ep04-5 『Hawk eye〈鷹の目〉』
元より待ち伏せされないことは知っている。
理由は、ワルプルギスでは短時間で四十メートルほどの距離を埋められるほどのブーストチャージが出来ないことと、出来たとしてもこちらには盾があることから優華には出来ないことは知っていた。
だが、慢心はだめだ。相手は本気で殺りに来ている。一瞬の油断が、ASの勝負の負けとなる。
地面に着いた瞬間、手に持っていたアサルトライフルを構え、優華の『ワルプルギス』に向かって引き金を引く。
にしても、本当にやり合っているのかぁ。弾の数が持つかわからない。
「……無駄」
「ですよね!」
まぁ、一応、牽制として撃ったからとはいえ、こう一発も当たらないのはきつい。手k最近、この距離で当てられて無くない!?ありえなくないか、これ!?
「殺す」
「……ちっ、そう顔をこわばらせない方がいいと思う、けどっ!」
「!!」
反応が早いっ!
盾に隠していた、マシンガンを向けて撃つが、予測されていたかのように避けられる。
「早すぎないかねっ!?」
「……普通」
嘘つけっ!お前、前回よりなんでそんなにやっけになっているのでしょうかね!?
「……手加減?」
優華は静かに言うが、内心、バレたっ!?てなる。
なんでこういうときだけ勘がいいんだこの女は!?
「……少し、本気出す。命都、怒らせた」
「あー、はいはい、そうですか! 怒らせましたか!」
接近してくる、ワルプルギスの速度が上がる。
もう、こりゃあ、本気(’’)出す(’’)’かぁ。
「!!」
「逃がさん」
何かを察した優華はすぐに回避行動をとるが、自分は逃げないように盾に付いているグレネード弾を全て射出する。
「ちっ!」
「おら、本気出すんだろ? 出せよ。『ヴァルプルギス』」
あぁ、良い感じだ。この感じだ。少しは、いいね。これ。
目の前にいる、騎士(’’)は禍々しいオーラを放ちながらじっと見てくる。
それにしても優華のこの目は、どうやら……自分は、やばい目をしているらしい。
「……」
シュ、
すると、優華は目に見えぬ速度で短剣を投げ、その隙に腰元についている短剣をすかさず抜き斬りつけてくる。
「……やっば」
さすがに盾で防げろうか、いや、難しいかな。
だが、やらなきゃいけないのだろう。
そう決めたら無意識にアサルトライフルとマシンガンを優華の『ワルプルギス』に向けていた。
ババババババッ、バババババババッ、
引き金を引き、銃弾をばらまく。だが、優華の『ワルプルギス』はそれをいとも簡単の様に避け、何発かは持っている短剣で撃ち落としている。
本当に器用だなぁ。そう言う所、ある意味、憧れるよなぁ。
「よっ」
さすがに距離が近づいてきたかな?少し、距離を置こうかな?いや、てか、置こう。
だが優華さんはそんなこと関係なく、追いかけてくる。てか、さっきより早くなってない?気のせい?じゃないよなぁ。
「……逃がさない」
「逃がして」
「……無理」
ですよねぇ。まぁ、察していたよ。
距離を著しく詰めてきた優華に自分は大きく、蹴りを入れるがそれも避けられ挙句の果てには懐に入られる。
「そこっ」
ヒュン、
「あぶねっ」
あと数センチ、いや数ミリという所でワルプルギスの短剣が走る。
だが、自分もここでやられるだけではない。きちんとお返しの料金として鉛球をプレゼントする。
「……」
やっと、ワルプルギスの装甲に当たった。
本当に訛ったのではないかと思うほどのエイムで、ワルプルギスの硬い装甲に銃弾を当てられる。まぁ、こんな至近距離ならできるか。
「まだ!」
だが、優華はそれだけでは怯もうとせず、再び斬りつけてくる。
「!! まじかっ!」
ベガスの装甲がジュウゥ、と音を鳴らしながら溶けて、綺麗に斬れる。増やしたばっかりの実験用のタクティカルアーマーがこれでおじゃんだ。まぁ、元より陸戦近接相手にタクティカルアーマーなんて意味がなくなる。……………いや、本体の装甲をやられるよりはまだよろしいのでは?いや、どちらにしろ、損をしたことには変わらない。完全にとは言わないけど。
「まぁ、俺もそうやらなきゃいけないなぁ」
そう呟いた瞬間、機体の速度を上げる。
距離を開けるために、ブースターの速度を上げる。追加ブースターのおかげで一気にワルプルギスから距離は置けたが、再び攻撃すれば絶対、懐に入られる。元より機体相性が悪いんだ。うまく動かなければ一瞬で、おじゃんだ。
「……逃げる?」
「あぁ」
「……逃がさない」
あぁ、逃げるとも。
手に持ったアサルトライフルを持ち替え、腰についていたナイフを装着し銃剣の様にすると、そのままワルプルギスに向かってただ銃弾を放つ。
「……」
やはり、避けますよね。
だが、そのままでいい。そのまま、こっちに来い。
三十……二十……十……、今!
