25 怪しい動き
この話は、シーマくんがメインのストーリーでございます。
「よう、久しぶりだな、マスター」
「シーマか。待ってたぜ。……なんだか以前会った時よりもいい顔してるじゃねぇか」
「気のせいだろ、いつも通りだ」
マスターは俺の顔を見て、鼻で笑う。俺をいきなり呼んでおいて、なんと失礼なヤツなんだ。
「嘘つけ。お前、しばらくあの猫族の英雄さんとやらと同棲しているんだろ? 新しい生活が楽しいんじゃないのか?」
「……そうだな。まあ、俺はあいつらからなんでもそつなくこなせる便利道具みたいな扱いを受けているがな」
「はっはっは! そりゃ面白い。ギザルのために修行した成果が行かされているようだな」
「あのジジイのためじゃないぞ。俺は仕方なくやってただけなんだ」
「ジジイとはなんだ?」
脳天に響き渡る鈍痛。上を見ると、ギザルが覗き込むようにして、俺を見ていた。
ギザルは、あの後しばらくアシメたちとパーティーを組んで依頼をこなしていたが、二人はダンジョンに行くといって途中で別れたようだ。
情けない話、こいつは一人で生きていけない。マスターに泣きつき、カフェの二階にある空き部屋を借りて過ごしているらしい。家事全般は、俺の代わりに従者を雇っている。
「ギザルさんっ! 靴下はともかく、カゴに入れるものすべて裏返すのはやめてください!」
そういってプンプンと怒っているのは、おそらく新しい従者だろう。小柄の女性で、茶髪のショートヘアに、ウエイトレス風な制服を着ている。この店の従業員でもあるのか。
「す、すまねえ、キッカ。毎度毎度……へへ」
マスター曰く、カフェでは毎日のようにこの光景が見えるそうだ。新しい従業員兼ギザルのお世話役。俺と違ってカフェで仕事をしながら、ギザルのお世話とは、なかなかできるやつだ。
この涼しげな色素の薄い肌をした女性は、フラエタの出身で、職が見つからないとマスターに相談したところ、都合良くギザルのお世話役を任されてしまったようだ。
「キッカさんって言うんだね。俺はシーマ。こいつの元お世話役だ」
そう言うと、今までの苦労を共有してくれる仲間が見つかったと感動して、笑顔で俺と握手をした。なんとなく和やかな雰囲気になり、照れ笑いをするギザルを二人でにらみつける。
「あはは、はは……ふう、久しぶりだな、シーマ」
「ああ、久しぶりだな」
「今日は嬢ちゃんたちと一緒に居てやらないのかい?」
「居てやるって、俺はお願いして一緒に居させてもらう身だ」
「お前がそんなことを言うなんてな。英雄さんは実は怖いのか?」
「英雄さんって、セリカさんのことですか!?」
キッカは顔を近づけ、目をキラキラさせている。
そうだ、と一言。すると、俺の手をつかみ、鼻息を荒くする。どうやらこの女性も英雄さんとやらの大ファンらしい。……当の本人は、私なんにもしてないから! なんて言うけどな。最近では彼女の魔物退治をする姿を見た冒険者が、彼女の活躍を、噂だけでなく、行動を見て評価する者も増えている。
「さて、本題だが……街で変な動きがある。俺が仕入れた情報によれば、意図的に魔物を操り、街で騒ぎを起こそうというものだ。その後の目的までは分からないが、いいことでないことは確かだ」
「なるほどな。俺たちに阻止しろと?」
「無理は言わないが、お前の実力を見込んでのお願いだ。俺たちと言ったが、俺がお願いするのはシーマ、お前だけだ。それ以外のパーティーについてはお前に任せるが」
俺は頼んでいたコーヒーを一口、そしてマスターの目を見る。真剣な表情。
「はぁ、分かった。また街に変な動きが見られたら教えてくれ。」
さて、どうしたものか。
レベル25、現時点での最高レベル。この島には十数人しかいなくて、しかもそのほとんどが連絡が取れない。だから面倒ごとはほぼすべて俺の元へ来る。
他人事と放置するわけにもいかないので、受けるしかないのだが、いつもは既に魔物の情報や、数が分かっているものだったが、今回は訳が違う。正直不安だ。
本当はセリカたちを巻き込みたくないが、無言で調査するわけにもいかないし、この事を話せば、きっとついてくるだろう。
「……すまん、ギザル、協力してくれ」
「最初からそのつもりだぜ、シーマ」
「……今回の依頼については、セリカたちには直前まで黙っておく。」
「いいのかよ? 英雄さんは頼りになるんじゃないのか?」
「ここずっと、あいつには苦労をかけてしまっているからな。しばらくはゆっくりしていてほしいんだ。」
「お前がそんなこと言うなんてな。変わったな」
「お前まで……」
俺がマグカップを持ち上げ、口元に近づけると、奥にいたギザルの新お世話役が俺の元へ来た。
「シーマ、さん! 私もその調査、手伝わせてください!」
「ぶっ! キッカさん、だっけ? これは素人が手を出していい案件じゃない」
「分かってます! 少しでも、力になりたいんです!」
やれやれ、英雄さんの影響で、少なからず冒険者を志す一般人も増えてきている。
……この女性を説得するのは、そこらの魔物を退治するより大変そうだ。
「んじゃ、しばらくの間ギザルを借りるぜ」
「もうそのまま持って帰ってもいいんだぞ?」
「やめてくれよ。もう二度とお世話役はゴメンだ」
俺はマスターに挨拶をして、カフェを出る。……俺の服を掴んで引きずられるキッカさんを連れて。
彼女はどうしてもセリカたちに会いたいらしい。こんなに我がままな奴だったとは、と思いつつ、合わせてやるだけならとも思っていた。
「お前は戦えるのか?」
「剣が少し……リャバの闘技大会の剣技部門で準優勝したことがあるんですよ!」
驚いた。闘技大会は、年に一回、猛者が集う島最大のイベントだ。俺も参加したことがあるが、魔法と剣を両方使ってズルく戦う俺には、剣一本で本選まで来た奴らには勝てなかった。
準優勝とは、本当にギザルのお世話役でいいのか?
