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56 フィリアさん


「これ、どうやって開けるの?」

「分からん……寝かせたの、失敗したな……」


 シーマは抱えていたフィリアさんを見てため息をつく。


「どうしよう、パスワード分からないと、ここから出られない……」


 ピピピッ……ピピピッ


 地下水路には、ミコが適当にボタンを押して、エラーが出る音だけが鳴る。


「この扉の先に出口があるのかな?」

「たしかに、入るときだけ転移魔法っておかしいよな?」


 ピピッ……ガチャ


「あ」

「あ」

「開いちゃった……」


 空いた扉の先は、小さな部屋。きっと、この水路を管理していた人が道具を仕舞ったりする場所に使っていたのだろう。


 部屋の中には、掃除道具やボロ布などが入っていた。とても臭い。


「うっ……なにこれ」

「掃除用具部屋のようだな……」

「あたしもう無理~!」


 鼻をつまみながらそう言うミコ。たしかに、これは長い事居るのはキツイ。


 ピピッ……ガチャ


「えっ!?」

「くそっ、後ろの扉が閉まっちまった!」

「そんなぁ!」


 掃除道具部屋に入った私たちは、閉じ込められてしまった。ガンガンと扉を叩くミコ。


「こっち側にはボタンがないみたい……」

「この管理者はどうやってここを出入りしていたんだよ、これ……」

「この部屋のどこかに出口があるのかな……」


「暗すぎて良く分からないな……フラッシュ」


 シーマの魔法により、部屋の中が明るく照らされる。私たちは手分けして部屋の中を探索する。


 私は机をどかして、さきほどの転移魔法のような黒いゲートを探す。


「ねぇ二人とも、見て!」


 ミコがまた何かを見つけたようだ。私とシーマは一緒にミコの元へ行くと、ゴミ箱をどかした場所の下に、ふたのようなものがあって、それを開けると、さきほどのゲートがあった。


「あったな。今回は、俺が先に行こう」


 そう言って、フィリアさんを抱えたままさっと一人でゲートに飛び込む。姿を消したシーマをクリエイターモードで検索すると、シーマは上の広場ではなく、住宅街の路地裏に転移していた。


「大丈夫そう。さ、行こ、ミコ」

「一緒にいこ?」


 ミコが手を掴み、一緒に飛び降りる。


 ◇◇◇


 家に帰って、フィリアさんの目覚めを待つ。


 服がボロボロで、肌も黒くなっていたので、綺麗に身体を拭いて、私のベッドに寝かせていた。


 ……彼女の左腕には、大きなやけどの痕が残っていた。しっかり手当されたような形跡はなく、きっとここに逃げている最中に受けたものだろう。


「ティナちゃんに、ちょっと似てるよね」

「んまあ、お母さんだしね……」


 ミコがフィリアさんの前髪を上げて、おでこを見る。そこには、謎の紋様? のようなモノが刻まれていた。


 赤いインクで、ローマ字のFのような、音符のような紋様。


「これ、なんだろうね?」


 ミコがフィリアさんのおでこをさわさわしながらそう言う。


「ミコ、寝てるからって触りすぎ! もし起きたら何されるか分かんないよ!?」

「うっ……うう」

「ひっ」


 唸るフィリアさんのおでこからすぐに手を放すミコ。二人でフィリアさんの方を見ていると、次第に意識を取り戻し、ついには目を開けるフィリアさん。


「あ、あれ……私……」

「おはようございます、フィリアさん」

「あなた達は……?」


 シーマの魔法? のお陰か、意識を取り戻しても暴れたりしなかった。上体を起こした彼女に、ミコは得意のホットミルクをお見舞いする。


「あ、ありがとう、黒猫さん……」

「ミーコって言うのよ。ミコでいいわ。それでこっちがセリカ」

「セリカです、フィリアさん」


 知らない人から、自分の名前が出てきて困惑している様子。まあ仕方ない。


 彼女はホットミルクを飲み終え、口を開く。


「ティナ、ごめんね、お母さんだけ、助かっちゃったみたい……う、ううっ」

「フィリアさん、大丈夫ですか?」


 急に泣き出すフィリアさんをなだめて、状況を説明する。


「あなた達が、ティナを保護したって……?」

「そうよ、あたしたち、ティナちゃんと一緒に暮らしているのよ!」

「そうでしたか……ありがとう、ございますっ」


 ◇◇◇


 私たちはとりあえず、学校へ行ったティナちゃんが帰ってくるまでの間だけ、彼女を家に居させることにして、彼女を風呂に入れて、伸びきった髪の毛を清潔感を感じられる程度まで切った。


 ……散髪の熟練度が30になったよ! ……ふう。


「セリカ、意外と上手いじゃん!」

「お前、散髪屋出来るんじゃないのか?」

「言い過ぎだよ、二人とも!」

「ふふふっ、仲がいいんですね」


 髪を洗って、乾かすと、30歳とは思えないほどの超サラッサラな髪の毛が、するすると指の間を抜けていく。


「髪の毛、サラサラですね……ティナちゃんと変わらないかも?」

「えっ、そうなの? あたしも触りたい! ……ほんとに、ティナちゃんみたい……」


 シーマも触りたそうにしていたが、キッチンの方へ行ってしまった。


「ティナは、元気にやっているでしょうか……」


 とある事情(?)で、貴族から追われる身となった彼女は、ティナちゃんでも助かれと、当時住んでいたアパートメントのお隣さん、あの男にティナちゃんを金を出してまで預けて、一人だけで地下水路まで逃げたそうだ。


 私たちがティナちゃんと初めて会った時のことを話す。


「預ける人を、失敗しましたね……ですが、あなた達に保護されて、私は嬉しいです」


 ニコッとしてマグカップを持ち上げる彼女の左腕が少し見えて、さきほどのやけどを思い出した。


「あの、その腕……」

「ああっ、これ? ……一度、貴族に見つかって、襲われたの。幸い、逃げれたんだけど、薬草もなければ回復魔法もスキルも持ってなかったから、痕が付いちゃった!」


 テヘペロと言わんばかりにニコニコしながら話すので、やけどの痕と、彼女の笑顔にギャップを感じて、少し困惑する。


 彼女は、長いこと狭い空間で隠れ、お腹が極限まで減ったら真夜中に外に出て、ゴミ箱を漁る生活をしていたので、あんまり質問攻めするのも良くないと思い、後の時間は他愛ない話や、私たちの冒険の話、ティナちゃんの学校生活の話などを聞かせた。


 そしたら、結構盛り上がったりして、私たちは時間を忘れていた。


「ただいまー!」


 玄関の方へ振り向くと、ティナちゃんが帰ってきて、靴を脱いでいる姿が。


「ティナ……」

「えっ、ママ……?」


 ティナちゃんは久しぶりに聞く、お母さんの声がする方を見て、固まっている。


「やばっ、今日帰ってくるの早くない!?」

「うん、どうしよう!」


 小声でしゃべるミコに、私も小声で返す。


 お母さんに、会いたく無さそうだったティナちゃんに、突然、ママの再開をさせてしまった。


 さて、ここからどうなる!?


これからもよろしくお願いします!

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