Dream Growing Armor
重大な欠陥があったため最後の部分を修正しました。
《Dream Growing Armor》と言うゲームが在る。直訳すると《夢の成長する武具》。公式に記載されている内容を見ても、殆ど同じ意味である。
何が《夢の成長する武具》なのか。其れは、個人が初期設定時に制限された中で自由にと言う武具を創り出す事が出来るからである。其の武具は、ゲーム内に於いて人生を共にする。何も武具に限らず、服や靴等でも良い。兎に角、自分が身に着けられる物ならば、何でも創り出す事が出来る。ゲーム内では特別な固有名詞が用いられていて、《夢装》と言う名前で呼ばれている。《Dreamer》と《Armor》と《無双》を掛けていると思われる。因みに英名は《Dremor》と為っている。
只、代償が設けられている。其れは、創造した装備と同じ種類の物を装備する事が不可能に為ると言う事。成長する武具と言う、反則級の武具を装備する事が出来ると言うのだから、少しの制約は有って然るべきだろう。寧ろ、同じ物を装備する事が不可能に為ると言うだけの制約で済んでいるのは、喜ぶべき事である。
――現在は西暦2043年、科学技術が大きく進歩し、未来予知に迫る計算能力を持つ機械等が発明されている。
《Dream Growing Armor》と言うゲームが在る。未だ発売されていないが、とある有名な企業が開発したとあって期待度は高い。
科学技術が進歩した事に由って、ゲームの事情も変わって来ている。今の時代、完全没入型のVRゲームが当たり前と為っている。
十数年前に開発に成功した、比較的新しい技術にも関わらず、この十数年で数多くの企業が技術を淘汰して進化して行き、世の中にはVRが蔓延っている。今の時代、眼球が飛び出る様な奇想天外なゲームでもなければ、このゲーム業界を生き抜く事は難しく、同時に其れだけVRが進化していることも指す。
今話している《Dream Growing Armor》とは、《機密社》と言う会社が発売を発表したゲームである。ゲーム内容は有り触れた物であるが、《機密社》の強みは其処では無く、VR業界の中でも頭一つ抜きん出た技術である。因みにではあるが、《機密》とは、《機械に詳しい》と言う漢字の意味其の儘に取った意味と、《機密》と言う単語其の儘の意味を掛け合わせて付けたそうです。
其れは、『ゲームのクオリティーだけならば一、二世代は先を行く』と他の大手ゲーム企業に言わせるほどである。
目新しい物を求める現在のゲーム業界に於いて、技術だけで生き抜いている有名な企業は《機密社》だけかもしれない。
《Dream Growing Armor》は、人類が生存競争に負け、魔の生物に狩られ、隷属され、他種族に見つからない様にコソコソと暮らす世界を舞台とした、よく在る剣と魔法のファンタジーゲームである。世界の名前は《Yggdrth》。在り来りな《Yggdrasil》では無く、少し捻った名前である。《Earth》と掛けていると思わる。
これは、他種族から人類の生存圏を取り返そう、という設定である。人類とは、《ヒューマン》や《エルフ》、《ドワーフ》、《ワービースト》等の事を指す。魔の生物とは、《魔族》や《魔物》、《怪物》達の事を指す。プレイヤーは、人類の姿を模して魔生物達と戦う。
プレイヤーは人類の窮地を救う救世主として、神に召喚された使徒。使徒は《夢装》と言う武具を身に纏い、魔生物を討伐する。
其の最終目標は、魔生物を統率している存在と言われている《魔王》である。
私は《宮城美結》。中小企業に勤務し、暇が有ったら趣味程度に動画を配信する、今年四年目の社会人です。今話題になっている《機密社》の《Dream Growing Armor》――通称《DGA》を無事に手に入れる事が出来ました。
仕事の後輩に「一緒にやりませんか?」と誘われて承諾したのは良いのだけれど、正直高い倍率の中で製品版を手に入れられるか不安でしたが、無事に手に入った次第です。
休日の朝早くから同僚と待っていた甲斐があったと言う物です。
β版をプレイした人達の話しでは、現実と遜色無いクオリティーだったと言う事。ゲームとの関わりが薄い生活を送っていた私でも、其処まで評判が良ければ、否応にも期待が膨れ上がると言う物です。
事前に調べた情報では、独自の装備を自由に創る事が出来るらしいです。自由と言う言葉に、柄にも無く楽しみに為ってしまって、発売前に色々と考え込んでしまいました。と言っても、発売してから一週間後にサービス開始らしいので、未だ先の話しなんですけどね。其れでもキャラクターメイクだけは先に出来るらしいのですが。
VR機器は、今の時代は出勤もVR空間内で出来るので、問題無いです。因みに、《Dream Growing Armor》を買ったお店はVR空間の《Market》です。外に出る必要も無く、家に居れば何時でも行けるので、何日も徹夜を覚悟しないといけません。
