54 夜話と、朝ごはん
ティナちゃんのお父さん、レンシアは、殺された……。
そうシーマに聞かされた私は、ただとなりで立ち尽くすのみだった。
しかもその犯人が、母のフィリアだと言う。
「彼女が本当にやったかどうか分からない。貴族がらみの事件とも聞く。だから、探して本当の事件の理由を調べる必要がある」
「そんな、可哀想すぎる……」
「まあ、ティナには両親は見つからなかったというか、すでにこの街に居なかったというか……」
「でも、嘘はつきたくないし……」
「それはセリカの我がままだ。ティナのためを思うなら、時には嘘をつくべきだ」
シーマの言ってることは正しい。本当のことをティナちゃんに教えても、いい事なんかひとつもない。
私はティナちゃんに、何と嘘をつけばいいんだろう……。
「まあ、失踪中で、指名手配中の母親にまずあってみることだな。そうすれば謎は全て解ける」
本当に母親のフィリアさんがやったのか、それとも、貴族がらみの事件だったのか……。
「スキル、クリエイターモード」
マップを開き、フィリアと検索する……彼女は、地下通路のような場所に居た。
「やっぱり、隠れてた……」
「そんなところに……見つからないわけだ」
シーマが驚いている理由は、はるか昔に使われていた、今では完全に封鎖されている下水道に、彼女の姿があったからだ。
そこに行くには、わざわざ地上から穴を開ける必要がある。目的地は分かったけど、そこまで行くための道を探さないと……。
「明日、俺も付いていこう。彼女が何をしだすか分からない」
「心強いよ、シーマ……」
「だから、今日はもう寝ろ」
「そういえば、なんでシーマは起きてるの?」
「マスターのコーヒーを飲みすぎて寝れなくてな……」
「子守歌でも歌ってあげようか? なんて」
「じゃあ、ちょっとだけ……」
「ふふっ、シーマ、正直者には特典・トントンも差し上げましょう!」
「トントン……?」
◇◇◇
シーマの部屋、ベッドにて
「ねーむれー……ねーむれー……」
トン…トン…トン…トン…
リズムよく、毛布をかけて目を閉じるシーマの横で、子守歌&特典・トントンを始める。
「すごいな……なにかのスキルか……? さっきまで眠くなかったのが嘘みたいだぜ……」
「昔ね、お母さんによくしてもらってたの。だから、効果は保証するわっ」
ニコッとすると、シーマが私の頭を撫でてくれた。とても優しい手。
「俺なんかを住まわせてくれてありがとうな、セリカ」
「家族ですから……」
「ふっ、なんだよ、照れてるのか?」
「もう、早く寝てよ! 私だって眠いんだから……!」
「ああすまん……おやすみ、セリカ」
「おやすみっ」
……トントンしていたら、私もなんだか眠くなってきたな……
ウトウトしている目を若干開けると、閉めたはずだった部屋の扉が開いている。
ぼやぼやとした人影がこちらに近づいてくる……でも、眠くて、その後は良く見えなかった。
◇◇◇
「んむ……ふぁ~ぁぁ……あっ!」
私は、シーマの部屋で毛布も掛けずに寝てしまったようだ。と思ったけど、なぜかシーマのベッドには、ミコと私が一緒に寝ていた。……どういうこと!?
ベッドの下を見ると、シーマが蹴り落されていた。これ、昨日の夜の影は、ミコ、あんたの仕業ね……!
「ミコ、起きて、ミコっ」
トントン
「にゃ……セリカっ」
「おはよ」
ミコは寝ぼけているのか、横になっている私の上にまたがり、両手で私の頬を触る。
「昨日の続き、しよ……?」
「ミコ、起きてるの? ミコ~!」
太ももで、腕ごと身体をがっちりとホールドされているせいで、身動きが取れない。
ミコは寝ぼけたまま、顔を近づける。シーマが見てるからっ!
