33 バザールへの準備!
「もう、シーマなんか大嫌い!」
「あはは、ミコ、ごめんね?」
住宅街にある、小さな公園の街灯に照らされているベンチに二人ですわる。
「あそこで二人とも離れるわけには……ね」
「キッカさん、どこ行っちゃったんだろう」
「この時間じゃあ、宿も閉まってるもんね……」
そんなことを話していると、公園の入り口から何者かが歩いてくる音が聞こえた。
その人物は、キッカさんだった。
「あっ……二人とも」
やっぱり、行く当てがなくて街をフラフラとさまよっていたんだ。私たちはコクリと頭を下げると、キッカさんがベンチの目の前まで歩いてきた。
「ごめんね、二人とも……冷静じゃなかったわ」
「いえ、私たちが悪いので……謝らないで下さい」
目の前で頭を下げるキッカさん。私たちはベンチの隅を空けて、座らせる。
「キッカさん……今日は色んなことがあって出来ませんでしたが、明日から特訓、よろしくお願いしますっ」
「あたしも、お願いします……」
「ふたりとも……」
しばらく無言の時間が続き、キッカさんは俯いていた顔を上げて口を開く。
「分かったわ。そういうことなら、早く寝ないとね! ……遅刻しないようにね」
「「はいっ」」
宿へ向かうキッカさんを見送り、見えなくなってから、私たちも家の方向に振り向き、歩き出す。
◇◇◇
家の扉を開けると、キッチンの前のテーブルにはシーマが座っていた。
「お、おかえり……セリカ……ミコ」
「だだいまっ」
「ふんっ」
ミコ、ご機嫌斜めのもよう。
「悪かったって、ミコ、セリカに聞きたいことがあったんだよ」
「話の内容は大体聞こえてたから分かるわよ……それよりも、げきおこキッカさん、めっちゃ怖かったんだから!」
ひとりだけハブられたことよりも、怒り狂うキッカの目の前で一人取り残された事の方が、つらかったとミコ。……シーマはミコに何度も謝る。
安心して……ミコは明日にでもなればすぐ良くなるから。
「と、とりあえず、今日は寝よ? 明日はやることたくさんだし」
「そうだな……じゃあ、おやすみ、二人とも」
ミコは無言で私の手を引き、二階へ上がる。私はシーマの心配そうな顔を見て、口パクで「大丈夫」と伝える。そして、「おやすみ」とも。
……。
「はぁ~っ、疲れた」
バフっと音を立てて、ベッドに倒れこむミコ。私は上着を脱いで椅子に掛ける。
「ミコ、その服、汚れてるよ」
「……ごめん」
毛布に顔をうずめたまま、謝るミコ。ムクっと立ち上がって、クローゼットの前で着替える。
「今日は疲れたなぁ……」
「ほんと、セリカはよく頑張ってるわ」
「今回の事件が解決できたのも、みんなのおかげだよ?」
なんだか不満そうな顔。……ならば!
「ミコのお陰、だよ」
「……セリカ、っ!」
ミコは嬉しそうな顔をしてベッドに入った私の上に飛び乗る。
「うがっ!」
「セリカ、大好きっ」
そのままモゾモゾと毛布の中に入り、ぴったりくっついて寝る体制になる。
「その、シーマのこと、許してあげてね?」
「ふんっ、イヤ。セリカのこと、独り占めしようとしたから」
ミコってば、本当に可愛いなぁ……。
天井を見つめ、今日の出来事を振り返っていると、右頬にツンと、ミコが人差し指でつつく。
「おやすみ、セリカ……」
「うん、おやすみっ」
頬をつつき返すと、ニコっとして目を閉じる。
明日は忙しくなるから、私も早く寝よう……。
◇◇◇
「ろ……きろ……起きろーぉぉっ」
ぺしぺしとおでこを叩かれているような気がする。……いや、気のせいじゃない。
「んむ……?」
目を開けると、呆れた顔をしたミコと苦笑いするティナちゃんが。……どうやら寝坊したらしい。
時計を見ると、もう9時だった。いつもなら、着替えや洗顔、歯磨きなど、朝のルーティーンと朝食、ティナちゃんの送り迎えを終えて、今頃は魔物退治にでも出かけていた頃だろう。
「……あっ!! 今日、エムニスさんの所にいかないとだった!」
「セリカぬきで行って来たわ。エムニス、笑ってたから多分大丈夫!」
本当に大丈夫なんだろうか……?
「そういえば、シーマは?」
「シーマお兄ちゃん、どこかにいっちゃったの……」
ミコが俯く。……知らない間に何があったの!?