仕事が終わったら早速キャラクターメイクを遣って見ましょう。其の決意を胸に、仕事を少しでも早くに終わらせるのです。
《Dream Growing Armor》をダウンロードし、ログインします。
視界が明けた其処は、本が密集した、言う所の《大図書館》と言った感じです。
私は読書場と思わしき、長椅子に挟まれた長机が並べられた広場に居ます。
僅かに鼻に付く紙や木の香りや、踏み締める床の感触、音。当然の様に見える景色を考えるに、本当に現実と何ら変わりありません。可笑しな事と言えば、現実では見た事が無いこの場所でしょうかね。
長机と長椅子の通路を抜けた先には、此処《大図書館》の主と思わしき人物が、一人用にしては大き過ぎる机で肘を突き、組んだ手の上に顎を置いて、静かに座っています。
私は厳かな空気の中で、静かに歩を進めました。
軈てこの《大図書館》の主の前に辿り着いて、確りと見た人物は、《大図書館》の主に相応しくない、執事服を纏っていました。しかし、身に纏う風格は、歴戦の猛者其の物と言っていいです。引き締まったガタイの良い身体や、鋭い目付きは、素人目に見ても何か感じる物が有ります。黒塗りの後ろ手に結われた髪も、其れを際立たせています。
「使徒様、私は神よりこの《大図書館》の管理を任されている《シルヴァ》と言う者です。どうぞ宜しくお願い致します」
《シルヴァ》と名乗った執事は突いていた肘を解いて、朗らかな表情で、《シルヴァ》さんに見入っていた私に語り掛けます。私は急に話し掛けられた事に驚き、次に挨拶を返していない事を思い出して、慌てて返事を返しました。
「時間も有限ですので、早速本題に移らして頂きます。先ずは、この《Yggdrth》で活動する為の御自身の名前を決めて頂きます」
そう言って《シルヴァ》さんは、机の上に積み上げられた本の内の一冊を私に手渡してきました。手渡して来たと言う事は、本を開けと言う事でしょうか。私は、確認の意味を込めて《シルヴァ》さんを見ます。すると、静かに頷かれました。と言う事は、そう言う事なのでしょうね。
本を捲ると、空白だったのでもう一枚捲ります。其処には、目次が書かれていました。第一章が《名前》、第二章が《種族》、第三章が《容姿》、第四章が《職能》、第五章が《夢装》、第六章が《技能》。如何やら、この順番で物事が進むと言う事らしいですね。
私は更にページを捲ります。すると、過半数を占めるキーボードと、最上部には空白の長方形の枠が出て来ました。
私は事前に考えていた、《Line》と言う名前を入力しました。
「では、もう一枚捲って頂き、《種族》を選択して下さい。《混血》と言う俗に言う《Half》や《Quarters》にも出来ますので、後悔の無い選択をする事をお勧めします」
《Quarters》か。《Half》にしようと思っていたけど、いざ選択を迫られると悩む。
……決めた。本当は《エルフ》と《ヒューマン》の《ハーフ》にしようとしてたんだけどね……。《混血種》の項目を選択し、《クウォーター》を選択する。そして、平均的に成長し、器用と知能の成長が高い《ヒューマン》。魔法的な素養が高い代わりに身体能力が低く、手先が器用で、自然との親和性が高い《エルフ》。身体能力が高い代わりに魔法的な能力が総じて低い《ワービースト》の中から、身体が柔らかく器用なのが特徴の《ワーキャット》。魔法的な素養が《ヒューマン》よりも高く、頑丈で手先が器用な《ドワーフ》。
以上の四つを組み合わされば、身体が柔らかく、或る程度頑丈で、魔法能力が少し高くて、身体能力が少し高い、そして極めて器用な性能になる……と信じたい。
此処まで来たからには後には引けない、と言う思いで決定する。
「では次のページを捲り、容姿を設定して下さい。一度決めると滅多に変更する事は出来ませんので、慎重に進めて下さい」
言われた通りに本を捲れば、左のページに今の自分と思わしき姿がゆっくりと回転する姿が映し出され、右のページには身体の表面部位の項目が羅列されている。
左のページに映っている現在の姿は、黒色を軸とした白銀色を僅かに帯びた髪。漆黒に琥珀色を極僅かに含む両の瞳。小柄で華奢な身体。肌色よりも少し薄い白い肌。凹凸が少なく、胸は底の浅い皿程度の大きさしかない。
変更しようと思っていたんだけど、直す所が余り無い。精々が胸まで伸びた髪を邪魔に為らない様に短くする程度である。
「ページを捲り、《職能》を決定して下さい。《職能》によって能力に掛かる補正が違いますので、自分に合った《職能》をお選び下さい。又、《職能》に合った《技能》を一つだけ選択する事が可能です」
《職能》……か。これはこれからの私のプレイスタイルを決定付ける。ただ、《種族》を決める時は事前に決めていた物から変更してしまったが、《職能》は変えない。