バババババババッ、
頭の中に付けていたポイントマーカーに入った瞬間、タイミングよく引き金を引く。
「!!」
優華は何も言わず、綺麗に銃弾の弾道を避け接近してくる。
まるで弾道を予測している、いや、見えているかのように予測線のようにし異界に表示されているように、優華の『ワルプルギス』は動き続ける。
「ふっ」
短い息遣いを行い、銃剣となったアサルトライフルを振ると、優華の『ワルプルギス』はそれを綺麗に避け、あっという間に、自分の懐までに入り込み、首元に短剣を突き付ける。
「checkmate」
短剣を首元で突き付けながら、ひらひらと揺らす。
あぁ、まったくだ。
「そうだな。Checkmateだな」
「?………、っ!」
すると優華はやっと気づく、盾に隠れたマシンガン、それの引き金に指がかかっていた。
もし、そのまま引き金が引かれたら優華の太ももを貫いていただろう。まぁ、サッシの良い人はここで優華は無理でも動くのではないかと思うだろう。まぁ、動きますよ。けれど、それを可能にさせるほど自分は馬鹿じゃありませんから。
まぁ、簡単に言ってしまえば?太ももに向かって撃ち込んで、相手が怯んだ瞬間、そのまま脳天向かってマシンガンで撃つつもりでしたよ?だって、そんぐらいしませんと余裕ないですし。
「……まさか」
「やめっ!」
ブー!
すると薫子先生の大きな声と共に、大きなブザーが鳴り響く。
「だってよ」
「……」
持っていた、アサルトライフルとマシンガンを下ろすと、優華も持っていた短剣を下ろす。そして両者ともASを解除する。だが、睨みつける目はやめないようだ。あれぇ?なんかしたかなぁ。
記憶にある事、全て出してみても絶対に無理だよな、これ。
「……呆れた」
「えぇ……」
またもや、心を読まれた。いや、似たような感覚だ。いつものようなキレがない。
いつもなら、ガン〇ムに出てくるアム〇並みのニ〇ータイプ発揮するから。いや、どちらかというとカミー〇?
「……本当に、呆れた」
「えぇ、本当に何よ」
「分からないなら、自分の胸に触れて聞いてみなよ」
「へぇ」
んー、分からない。いつも通りのPR(脈拍)とHR(心拍数)なんだか。
「そう言うこと言っているんじゃない」
なんだって!?ということは、更に上にある鼓動と言うのか……!?もはやそれは、人体の形を凌駕していないか!?
「だから、そんなこと言っているんじゃない」
「えっ、そうじゃないの!?」
「違うつってんだろ」
「じゃあ、何なんだよ!?」
「だから胸に聞けよっ!」
分からねぇんだよ!さっきから!
自分の胸触っても分からないし、てめえの胸触っても異常はねぇぞ!
ってそう言うこと言っている場合じゃない。一度落ち着け、自分。そして、
「……本当になんだよ」
「はぁ……手加減」
「えっ」
「手加減したでしょ」
「……それだけ?」
「…………」
あれ?なんで、優華さん。怒っているんですか?
そんな真顔で近付かないでください。
チャキ
なんで、そこで右手だけAS短剣を抜くんですか?
「…………」
「だぁぁ!? やめんかぁ!」
すると、自分の喉元目掛けて短剣を振り下ろす。……というか振り下ろされる。
短剣は自分の首元ギリギリで止まったが、優華の力が強くて支えるのにもぎりぎりという状況になってしまった。てかメッチャ強いな!!
「うおおぉぉぉ!!」
「…………」
ギチギチ
徐々に自分の身体が仰け反った形になっていく。
本当にやばい。やばいから。
「ギブ、ギブですから! 落ち着いて!」
「…………」
こいつ聞いちゃいねぇ!
ぐらっ
「あっ」
力が抜け、膝から体全体が崩れる。
自分と優華がそのまま倒れると、優華が上になった馬乗り状態になっていた。
「だぁぁぁぁ! これでも駄目なんですかぁ!?」
だが優華は一向に力を緩めない。本当にこの腕力は一体どこから出るんだろうか逆に気になってくる。
にしても、
「ちっ、からっつよっ!」
「…………」
「黙っていないでなんか言ってくれませんかね!?」
「死ね」
「ファッ!?」
優華がそう言うと、更に力を強める。
「よし、お前ら各自、簡単な訓練に移っといていいぞ」
「「「はーい」」」
「まぁ、一つだけ言えることはあんなようになるなよ。あれは一番駄目な例だからな。誰もやるなよ」
「「「はーい」」」
「そう言うのなら、止めろよ!」
こっちは腕がつれぇんだよ!あっ、この野郎、また、力強くしやがった!
