから。
「まあ、冒険くらいなら付き合ってあげないでもないわ」
「……ありがとう、ミコ」
私は椅子に座った状態でセリカが寝ているベッドに伏せた。
「私が寝てる間に、セリカに変なことしたら許さないから」
「はいはい、わーったわーった、おやすみ、ミコ」
ふん……。
泣きすぎたからかな。気づいたら、寝てしまっていた。
これからちょこちょこキャラごとの視点が変わり、セリカが中心のストーリー以外も入ってきますが、基本視点が違うだけで、ストーリー自体は進行していきます。
読んでくださり、ありがとうございます。
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