「ミコ、だめ、ここシーマの部屋っ……!」
「セリカが悪いんだも~んっ」
「お前ら、人のベッドで何してるんだ」
「「あっ」」
隣には、おそらくミコに蹴り落されたシーマが。
「私もよくわかんないの。起きたらミコが隣に居て……!」
「シーマあ~! あんた昨日セリカのこと独り占めしようとしたでしょ~許さないからっ」
ベシイッとシーマのことをねこパンチするミコ。それを手のひらで受け止めて、ミコの頬をつねるシーマ。
「あだだだあだあだ」
「いい加減起きろ、ミコ」
「おきる~! 起きた~! ぎぶ、ギブギブっ!」
シーマの腕をペシペシと叩いて、降参するミコ。
「なんだよ、俺が悪いみたいに! セリカが特別にって言って……!」
「セリカは断れない性格なのよ! シーマが頼んだんでしょうに!」
私は、身動きが取れないまま、ただ二人の喧嘩を見ていることしかできなかった。
◇◇◇
「いただきまーす!」
「いた~だきま~す!」
「いっただっきまーす!」
「いただきます」
4人で同時に合掌し、朝ごはんを食べる。
今日はお母さん探しか……なんだか、私、会いたくないなぁ。
貴族に裏切られて、追われているいい人だったら、ティナちゃんを預かっていることを伝えたら、取り返そうとするだろうし、ティナちゃんもきっとお母さんの方へ行く。
だって、私たち、まだ数週間も一緒に過ごしていないから……。
「セリカ、顔色がよくないぞ、大丈夫か?」
「セリカおねえちゃん……」
「あっ、大丈夫! ちょっと考え事!」
いそいでお皿に入ったご飯を食べる。
「今日はティナちゃんの送り迎え、私が行くね!」
「じゃあ、俺もいこうか」
「あたしもいく!」
「おい、食い気味に俺のセリフを消そうとするな!」
「タイミングが悪かっただけでしょっ! このシーマこのっ!」
ぶんぶんと手を振り、それを華麗に避けるシーマ。この二人は……!
「もう、お行儀が悪いです! お昼ご飯抜きにします!」
「ひぇえ……ごめん、セリカ~お昼ご飯は食べさせて~!」
「俺はミコがいきなり殴ってくるから避けただけだぞ!?」
「ティナちゃんを見なさい!」
ビシッと指を指した先、私の隣には、ティナちゃんがお行儀よく、ご飯を食べている姿が。
ティナちゃんは二人の喧嘩を聞いて、苦笑いをしていた。
ミコたちはそれを見て、いきなり姿勢を直し、お互い箸を持ち始めた。
「まあ、騒ぐほどのことでもないな」
「まあ許してあげないでもないわ」
「何をだよ」
「セリカを独り占めしたこと」
「そっちかよ」
ホント、仲いいんだか、悪いんだか……。
でもまあ、ミコが男の人に嫌悪感を出さないなんて、珍しい話だし、仲がいいってことで……。
「ごめんなさい……今日、朝ね? 学校のオトモダチと行く予定なんだ……」
「「ティナちゃん!!」」
自立が早い! 私がその年の頃は、まだお母さんにベタベタだったけどなぁ……。
「じゃあ、私たちは邪魔かな……」
「邪魔だなんて思ってないの! でも、今日はフェファルちゃんと、カノトくんと一緒に行くって、約束しちゃったんだ……」
「楽しそうでいいじゃん! じゃああたしたちは家の前まで行って、見送りだけするね!」
「ミコお姉ちゃん……!」
◇◇◇
「じゃあ、いってらっしゃい! ティナちゃん!」
「気を付けろよ~」
「変な人には~!」
「ついてかな~い! えへっ! じゃあ、行ってきまーす!」
ミコの謎の即興合言葉に上手く答え、手を振るティナちゃん。さすが、うちの子……!
「それじゃあ、あたしたちも準備しよっか」
「ああ、ミコにはまだ言ってなかったよな」
一足早く二階に上がろうとしていたミコは、シーマの方に振り返る。
「えっ?」
「ティナの両親、フィリアとレンシアのことだ」
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