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エア・クラフト・スチール  作者: 山鳥のハラミ
蒼と鷹の目と狙撃銃
16/22

ep03  Move!Preparation!Maintenance!〈移動です!準備です!整備です!〉


 授業が終わり、実習の授業へと入るために教室を移動する。

「え、えっと、葛葉さん!」

「゛あ゛ぁん?」

「ひっ」

「……あっ、ごめん。何? 藍染……さん」

 おっと、やばいやばい。授業終わりなため、ドスの効いた声が出てしまった。

 にしても、遅かったかな?…………あー、完全に怖がっちゃっているなー。

「ひっ、え、えっと、………葛葉さんなら、優華さんのことを知っているかと思って………」

「あー、うん、知っている。けれど、なんでそんなに知りたいの?」

「は、はい。だって、仲良くなりたいですから……」

「あっそ」

 藍染はただオドオドとしているが自分は関係なく、ただ実習の為に歩き続ける。

「……………………」

「……………………」

 二人とも、黙り込んでしまう。

 やはり、話をこちらから振らなければいけないのか、けど苦手なんだよなぁ。話を振るの。どうやったらできるんだろなぁ。

「あれ?命都さん?」

「あん?って、シリルじゃねぇか。そういや、一、二時間目いなかったな。どこ行ってたんだ?」

「えっと、理事長に少し報告を………」

「へぇー、大変だな」

「はい、大変です」

 なぜだろうか?シリルがかわいそうな暗い雰囲気を出す。

「………そう言えば、シリルっていつも何を報告しているんだ?」

「えっ、普通聞きます?」

「駄目ならしょうがないけど」

「い、いいえ。大丈夫ですよ」

「そう」

 まぁ、興味半分、どうでも良いが少し強いけど。

「………命都さんって顔に出やすいですね」

「あん?なんか言ったか?」

「いえ、何でもありません」

 えー、絶対なんか言ったじゃん。

「葛葉さん」

「うん?何、藍染……さん」

「この人は?」

 あれ?藍染は知らないんだっけ。

「あれ?この人は?」

 お前もか、………そう言えば知らないんだっけ?

「ということは俺が紹介しなきゃいけないのか」

「? えっと、話は読めないですけどそうじゃないでしょうか?」

「そう、……………じゃあ、まずはシリルの方だな。えっと、こちらは今日、転校した藍染 月姫さんです」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 藍染がそう言って挨拶をするとシリルも丁寧に返す。

「じゃあ、次は藍染の方な。こっちの金髪の子は、特別視察留学生のシリル・メフシィ。まぁ、話しゃあ気が合う所もあるかもしれないから、割といい感じで付き合っていた方がいいぜな」

「は、はい。えっと、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。それにしても命都さん。先ほどの説明どういうことですか………」

「えっ、駄目だった」

「………はぁ、どうでも良いです」

「そう」

 シリルはなぜだが溜息を吐くが、関係ない。そのまま止めていた足を動き始める。

じゃなきゃ、次の授業に間に合わない。

「ちょ、すぐなんですか!」

「時間ねぇんだ!」

「ひっ」

 藍染がまだ話の続きが無いのか的な物が要求してくるが、んな物はない!自分だって単位が欲しいんだ!

「単位ないんですか?」

「あるけどここで崩したら一瞬ですべてが崩れる!」

「? そ、そうですか」

「さすがに実習棟ではこいつの案内はできないぞ。てかしたくないよ」

 そう言って藍染の方へ指をさす。

「………そうですね」

 さすがに常識ぐらいはある。うちのクラスの変態共(おとこども)じゃあるまいし。まぁ、自分も男子ですけど、ここで犯罪に手を染めたくない。

「んじゃ、アリーナで待っているから着替えてきなさい」

「命都さんは」

「着替えるよっ!」

 まったく、シリル君。君は自分のことを何だと思っているのかね。

「………おかしな人です」

「わぁ、おかしな人って言われた~」

「……あのぉ」

「うん?」

 するとシリルの背中の後ろから藍染が顔を出す。

「なに?」

「じ、時間」

「「えっ」」

 藍染がそう言うと、自分とシリルは持っていた時計で時間を確かめる。

「! んじゃ第二アリーナで!」

 なんてこったい。もう時間がないじゃないか!

