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36 車っていいよね


「きて、起きてっ、セリカ」

「んむっ」


 目を覚ますと、ミコが目の前で私の身体を揺らしていた。


「おはよう、セリカ。もう7時だよ」

「うっそぉ……!?」


 また寝坊……しかけてたの!? 私、どんどんお寝坊キャラになってってる?


「起こしてくれてありがと、ミコ」

「うんっ、それよりも、早く着替えてエムニスの所に行かないと! フリャまで時間かかるし」

「そうだね……よっと」


 私はベッドから飛び起きて、急いで支度する。


 下に降りると、ティナちゃんとシーマが朝ごはんを食べていた。


「おはよう、二人とも」

「おはよう、セリカお姉ちゃん!」

「ああ、おはよう……今日も遅かったな」


「あっはは、最近寝すぎちゃうみたい。それじゃあ、行ってくるね!」

「ああ、気を付けてな」

「行ってらっしゃい!」



 ◇◇◇



「はあ、はあっ」


 私は小走りで、エムニスの所に向かった。ギルド本部の裏口は、従業員専用出入口だと思ってたけど、エムニスの部屋の目の前の通路につながっているらしい。


 私はその扉をあけて、すれ違うのは厳しいような、幅の狭い階段を上っていく。


 ちょっと、寝起きにはきついかも……いや、寝坊したのは私なんだけど。


 扉をノックして、エムニスが返事をする。私は申し訳なさそうな顔をして、ゆっくりとその扉を開く。


「ど、どうも、エムニスさん……」

「ああ、おはよう、セリカ」


 私は案内されるまま、椅子に座る。


「昨日は寝坊しちゃってすみません……」

「フッ、いい。それより、明日街を離れるようだな」


「あっ、はい。フリャのバザールに行こうと思って」

「楽しんで来い。それで……」


 私は昨日の騎士団ミーティングの内容を聞いた。


 騎士団といっても、特に仕事内容はないようです。その、なにか街で問題が起きたとき、住人に頼られることが増えるかも? みたいなことを言っていた。


 と言っても、時には影で怪しい動きがあったりするものだ。私たちは常にアンテナを張っておかなければならない。


 なにか大きな事件が起きたときは、エムニスに報告して、全員で対処するための作戦会議をここで開く。


「という、感じだ」

「分かりました……その、わざわざ二度目の説明、ありがとうございます」


「分からなくなったら何度でも説明しよう、それでは、俺は街のパトロールに行く」

「はっはい! お気をつけて」


 私はエムニスと一緒に部屋を出て、ギルド本部と王室を繋ぐ階段から城を出る。


 まだ朝早い。ギルド本部には、3人ほどの冒険者と、従業員しかいなかった。


「おはようございます、エムニスさん! セリカさん!」

「ああ」

「おはようございます!」


 元気に挨拶をしてくれた従業員の女性に、笑顔で返す。


 あっ、エムニスさんのスキルのこと、聞いてなかった!


「あのっ、エムニスさん」

「どうした?」


「スキルのこと、少し聞きたいんですけど」



 ……。



「俺のエクストラスキルは、創造者、クリエイターというもののみだ。これは、自分が想像したものや風景を再現することが出来る。その規模によって、消費する魔力も変わってくるが」


 私とエムニスは朝の人がいない公園のベンチにすわり、話をする。


「エムニスさんのスキルは、レベルいくつなんですか?」


「俺のクリエイターはレベル5。レベル1の頃は、ちょっとした水筒を作ったり、箱を作ったりする程度のモノだった。それ以上のものを作ろうとすると、魔力が枯渇して数日間気絶したり、時には幻覚をみることすらあった」