「エムニスとの騎士団ミーティングが終わった後に、あたしがシーマと一緒に帰ろうとしたら、用事を思い出したとかって言って、どこかにいっちゃったのよね」
「なんじゃそりゃ……」
「お姉ちゃん、シーマお兄ちゃんのこと、探してほしいの……」
心配そうなティナちゃん。今日は二人でバザールに出品するものを作るって約束してたんだっけ。シーマも、あんまりティナちゃんのこと心配させないでよね! ……私が言えることじゃないけど。
「スキル、クリエイターモード」
マップを開き、シーマを探す。……いた。商店街のパルジャームと書かれた場所にいる。多分、何かのお店だろう。
お店の中には、シーマ以外にも、ハルという人物の反応がある。隣り合わせになっているということは、きっとこの人に用事があるってことだろう。
ハルという人物の詳細情報を見る。
レベル25……強者同士のつながりということだろうか。槍使い、熟練度は690……このタイミングで、お店でお話って……。
きっと、この人がマスターの知り合い? 獣人を救った冒険者?
シーマ達以外にも、獣人のことを助けてくれる冒険者がいるんだ……今度、会ってみたいな。
「お姉ちゃん、どう?」
心配そうに私の目を見つめるティナちゃん。彼女の大きな瞳には、目がペカーっと光っている自分の姿が反射する。……クリエイターモード中って、こんなになってるの!?
なんだか夜に懐中電灯を当てられた猫のような目をしている自分に驚き、すぐにクリエイターモードを閉じる。
「居たよ……その、ぱるなんとかっていうお店で、ハルって言う人とお話をしているわ」
「ハル……? 聞いたことないわね」
「レベル25の冒険者よ。私は多分、工場を爆破した獣人を助けた人じゃないかなって思うんだけど」
「あたしと一緒に家に帰るより、ハルってやつと会う方が大事ってこと?」
「ミコ、昨日のシーマの落ち込みよう、すごかったんだから……シーマはミコのことなんだかんだで大好きだから、本人にあんなこと言われたらそりゃ顔も合わせづらくなるわよ」
「だって、シーマひどいんだもん! あたしのこと一人にするし、セリカ独り占めにするし……」
「あはは……」
珍しく、熱が引いていないようだ。時間かかりそうだな~。なんて他人事みたいに思ってるけど、早く仲直りしてほしいものだ。……視線を感じて、その先を見ると、ベッドに手をかけてしゃがみ、顔だけ見せているティナちゃんが苦笑いをしている。
ティナちゃんは本当にいい子だなあ……不満の一つや二つ、いや9つくらいありそうなものだが……。
私はベッドから出て、遅めの朝食を摂る。……すると、扉が開き、シーマが帰ってきた。
「ただい……おっ、セリカ、ようやく起きたのか?」
寝間着姿で、ボサボサの髪の毛をそのままに朝食を摂っている私を見て、ニヤつくシーマ。
「寝坊してしまいました」
「へへっ、セリカも寝坊するんだな」
「初めてだよ……寝坊なんて」
今の姿が恥ずかしくなって、急いでパンをほおばり、スープで流し込む。
「んぐっ! えほ、げほっ!」
「お、おい、大丈夫か……?」
むせる私の背中をさするシーマ。しばらくして落ち着いて、シーマの方を見る。
「ありがとう……それで、シーマ」
「ん? なんだ?」
「ハルって誰」
「ああ、見てたか。あいつがマスターの知り合いだ」
「やっぱり、そうなのね」
ハルという男は、160センチほどの小柄な体系で、3歳のころからずっと祖父に剣を握らされて、森で自給自足の生活をしてきた。シーマ曰く、すさまじい剣の速さと、地形を最大限に活用し、縦横無尽に飛び回る戦い方が特徴的だという。
「彼の父親が経営するパルジャームという料亭に、極偶に姿を現すんだ。今回は運が良かった」
あの人が街に寄っていなかったら、獣人たちは助からなかったかもしれないという。
「私も会ってみたいな」
「……彼は女性が大の苦手だ。多分、まともに喋れないだろう」
「そっかあ……お礼、言いたかったなあ」
「まあ、俺から伝えておこう」
お皿を片付けて、コップの水を飲み干す。二階からミコとティナちゃんが降りて来た。
「おかえりっ、シーマお兄ちゃん!」
「ああ、ただいま」
「シーマ、おかえり」
「ああ……ミコ、ただいま」
「ミコ、ごめんな……」
「……りね」
「ん?」
「カフェのドーナツ、食べ放題、おごりねっ」
そう言って、ニコっと笑うミコ。……考えたなっ!
「そんなんでいいなら、いくらでも」
「ミコが太らない程度にね」
ミコが調子に乗ってぶくぶく太っていく姿が頭に浮かんできて、一応忠告しておく。
「んじゃ、あたしとセリカはかるた作りを始めるから、ティナちゃんをよろしくねっ」
「シーマお兄ちゃん! 一緒にがんばろ!」
「ああ、まずは、買い物からだな」
◇◇◇
「いってらっしゃい!」
シーマとティナちゃんは準備をして、家を出る。
「セリカ、お昼まで頑張るわよ!」
「やる気ね、ミコ」
無い袖をまくる動作をしてガッツポーズするミコ。
バザールは明日、それまでに、たくさん作るぞー!
これからもよろしくおねがいします。




