31 王室にて
「セリカ、この度は、ありがとう」
「いっ、いえ! 私は何も……」
私とミコは椅子に腰かけ、向かいに座るエムニスと話す。
エムニスの部屋は、トレーニング器具だらけかと思ったが、意外にも家具は最低限で、白くて清潔な雰囲気だった。
今回の騒動は、べもべ? カンパニーという企業に劣悪な労働環境で働かされていた獣人たちが、獣人である私が活躍する姿を見て、獣人全員で工場爆破計画を立てて、企業を派手にぶっ壊して、ついでに脱走しようとしていたものだという。
朝の細路地でコソコソと話していた男たちは、きっとその獣人だったのだろう。
最初の轟音は、工場内の爆弾を起爆した時のものだ。私はエムニスから爆破後の工場の写真を渡される。
工場は外側の骨組みを残して、ほとんどが木っ端微塵だ。製造機や部屋があったはずの地面には、炭や瓦礫が積もっている。もし人が居たなら、間違いなく命を落としていただろう。
「ひどいね」
「うん……」
「これは、獣人にとっての第一歩だ。セリカと他5人のお陰で、この街も良い方向へと変わっていくだろう」
「そういえば、エムニスさんが部屋に監禁? 監視されてたのはなぜですか?」
エムニスは、手を組んで肘をつき、話し始める。
……城内の使用人たちは、その企業と手を組んで悪さをしていた。それに気づいたエムニスは、内密に阻止する計画を立てるが、その動きを使用人たちに勘付かれ、部屋に閉じ込められていたという。
24時間、使用人が集中力を切らさないように、短い間隔で使用人が交代し、剣を手から離さずエムニスを監視し続ける。
その間、ずっと筋トレをしていたらこうなったらしい。……いやこうはならんでしょ。
その企業と城の使用人が獣人を差別の対象に仕立て上げ、私たちが生まれる頃には奴隷のように扱うまでに発展していた。
全ては、金儲けのために。
「と、いう話らしい」
「らしい?」
「いや、オレも当時生きていたわけではないし、これも母上から聞いた話だ」
「え、だってエムニスさん、いくつなんですか……」
「ん? オレはまだ19だ」
脳漿が沸騰しそうになる。エムニス王子ってこと? この見た目で、未成年ってアリ……!?
ミコも衝撃の事実と言わんばかりに驚いている。
……そう、これは最近の出来事ではなく、ずっと昔からこの企業が儲けるために仕組まれたものだった。
1年前、エムニスの両親が他界し、彼が王として街を任されるようになってから、企業の悪だくみがエスカレートしていったそうだ。
驚きを通り越し、無言になる私たちを見て、エムニスは心配そうな表情になる。
「……そうだ、その制服、着てくれたようだな」
話を変えて、私たちが身にまとう、純白に空色の装飾が施された制服を見る。
「こういったしっかりした服は着たことが無かったので、ちょっとだけ緊張しています……」
「これ、エムニスがデザインしたの?」
「ミコ! 言葉遣い!」
「はは、いいんだ。……そうだ。俺がデザインした」
「あんた、いいセンスしてるわね!」
「そ、そうか……?」
え、こんなフランクな感じでいいの?
「勝手に任命してすまなかった。この街には、獣人と人間を繋ぐシンボルが必要だった」
「それが、あたしたちってことね!」
「ああ、そうだ。……そして、今ギルド本部では騎士団の募集をかけている所だ。騎士団は、100人ほどの規模まで増やす予定だ。その中の特にオレが信頼を置く者を、精鋭騎士とし、この城内を出入りすることを許す」
「しばらくはまだ、獣人と人間の間には大きな谷が出来ているだろう。お前たちは、その谷に橋を架ける者になってもらう」
そう言って、私たちの前で頭を下げる王子。
「ちょっと、そこまでしなくても!」
「ねぇ、エムニス。あたし、あんたともみんなと同じ仲間として接したいんだけど」
「ああ、もちろん。オレを、お前たちの仲間として共に戦わせてくれ」
頭をあげ、真剣な表情でそう言う。
「そうだ、爆破計画を立てた獣人はどうなったんですか!?」
「安心しろ。何者かが拘束されていた獣人たちを救った。……そう、獣人たちからは聞いているが、肝心の救った人が分からないままなんだ」
あの後、獣人たちは工場内で生き残った悪人たちに拘束され、まとめて処刑されるところだったが、何者かによってそれが阻止されて助かった。そのうちの一人が、エムニスさんの所に行き、無事であること、何者かが助けてくれたことを報告に来たという。
「そっか……よかったあぁ……」
「これで死人が出てたりしたら意味ないもんねっ」