 なるほど、エムニスさんのスキル<クリエイター>は、莫大な魔力を消費して使う魔法なんだ。


「それって、エムニスさんが知っているものなら、何でも作り出せるんですか?」

「ん。まあ、一応な。複雑なものや初めて見たものでも、一から俺が頭の中で設計したりして、形にすることもできる」


「それって、今、私が見せたモノでも作れるってことでいいんですよね?」

「ああ……何か欲しい物でもあるのか?」


 私はポーチから献立や必要な素材、大事な予定などを書く用に持ち歩いているメモ帳とペンを取り出し、簡単なオープンカーっぽい物をササっと描き上げる。


「なんだ、これは?」

「カーです」

「カーデス?」


 エムニスは初めて見るそれに興味を示す。私は簡単に車というモノを説明して、エムニスにこの車という乗り物の情報を与えていく。


「なるほど、燃料を燃やして推進力を得るのか……ガソリン? というものは知らないが、仕組みさえ分かれば、他のモノでも応用できるだろう」


 私たちは公園の広場に立ち、エムニスが深呼吸する。


「スキル、クリエイター」


 エムニスさんの目が私の時みたいに、緑色に光る。やっぱり、クリエイターって私のスキルとほとんど同じなのかな?


 それなら、熟練度を上げる方法は、スキルを使いまくること? でも、それで本当に制限が解除されるのだろうか……。 常にギラギラ目が光りっぱなしも怖いしなあ。


 そんなことを考えていると、目の前には巨大な魔法陣が浮かび上がり、次第に遊具が見えなくなるくらいの白い光が視界をうめる。


「うあっ……!」

「くっ、むずかしいなっ!」



 光は収まり、目の前には、私が描いた4人乗りのオープンカーがイラストの通りに再現されていた。この完成度、間違いなくエムニスのセンスだ。


「完成したぞ、まずは、使えるかどうかだな」

「うんっ、エムニスさん、こっちに」


 エムニスを助手席に座らせて、運転席に回る。


 ……そういえば、私免許持ってないけど大丈夫かな?


 考えるだけ無駄か。



 出来るだけ簡略化された、というか、車をあんまり知らない人が描いた運転席といった、ボタンが数個、ハンドルと、アクセル、ブレーキしかない簡素な作りのソレに座り、スタートボタンを押す。


「きゅるるるるるるるるるる……」


「……」

「……」

「るるるるるるる……」


「おい、どうなんだ?」

「おっかしいな~? ガソリンじゃないとダメなのかな? エムニスさん、これ、どうやって動くの?」

「あっ」

「えっ?」



「すまん、燃料を入れてなかったな」

「ズコッ」


 エムニスの初歩的なミス。ガソリンタンクを模した穴に、何やら石を入れ始める。


「え? それが燃料ですか?」

「ああ、魔力で動くように、改造させてもらった」


 すごい、異世界っぽい!!


「これは魔力結晶といってな、大地から湧き出る魔力が、洞窟などの魔力濃度が濃い場所で結晶化したものだ。正直、使い道が無かったから大量に余っているが、こいつには上手く使えそうだ」


「へええ~っ……」


 関心していると、エムニスがこちらを見て、ニコっとする。


「さあ、もう一度やってみてくれ」


 私は席に座りなおし、スタートボタンんを押す。


「きゅるるるっるるるるるるるっるっるっる」


「お?」

「いけるか?」


「ブォンッ」


 車が軽快な排気音を奏で、弱く振動する。なんか音がメチャメチャデカい気がするけど……上手くいったようだ!


「おお、すごい……」


 エムニスは年相応な、男の子って感じの反応をする。


「なんか緊張する! 上手く運転できるかな?」


 アクセルを軽く踏むと、前にゆっくりと進みだす。


「うおおおっ!?」

「あははははっ! すごーい! エムニスさんっ! 車作っちゃった!!」


 興奮する二人。狭い公園で八の字に回って、大体の運転方法が分かったところで、街の大通りに出る。


「ヒャッハー!」

「うおおおおおおっ!!!」


 超絶大興奮の私たち。エムニスは見たこともないような、楽しそうな表情を浮かべて、叫んでいる。


 ……時速20キロくらいで。……自転車じゃんけ!