私が事前に決めた《職能》は、《魔法師》。誰もが一度は夢見る《魔法》に補正が掛かる《職能》である。《魔法師》の場合、九つ在る魔法の属性の中から一つ選ぶ事が出来る様である。私は《雷属性》を迷わず選んだ。
《雷属性》を選んだ理由は、私が想定している《夢装》との相性を考えてである。
「次のページを捲って、想像する《夢装》を作成して下さい。《夢装》が武器系である場合、《夢装》に合った《技能》が自動的に獲得されます」
次のページを捲る。其のページは、《容姿》を設定した時と似た様な配置に為っており、右側は《夢装》の設定項目が並べられ、左側は《夢装》を未だ作成していない為か白紙のページと為っている。
項目は上から順に、《銘》、《種類》、《形状》、《配色》、《特性》、《補正》の順番に並んでいる。上から四項目はいいが、《特性》と《補正》とは何なのかと言うと。《特性》は其の《夢装》独自の固有的な能力である。これは、プレイヤーが《特性》と為る単語を自力で入力しなければならず、運営が候補を列挙しれくれている訳では無い為、個人の発想や知識量が問われる。又、個人が勝手に決めるので、同じ《特性》を持った《夢装》が存在する可能性がある。《補正》は、所持者に掛かる能力的な《補正》の事である。こちらは運営が用意した物を選択する形なので、安心して欲しい。又《補正》は、《夢装》が格を一つ上げる毎に1ポイント支給され、ポイントを消費する事で数を増やす事が出来る。
《銘》を後回しにして、先ずは《種類》から決める。これは予てより決めていた《暗器:糸》を選択する。《暗器:糸》に《形状》何て関係無い、と言う事は無く、極めて細い形状に設定。《配色》は黒一色。
肝心の《特性》は、《増強》。《強化》で《夢装》を強化したり、《増殖》で糸の本数を増加させたりするのも良かったのだが、《強化》と《増殖》の二つの効果がありそうな……と言うか願望を込めて《増強》にした。
《補正》は、器用さを上げる《器用》と速度を上げる《敏捷》を選択する。
最後に《銘》であるが、本名にもあり、糸と関係してそうな《結》を入力した。
「最後になります。ページを捲って下さい。《技能》を二つ選択して下さい」
ページを捲る。項目は《技術系》、《魔法系》、《神聖系》、《補助系》、《生産系》の五項目である。《技能》については、公式のホームページに記載されている。莫大な数が存在する中で選択する《技能》は、《傀儡術》と《裁縫術》。活用法は使用する時になった実演と言う形で説明する。因みに、《技能》は《魂格》と言う他ゲームで言う所のレベルが1上昇する度に1だけ貰う事が出来るスキルポイントを払う事で獲得出来る。
「最終確認に移ります。ページを捲って下さい。現在の《Status》を表示しますので、変更したい箇所があれば、其の箇所を長押しする事で変更が可能です」
ページを捲る。左のページに現在の姿が回転して映し出され、右のページには現在の《Status》が纏められている。
◆名前:《Line》
◆種族:《Quarters:Human/Elf/Warcat/Dwarf》
◆魂格:《0》
◆職能:《魔法師:Lv.1》
◆技能:《雷属性:Lv.1》《操糸術:Lv.1》
《傀儡術:Lv.1》《裁縫:Lv.1》
◆夢装:《銘:結》
・種類:《暗器:糸》
・階級:《0》
・特性:《増強:Lv.1》
・補正:《器用》《敏捷》
特に変更する箇所が無いので決定する。
「分かりました。……これにてキャラクターメイキングを終了致します。未だサービスは開始していませんが、キャラクターの動作確認や、この《大図書館》に蔵書されている本はサービス開始までの一週間だけ読む事が出来ますので、どうぞ《Yggdrth》の世界の一端でも感じ取って下さい」
《シルヴァ》の言葉に考える。この《大図書館》にある本をサービス開始までの一週間だけ読む事が出来る。もしかしたら《Yggdrth》の本かも知れないし、読んで見る価値はあるだろう。
好評だったら連載版を出すかもしれません。
ちなみに現在のストックは無いので期待せずに待っていてください。
◆《World Name》――《Yggdrth》
◆《Personal Menu》:P1
・《Inventory》――《資産録》
・《Status》――《個別情報》
・《Dremor》――《夢装情報》
・《Skills》――《技能》
・《Training》――《鍛練》
・《Memo》――《手記》
◆《Communication Menu》:P2
・《Party》――《仲間》《従魔》
・《Friend》――《友達》
・《Clan》――《派閥》
・《Market》――《市場》
・《Auction》――《競売》
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