「ああ、だから感謝したいんだ」
ぎゅるるるる……
突然、ミコのお腹が鳴り出す。それを聞いた私とエムニスは一瞬こらえるが、すぐに吹き出してしまった。……こういう緊張感のある場所だと、こらえればこらえるほど笑いのツボは浅くなるものだ。
「長話してすまない。まだ昼食を摂っていなかったとはな」
「ちょっとお腹すいたかも」
「もー、ほんとにミコは緊張感がないなあ……」
「空腹には耐えられませんでしたわ……」
「あっはは!」
「ふっ」
◇◇◇
「それじゃあ、また明日」
「はい! これからよろしくお願いします!」
私たちは城を出て、エムニスと挨拶をして別れる。
「おなかすいたー。セリカ、ご飯~」
「その前に、ティナちゃんを待たないと、そろそろ帰ってくる時間だし」
ミコは時計を見る。……もう3時50分。そろそろティナちゃんが帰ってくる時間だ。
「ねえミコ、やっぱりシーマも連れてご飯たべたいな」
「うん……じゃああたし、シーマのとこ行ってくるから、セリカは先家帰ってて!」
ミコはそう言って、手を振りながらカフェの方へ向かおうとする。私は危険予知のことを思い出し、手を掴んで止める。
「にゃっ、セリカ?」
「ミコ、ティナちゃんを待ってから、一緒にいこ」
「あたし、そう言えば今日厄日なんだっけ……」
「一人にするの、心配だよ……」
あと8時間以内に何かがミコの身に降りかかる。そう思うと、背筋がゾワっとする。
「ちょっと待ってね……」
私は腰のポーチから白い勾玉を取り出す。
「なにそれ? 石?」
勾玉を手のひらに乗せて握り、念じる。
「「シーマ、聞こえる?」」
……。
……。
「「セリカ、起きたのか」」
よし、通じた!
「「そっちは大丈夫そう?」」
「「ああ、大丈夫だ。マスターは見つかって、お前らが拘束したキッカも大丈夫だ」」
「あっ!!!」
「ひゃっ!? セリカ、急に大声ださないでよ!」
私たちは全力で外に出るのを止めるキッカさんを拘束したんだった。
「シーマが、キッカさん、マスターさんと一緒に居るって」
「なんで分かったの……? って、キッカさん!」
ミコも思い出して、顔が青ざめる。
「「ご、ごめん、キッカさんのこと、忘れてた……」」
「「説教は逃げられないからな。……今夜、ティナを寝かせて、カフェに来てくれ。話がある」」
「「今からちょっと遅めのお昼ご飯をみんなで食べようって話をしてたんだけど」」
「「俺は大丈夫だ。まだマスター達と話すことがあるからな。……その、また夜、カフェで待っている」」
「「分かったわ」」
そう言って、勾玉を持った手を胸から降ろし、徐々に日が傾いてきた空を見て、ミコに話す。
「シーマは来ないって。……話があるから、夜ティナちゃんを寝かせた後カフェに来てほしいって」
「その石、便利ね……ちょっと貸してよ!」
スーっと伸びてくる手から勾玉を遠ざけ、ミコの方を見る。
「ダメっ! ミコ、絶対いたずらするもん!」
「あっはは……そうですよね~」
「今日はお昼抜きにしてティナちゃんと3人でご飯食べよっか……ミコ、大丈夫?」
「うんっ、その間に色々と済ませちゃうわ。ティナちゃんと話したい事いっぱいあるし。」
お腹が空いているであろうミコは、私に合わせてくれたみたいだ。……今日は、ちょっといいご飯でも食べようかな。
◇◇◇
家に帰って、制服を脱いでラフな格好になった後、コップに水を注いでずっと乾いていた喉を潤す。
「っはー!」
「なんかおじさんみたい、セリカ」
テーブルに肘をついて私のおっさんぽい仕草を見るミコ。
ガチャリと音を立てて、家の扉が開く。ティナちゃんだ。
「ただいま……あっ、お姉ちゃん!!」
靴を脱ぎ捨てて、勢いよくミコの所に飛びつくティナちゃん。
「おかえり、ティナちゃん……心配かけてごめんね」
「ううんっ、きっと悪い人を倒してくれるって、学校の先生が言ってた!」
「おかえり、ティナちゃん……! ご飯まだ時間かかるから、ミコと一緒にお風呂入っちゃって!」
「うんっ! セリカお姉ちゃん、ミコお姉ちゃん! ……獣人のみんなを助けてくれて、ありがとう!」
笑顔でそう言って、ミコと一緒に風呂場へ行く。
ティナちゃんのために頑張ったと思えば、これくらい……。
むしろ、ティナちゃんの笑顔で疲れが全て吹っ飛んで、今は料理への意欲しか沸かない!
「今日は、がんばっちゃうぞー!」
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