 ギルド本部周辺を一周して、ギルド本部の目の前で止まる。


「ありがとう、エムニスさん!」

「はは、はは、はあ……楽しかった。こんなもの、良く思いついたな。さすが英雄と言われるだけある」


「あッはは……」


 もう、自分で開発したことにしちゃおうかな? ……いやいや、他に転生してきた人がいたらどうするのさ! って、居ないか……。


「魔力結晶なら、商店街に行けば腐るほどある。……その、たまには乗せてくれよ」

「え? もう一つ作ればいいじゃない」


「運転なんかできるわけないだろ。そんなよくわからないボタンだらけの乗り物!」


 そっか、運転しているところを見たことがある私は、何となくで操作できていたけど、初めて見た人がこれがアクセルで……なんて分かるわけないか。


「わ、分かったわ! 時間あるときに、運転方法教えてあげる!」

「本当か!? 約束だぞ?」

「はーい、じゃあ、行ってきまーす!」


 そう言って、ハンドルを持ち、アクセルを踏む。


 キイイインという高いモーター音が、街の壁を反射して響いている。


 街に大きな赤い物体が走り回っているのを見た人の目がテンになっている。なんだか、場違い感がやばい。


「こりゃ、家の前に置くわけにはいかないなあ……」


 私はギルド本部から南にある大通りを通って家に帰る予定だったが、そのまま家を通り過ぎて、街の外まで移動した。


「やっぱり、車って便利ね。……なんだか、場違い感が否めないけど」


 しかも、調子に乗って真っ赤なスポーツカーみたいな見た目にしちゃったし、マフラー? の構造をエムニスさんに教えてなかったせいでなんか爆音だし……要改善な点がたくさん出てくるわね。


 街の外、安全な芝生の上に車を置いて、ロックを掛ける。


 その後、自分の足で家まで向かった。



 ◇◇◇



「ただいまー」

「遅かったじゃん、エムニス怒ってた?」


「ううん! むしろ、なんか親睦を深めたといいますか……」


「へへっ、そりゃよかったな」

「お姉ちゃん! これ!」


 ティナちゃんは、寝坊して朝食を摂っていない私のためにおにぎりを作ってくれていた。


「ありがとう、ティナちゃんっ!」

「えへへっ!」


「ホントはあたしが作ってあげる予定だったんだけどなあ」

「へへっ、こいつ、どんだけ丁寧に握っても三角どころか、丸型にすらならなかったんだぜ。もはや才能だな」

「シーマ! いまあたしのことバカにしたでしょ!」

「事実を述べたまでだ! うおっ!?」


 ミコが殴り掛かるのを、スレスレで避けるシーマ。私の所にティナちゃんが来て、苦笑いをしている。


「ミコお姉ちゃんとシーマお兄ちゃん、仲よしだねっ!」

「違うもん! シーマのバカっ!」


「あはは! 二人とも……」


 呆れ顔の私とティナちゃんを見て、二人は落ち着く。


「そろそろいこっか!」

「うんっ! ティナちゃん、はいっ」


 ミコがティナちゃんと手を繋ぐ。シーマが可哀想だし、私はやめておこう。



 ◇◇◇



「じゃーん!」

「あっ、これ、バスデンシャ!?」


 なんか、色々間違えてるけど、いっか!


「そう! エムニスさんに作ってもらったの!」


「あの王子、何でもできるな……」

「すっごーい! かっこいいー!」


 私たちは車に乗り込み、エンジンをかける。


「きゃあっ!」

「ひゃあっ!」

「うおっ!?」


 三人とも、初めて乗る車、周りに響くエンジン音を聞いて、ビックリしている。


「ふふっ、じゃあ、行くわよー!」


「「きゃあああーっ!」」

「うおおおおおっ!!!」


 時速60キロ。彼女たちは体験したことがないだろう。森を迂回して、広い草原を駆け抜けるには丁度いい速度だ。気持ちい風が当たって、次第にみんなも慣れてきた。


「気持ちいい~!」

「すごーい!」


「あははっ! これならすぐにフリャまで着くね!」



 広い草原にポツンと浮かぶ鮮やかな赤い車は、あっという間にフリャへたどり着いた。

よんでくださり、ありがとうございます! 


次回は、フリャでまさかの人物に会う回です。


今夜投稿する予定です!

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