「そんなに強いのに、なんでギザルなんかのお世話役をやっているんだ?」
「それは……」
彼女は平均レベルが20そこらの冒険者パーティーで前衛をつとめていたそうだが、たった一人で魔物をバザバザと倒してしまい、仲間に経験値が入らないからと、追放されてしまったようだ。
一文無しになった彼女は、しばらくは依頼をこなして生計を立てていたが、次第に装備類の耐久限界が来て、一人で街の外を歩けるほどの装備を買うことが出来なくなった。
「そんなわけで、最後の贅沢と、カフェに来てみれば、いい仕事があるとマスターさんに言われたものですから……ふたを開けてみたらビックリ、おじさんのお世話役だなんて」
「あはは……苦労したんだな」
「俺の扱いひどくないか?」
ギザルはしょんぼりしながら俺の後ろを付いてくる。彼女は俺の右隣を歩いているが、ずっと手に持っているセリカとミコが戦っている写真を見つめている。
「なんでこいつらのファンなんだ? 他にもすごい人がいるんじゃないのか」
「それは……この子たちが獣人だからです」
「そうか……そういえばあいつら、獣人だったな」
あまりに慣れすぎていたのか、そんなことは忘れていた。この街で獣人として活躍する者は彼女らしかいない。他の獣人たちは毎日人間にバレないか怯えながら生活しているからだ。
ネイバでの仕事は賃金が高い。村から街に出稼ぎにくる獣人たちは少なくないが、バレればどんな扱いを受けるか分からない。街の中には人間の皮を被った悪魔がいるからな。
俺は、その悪魔をよく知っている。獣人の恨みも。
「さん? ……シーマさん?」
「はっ、すまん」
道のど真ん中で立ち尽くしていた俺を下から覗き込み、声を掛けるキッカ。
「私は、この世の中にいい流れを与える彼女たちと一緒に冒険してみたいです!」
「……実は、セリカたちはまだレベル16なんだ」
「ええっ!? ボスを軽々と倒す英雄って……」
「そうなんだ。最初のうちはボスをたった6人で倒した英雄と言われていたんだが、獣人であり、ラストアタックを取った彼女の噂だけ、なぜかこんなに広まってしまったんだ」
きっと、この街にひそかに暮らす、獣人たちが広めたのだろう。……そりゃそうだ。獣人の彼たちには、大きな希望だ。
「じゃ、じゃあ、私が彼女らの剣を指導します!!」
「指導だって?」
「私、ウエイトレスなんかやってますけど、一応レベル24なんですよ!」
「うげ、俺と一緒かよ!? 知らなかったぜ……」
衝撃の事実と言わんばかりに驚き、足を止めるギザル。俺は冒険者手帳を見せてもらった。
剣の熟練度はレベル相応……いや、500オーバーだと……俺は830あるが、レベルカンストしていないのにこの熟練度はなかなかのものだ。
代わりに渡した俺の冒険者手帳を見て、彼女はふぁーと声をあげる。
「シーマさん、やっぱりすごい人だったんだ……どうして、大会に出なかったんですか?」
「出たさ。ボロ負けだったよ……俺は魔法や道具を駆使して、ズルく戦うのが得意なんだ。闘技大会の奴らは、剣一本でのし上がってきた猛者たちだ。……フッ、俺が勝てるわけないだろ?」
「もしよかったら、手合わせしてくれませんか?」
「お前と?」
「はいっ!」
やれやれ……と思いつつ、俺以外で剣の熟練度をここまで極めたやつを見るのは初めてだ。
正直、少しわくわくしている。
◇◇◇
俺たちはギルドの貸し出し広場を借りて、手合わせすることにした。
勿論、貸出の木刀でだ。
一定の距離を開け、彼女は足元の砂を払う。
「シーマさん、レベル25の真の実力を知りたいので、魔法もOKとします。私はこの木刀一本でいきますが」
「おいおい、本当にいいのか?」
「はい」
ウエイトレスの制服のまま、広場に現れた彼女はギザルの方を向く。
「ギザルさん、コールお願いします」
「あ、ああ、じゃあ、始めッ!!」
ギザルのぎこちない合図。俺は気が抜けていたのか、目の前にはもう、彼女の剣が来ていた。
「っと!」
ギリギリでかわす俺。次の攻撃はすぐそこまで来ていた。
「離れろッ!」
「きゃあっ!」
