14 みんな、おかえり!
「ただいま、お姉ちゃん!」
ティナちゃんが帰ってくる。靴を脱ぎすて、こちらに走ってくる。私は抱きかかえて、頬にキスをする。
「おかえり、学校どうだった?」
「楽しかった! 新しいオトモダチもできたんだ!」
「そっか! 新しいお友達、大事にね?」
「うんっ! 大事にする!」
「ご飯できてるから、先にカバンとかおろして着替えてきな?」
「はーい!」
トタタと可愛らしい足音を立てて、階段を上って自分の部屋へいく。初めての学校、周りがいい子たちで良かった。これからも安心して任せてよさそうだ。
私は玄関の脱ぎ捨てられた靴を揃えて、手を洗ってから少し早い夕飯をテーブルに並べる。
「お姉ちゃん、ミコお姉ちゃんとシーマお兄ちゃんは?」
階段から顔をのぞかせるティナちゃん。
「今はおつかいに行ってるよ。明日以降の食材が無かったから。……そんなにたくさん頼んでいないし、もうじき帰ってくると思うけど」
と、噂をすれば。
「ただいま! セリカ! ティナちゃん!」
「ただまー」
二人が帰ってきて、脱いだ靴を揃える。ミコがこちらに振り向き、買ってきた食材が入った袋を突き出す。
「よくもおつかい頼んでくれたわね、セリカ!」
「あはは、ごめんね。その、イヤな予感がしてさ?」
「うっ」
ミコがよく使う、イヤな予感というワード。ミコの嫌な予感は必ずと言っていいほど当たる。私はミコのその言葉を聞くと、必ずミコの言うことを聞く。
ミコは、私の言葉を聞いてため息をつき、袋をキッチンの方へ持っていく。
「はい、これで依頼完了! 報酬は?」
「ミコ」
私はミコに抱きつく。なんだか変なニオイがする。花? 海藻? 魚? いろんなニオイが混じってる感じ。どこまで行ってきたんだ!?
「セリカ、分かってるじゃない!」
ミコは私にガバっと手を広げ、抱きつく。
昔から、私にギュッとされるのが好きらしい。ミコは耳元でささやく。
「今日ね、おいしいドーナツが食べ放題の隠れカフェを見つけたの。今度一緒に行ってくれる?」
「うん、約束」
ミコは私から離れ、ティナちゃんのほうへ行く。同じように抱きつき、頬にキスをする。
……ティナちゃんも、謎のニオイに気づいたようだ。なんだか変な顔をして私の方を見ている。
「あ、そうだ! シーマ、あれ」
「……おっと、そうだった」
ミコをボーっと見つめるシーマさんが、少し遅れて反応する。そして、手に持っている小さな紙袋からなにやら瓶のようなものを取り出した。
ミコはシーマさんからソレを受け取り、こちらに持ってくる。……謎のニオイの正体はこれか!
「セリカ、あたしたちからのプレゼントよ。受け取ってくれる?」
「うん、ありがとう! ……なにこれ?」
部屋の灯りに透かしたり、ニオイを嗅いだりしていると、ミコがクスクス笑って、シーマの隣にいく。
「これ、香水だよ! セリカ、」
「俺たちで選んで買ったんだ。セリカ、お前体臭を気にするらしいな?」
前世の時よりも、鼻がきくようになって、以前よりもちょっとしたニオイに敏感に反応してしまうようになった。それに気づいたミコが、気を利かせて香水を選んでくれたようだ。
「ありがとう、ミコ、シーマさん!」
「あは~、いい匂い!」
テーブルに置いてあるもう一つの方のニオイを嗅いで、うっとりしているティナちゃん。なんだか懐かしい香りがする。
「セリカが持ってるのは風で、そっちはね、海だよ!」
「海、かあ」
海と書いてある方には、値札が付いている。金貨一枚……金貨一枚!?
ミコとシーマはこの値札に気づいていないようだ。これは多分知らないふりをした方がいいと思う。けど、少し使うのがもったいなくなったなあ。
密封された瓶からは、かすかに潮風の香りがする。部屋に飾る? それでもいいかも。
香水を階段の一段目に置いて、テーブルの上を夕飯のみにする。
「さ、たべよ、みんな!」
私たちは席に着き、みんなでご飯を食べた。その後、それぞれ自分の時間を過ごし、平和な一日を終えた。
私が夜遅く、一人で椅子に座ってこの世界の童話の本を見ていると、1階のキッチンの奥にある空き部屋を借りて過ごしているシーマさんが扉を開け、こちらを見る。
「あっ、ごめん、起こしちゃった?」
「む、こんな時間に本なんか読んでどうしたんだ?」
食器棚からコップを取り出し、水を少し入れて私の前の椅子に座る。私は読んでいる本をテーブルの真ん中に寄せる。
「ただの童話よ。寝れなくってね」
「そうか、懐かしいな、その本」
ティナちゃんがおすすめしてくれた童話。拾われた男の子が仲間を集めて魔物を退治する話。なんだか桃太郎によく似た話だ。どの世界にも、こういった話はあるんだな……。
シーマさんが頬杖をつき、パラパラと本をめくる。細目で、眠そうにしていた。
「ギザルさん、そろそろ退院できる頃かな」
「そうだな。俺がここに住んでること、言ったらきっと驚くな」
私の目をチラっと見て、また本に視線を戻す。
「安心してくれ。ギザルが帰ってきたら、俺も元の生活に戻るさ」
「ギザルさんってシーマさんのお父さん?」
シーマさんがこっちを見て、笑う。
「ははっ、冗談きついぜ。あいつは俺の相棒で、保護者じゃない」
「そっか、出会いとか聞いてもいい?」
◇◇◇
シーマさんは昔話を語ってくれた。わけあってスラムで死にかけていたシーマさんを助けたのが、ギザルさんだったそうだ。
「じゃあ、やっぱり保護者じゃないの?」
「あいつは、戦い以外の才能がない。俺が剣を振れるようになるまで、身の回りの世話をすべて俺がやっていたんだ。当時のギザルは、あんなにゴツくなかったんだぜ」
「ふふ、そうだったんだ! ギザルさんがやせていた時の姿なんて想像できないわ」
「長くなったな。そろそろ寝るよ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい、シーマさん」
私は本を片付けて、二階にあがった。
今日は久々に、ゆっくりした一日を過ごせた気がする。
明日は今日サボった分、たくさん稼がなきゃ!
「セリカ、やっときた」
扉を開けると、寝室のベッドには眠そうなミコが起き上がって、むすっとしている。
「ごめんごめん、ねれなくって」
そう言って、ミコの隣に入る。
「シーマ、変態だけどいいやつでしょ」
「聞いてたの?」
「ふふ、丸聞こえよ」
ミコは私の頬にそっと触れる。
「ティナちゃんは学校どうだった?」
「楽しかったって。それに、もうお友達ができたみたい」
「そっか」
ミコは目を閉じ、しばらく無言になったかと思えば、いつの間にか静かに寝息を立てていた。
私はそっと頬に触れたままの手にキスをして、毛布の中に戻してから眠りについた。
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