「野郎じゃない」
「そうですね! 女だもんね! この場合は、女郎が正しいよね。……じゃねぇ!」
「おい、ギャーギャー五月蠅いぞ。少しは静かにしないか」
「なら止めてくださいよ!」
「あー、分かった分かった。じゃあ、メフシィと藍染は、私と一緒に来い。訓練システムを使ってもらう」
「分かりました」
「は、はいっ!」
えっ、助けてもくれないっていうの?
この状態でずっと耐えなきゃいけないのですか?それはとても辛いのですが……。
「じゃあ、メフシィと藍染は、訓練用のシステムを始動させる。訓練用のシステムを始動させたらクレー射撃を開始するように」
「はい」
「は、はい」
「ではシリルから始めろ」
「はい」
薫子先生の説明に、シリルと藍染が返事をすると薫子先生は手に持っていたスイッチを起動させ訓練システムが起動し、アリーナに設置されていた射出口から色のついた皿が飛んでくる。
バババッ、バババッ、
シリルは持っているサブマシンガンを構え、そのまま飛んでくる皿を撃ち落としていく。
ランダムに射出される皿を、シリルはなぞるかのように連続で撃ち続ける。
ピッピッピー!
すると、終わりのサイレンが鳴る。
シリルはサイレンの音を聞くと、構えていたサブマシンガンを下ろし、空中に表示されるホログラムの点数を見る。
「百点満点中、八十六点ですか……」
「すごいですよ! シリルさん!」
「八十六、まぁまぁ、妥当だな」
「あはは」
表示された数字に微妙な表情を見せるシリルに、それに驚いている藍染、そしてそれぐらい普通だろうと雰囲気を出している薫子先生がいた。
「よし、次は藍染、やれ」
「は、はい!」
そう言って藍染が前に歩き出し射撃ポイントに立つと、サブマシンガンを構える。すると薫子先生がそれを確かめると、持っていたスイッチを押す。
パシュ、
「!!」
皿が射出された瞬間、藍染は更に深く構えサブマシンガンの引き金を引く。
バババッ、バババッ、
藍染は小さく連続に引くと、弾はそのまま皿の横を通り過ぎてしまう。このような射撃状態だと……。
「二十九……」
「最悪だな」
「ひっ!」
百点満点中、二十九という数値をたたき込みシリルは何とも言えない顔をしており、薫子先生は頭を抱えていた。
その姿にさすがに藍染は驚いたのかそれともびびったのだろうか、悲鳴に近い声が出てくる。
だが、そんな姿を見たシリルが、
「初心者ですし、うまい方ではありませんか?」
と、サポートするが、薫子先生には通用しなかった。
「初心者であっても四十以上は取って貰わないと困る」
まぁ、薫子先生はあぁ、見えて、というか見ての通りの鬼教官タイプで落とす時は全力で落とすタイプだからなぁ。けれど本気で取り組んでいる奴に冷静に手を貸すタイプだし……。それでもめちゃくちゃ冷たい反応だけどね。どれくらいかと言われたらシベリアかアラスカ並み。
そのアラスカ並みの冷たい視線が藍染に刺さるが、薫子先生は再び口を開く。
「だが、サブマシンガンの使い方から見て次は単発系の銃機を持たせてみよう」
「「えっ?」」
「どうした、藍染。さっさとしろ」
薫子先生から出た意外な言葉にシリルと藍染が固まる。
「速くしろ」
「は、はいっ!」
鋭い視線と一緒に人を殺しそうな威圧を掛けながらそう言って、薫子先生の手に持っていた全自動式拳銃を投げ渡し、藍染はそれ(ピストル)をうまくキャッチする。
「では撃て」
「り、了解です!」
そう言って藍染が構えると、薫子先生が手に持っていたスイッチを押す。
ピッ、パシュン、
小さな射出音と共に皿が射出される。
パンッ!パンッ!
「!」
「わぁ」
すると藍染は撃ち続ける。何枚かの皿は通り過ぎるが、藍染が引き金を引くと確実に皿にあたり、皿が砕け散る。
その成果を見て、シリルから驚いた声が聞こえる。
ピー!