手のひらから暴風を起こし、彼女を後方4メートルほどに飛ばす。地面に足をつけて、まだ衝撃を流しきれていない彼女の体めがけて剣を投げる。それを弾き、剣を捨てた俺を見てゆっくりと立ち上がる。
「変な戦い方ですね。正直ビックリしています……」
「見たことないだろ? もっと面白い物を見せてやる」
「それは……楽しみですねッ!!」
直線、突っ込んできたが、あいつはきっと曲げてくる。右からの斬撃、当たりだ。
「剣を止めろっ!」
彼女の剣が動きを止める。だが、剣を止めているわけじゃない。彼女は混乱して、俺を見る。
「わっ……くっ!」
「これが、幻惑魔法だ。お前は今、剣を自分で止めているんだ」
「なんにも、できない……っ! これが、レベル25……」
「最初の剣は正直焦ったぜ。さすが上位パーティーの前衛をつとめていただけある」
「まだっ、私の本気を見せていません!」
「いや十分だ。ミコの指導係にはな」
「それって、私も付いていっていいってことですか!?」
「今回の事件は、人手が多いほどありがたい。しばらく、俺とパーティーを組んでほしい」
「やったあっ! よろしくね、シーマさだっ!!! なにするんですか!?」
俺がキッカをデコピンして、ギザルが止めの合図をする。
「まあ話する前にまずは飯だ。腹が減った」
その後、俺たちは近くの料亭に入って飯を注文した。
出てきたのは、チャーハンと餃子。味付けの濃いご飯は家ではなかなか食べられない。彼女たちは薄味好きで小食だからな。
久々の体に悪そうな匂いを放つチャーハンを前に、俺はワクワクしていた。
「いただきます」
一口。なんというか、ここ最近獣人たちのヘルシーな食事を食べていたせいか、なんだか罪悪感を感じる。いや、美味いんだけどな?
「ん-! おいしい!」
「んぐ、おい、進んでないぞ? 大丈夫かシーマ」
ガツガツと豪快に平らげる2人。俺は残りを二人に分けて、トイレへ向かった。
鏡に映る自分を見て、口元を手で覆う。……俺、痩せたな……
最近、色々なことがあったからな。そのせいだろう。……早く家に帰りたい。
俺がトイレから出て席に戻ると、2人は先に外に出ていると書かれた紙を残して、外に出ていた。
「あっ、お客様! 会計がまだでございます!」
「はあ? ……す、すみません」
「お前ら、金ないのにこんな高級店に入ったのかよ!?」
「だ、だってシーマさんはお金持ちだからってギザルさんが……」
「お、おい、俺はそんなこと言ってないぞ! ただチューカが食べたいなって話をしていただけで……!!」
「はあ……俺は家に帰る。お前らはどっか宿にでも止まってくれ。じゃあ明日昼にカフェでな」
「おひ、昼からでいいのか?」
「俺はティナの送り迎えや家の掃除で大変なんだ。ほら、これやるから、キッカ、お前もたまには休め」
俺は金貨2枚をキッカに渡し、分かれた。
セリカにも、剣を使えるようになってほしい。弓のみだと、近距離戦に持ち込まれたとき、彼女は何も出来なくなる。
せっかくいい指導者を見つけたんだ。これから少しずつ、自分の身を守れるくらいには、剣を扱えるようになってもらおう。
「いらっしゃい、兄ちゃん」
「うん?」
声が聞こえた先には、閉店間際で安く売り出している果物屋があった。
「これから家族の元に帰るのかい? だったらちょうどいい、デザートにこれとかどうだい?」
そう言って渡されたのは、まだつやのあるリンゴだった。
冷蔵庫に入れておけば、数日は持つかな。
「じゃあ、この箱に入ってるやつを」
「助かったよ、兄ちゃん!」
「ああ、じゃあ、また」
俺は礼を言って店を離れると、今度は反対側にある八百屋に声を掛けられ……
◇◇◇
両手に大きな袋を抱えて家に帰ると、家の外で手を振る3人の姿が。何かしゃべっているようだが、うっすらと声が聞こえるだけだった。
「ふっ、あいつら……」
俺は家に帰ってきたという安心感で、自然と笑みがこぼれる。
さて、この大量の食材をどうしようか。
よんでくださり、メチャありがとうございます
職場関連の付き合いで中々手を付けられませんでしたが、なんとか1日一話を守れています。みなさんのおかげです!
これからも応援よろしくです!!!!!!!