するとあっという間に終わりのサイレンが鳴る。
「ふぅ、ど、どうでしょうか?」
短いため息の後に軽く汗をぬぐいながら藍染は言う。
「点数次第だな」
「そ、そうですか………」
藍染がそう言うと、ホログラムから点数の表示がなされる。
「五十三、やりましたね! 藍染さん!」
「は、はい!」
「ふむ、妥当と言えば妥当だな」
表示された数字を見てシリルと藍染は喜んでおり、シリルが藍染のことを見ながらブンブンと勢いよく腕を振って前で、静かに喜んでいた藍染。
そんな二名の少し後ろから、薫子先生は感心したような声音で藍染の点数を評価している。
「で、できたんですよね……………?」
「はい、そうです! できましたよ! 藍染さん!」
未だに実感がわかなかったのだろうか。藍染は確認を取るようにシリルに聞く。
シリルは、それに答えると、藍染の顔は徐々に赤くなってくる。
「ほ、本当ですかぁ!」
「はい! そうです!」
シリルは藍染の手を握ると、目尻に涙を溜めながら勢いよく藍染の手を振る。
「ううっ、そうかぁ。う、ちょっと、感動したもので眼鏡が曇ってしまいました」
そう言って藍染は、眼鏡を取りポケットに入れていたハンカチを取り出し眼鏡のレンズを拭く。(眼鏡のレンズを拭く時はきちんと専用の眼鏡拭きを使いましょう)
カチャリ
するとどこからか何かの音が聞こえる。
「? あ」
すると薫子先生が何かに気付く、瞬間、
パシュン、
何かの手違いか、宙には先ほどまで使っていたものと同じの皿が飛んでいた。
まぁ、飛んでいることに問題はない。どうせ、見逃せば勝手に落ちるものであったから放置しても良かった。
だが、これとは違うとあるものに皆、目を奪われた。
パァン、
なんと皿が空中で散ったのだ。いや、正確には砕け散ったというべきであろう。
砕け散った皿の破片はそのまま地面へと落ちていき、何事も無かったかのように小さな砂ぼこりを上げながらばらまかれた。
「………………えっ?」
さすがに何が起こったのか分からないシリルは声を上げる。
シリルだけではない。周りにいる一同が呆気にとられたように、ぽかんと口を開いていた。当然、自分や優華もだ。
「えっ、一体、なにが?」
「………………………………」
シリルは呆気に取られたような顔で皿の割れた場所を見ており、薫子先生はゆっくりと藍染の方を見ていた。
この時、ほとんどの者が皿の割れた方を見ていたが、何人かが藍染の方を見た。
「………………」
理由は、藍染の手には先ほどまで握っていた眼鏡はなく、持っていたのは先ほどまで使っていた拳銃を持っていた。
逆に先ほどまで持っていた、眼鏡とハンカチは地面に落ちていた。
「………藍染?」
「………あ、はい」
「お前がやったのか?」
「あ、え? あー、はい。そうらしいです」
「本当にか?」
「は、はい。少し……」
「そ、そうか」
薫子先生は、何かを察するとその場から離れていき、シリルは半ばわけのわからない状況で藍染のことを見ていた。
「あ、解けた」
すると、優華の抑え込めという拘束も緩み始め、簡単に抜け出すと自分は藍染の近くまで行った。
「おい、藍染」
「は、はい!」
「放課後、メンテナンスルームに来い」
「え、え?」
「分かったな」
「は、はいっ!」
自分はそう言うと、その場を離れた。
ある衝撃の場面を見てしまったせいで、頭の中がこんがらがってしまったから少し落ち着かせようとした。
「あ、あの、シリルさん」
「はい」
「メンテナンスルームってどこでしょうか?」
「あー、放課後になったら案内します」
「は、はぁ」
そんな会話を背後から聞こえながら。
「はぁ」
近くの壁まで移動すると、壁に背中をもたれこむ。
にしても、衝撃の映像だった。いや、場面とここでは言うのだろうか?
なぜなら、皿が射出された瞬間、藍染は一瞬にして持っていた眼鏡とハンカチから手を離し脇に挟んでいた拳銃で撃ちぬいていたのだから。だが、それよりもすごかったのがあの目だ。
あの速度での身体能力にも驚くが、一番があの瞳孔の調整速度だ。
本来、人間の瞳孔の調整速度は十~二十と言われる。だが彼女(藍染)は、それを凌駕していた。目視での予測数値では大体一、二秒ぐらいだった気がする。もはやこれは猫や蟷螂に近い瞳孔の調整速度だ。
だがそれよりすごいのが視力、なのだろうか。
いや、ここでは正確差というべきだ。藍染から皿までの距離を大体、演算すれば割と距離はあったはずだろう。そして、藍染は眼鏡を掛けていたことから視力は高くないと考えると、あり得ない程の正確さと考える。いや、もしかしたらあの眼鏡自体も伊達という可能性があると考えられる。だが一般的な視力でもあの距離で当てられるのは難しい、ましてや拳銃。デメリットが多すぎる。そんな中、彼女は簡単に当てたのだ。
「………………」
自分は頭を抱えながらも、地面に向かって座り込んだ。
どっちにしろ、分かるのは放課後なのだから………。