 そう思った時には既に走り去っていた。もう、この時ぐらいは『廊下は走っちゃいけません』は聞けねぇな!だって急いでいるんだからね!

「あぁー!間に合えぇー!」

 そう叫びながら自分は男子更衣室に向かって走り出した。


「……なんていうか嵐、みたいな人、です」

「どうかしましたか?」

「な、何でもないですっ!」

 小さな声で言っていたはずなのにばれてしまった。少し声が大きかったのだろうか?

「あの、藍染さん」

「は、はいっ!」

 あぁ、また声が裏返ってしまった。直そうと思ったのに、楽しみと緊張で毎度こうなってしまう。

「な、なんでしょうか」

 震える、声が、心の高まりがどうも心地よくてしょうがない。

「なんで、この学校に?」

「………」

「あ、大丈夫です。安心してください。口外はしませんし、言わなくてもいいですから」

「そ、そう、ですか」

 うーん、けどどうしよう。お父さんからは言っていい、とは言われているけどどうしようかな。

「え、えっと大丈夫でしょうか?」

「は、はい!大丈夫です!」

 あー、また声が裏返った!

「………もしかして駄目だったでしょうか?」

「え、えっと、後日報告ということでいいでしょうか?」

「は、はい。で、ではもう一つ質問させてください」

 シリルさんは真剣な顔立ちでこちらを見てくる。

 ひゃあ、よくよく見ると本当にきれいな顔立ちだな~。こんな綺麗な人が私にどんな質問するんだろう。もしかして、ASについての話!?それだったら答えられる、答えられるけど引かれないかなぁ?

「命都さんとはどのような関係でしょうか?」

「えっ」

 えっ?なんて?

「あ、勘違いされては困りますから言いなおしますね。どのようなわけで彼を?」

「といいますと……」

「他にもこの学校に詳しい方がいらっしゃるかと思いますが?例えば優華さんとか夏目さんとか」

「え、えっと、勧められたんです」

「えっ?」

「隣の、……確か、夏目、さんに。優華、さん、のこと知りたい、って言ったら、そう、答えて、くれた………から」

「…………」

 あー、これ絶対呆られたじゃーん!(泣)

「ふふっ」

「!!」

 あぁー!とうとう、鼻で笑われたぁー!……………………恥ずかしいし、つらいし、やってられないし!もう、何で笑ったんだよ!

「ふふふ、そう、そうですか。優華さんのことを知りたくて命都さんに話しかけたと」

「は、はいっ」

「面白いですね」

「えっ」

 な、なんで?はっ、もしかして心の底から私のこと笑っている!?

 そう思うと、泣きたくなるなぁ。

「あっ、すみません!馬鹿にしたとか笑ったとかじゃなくてですね。その過程がとても興味がありましたから」

 えっ、どういうこと?本人と話す勇気がないから、周りの外堀から埋めようとした僕のことを馬鹿にしているのぉ!?

「それに、私ももしかしたら協力できるかもしれませよ?」

「えっ」

「私もよく命都さんと優華さんとお話をいたしますので」

「えっ」

 そ、そうなの………?

「ほ、本当ですか?」

「はい、命都さん程ではありませんが優華さんとは話しますし、同性の方が話しやすいでしょう?」

「えっ」

えっ。

「はい?」

 目の前にいる青年(・・)、確かシリルさんだっけ?先ほど、不思議なことが聞こえた。

「男性じゃないの?」

「えっ!?」

 シリルさんは驚いたような声で私の見てくる。

 だって、メンズスーツ着ているから男性かと思ったんだけど……違かったのかな?

「も、もしかして、女性の方ですか………?」

「は、はい」

「………………………………………………………………!! ごめんなさいっ!」

 私はその恥を顔を赤くして表現し、そのまま頭を勢い良く下げる。

 あぁ、なんてこと(勘違い)をしてしまったのだ!

「……………………」

 沈黙が続く。私はさすがにシリルさんの様子が気になって少しずつ顔を上げる。

 ど、どうだろうか?怒っていないだろうかとビクビクしながらシリルさんの顔を少しだけのぞき込むような形になる。

「ふふっ、大丈夫ですよ。怒っていません」

 するとシリルさんは優しそうな顔で許してくれる。それに重なるように太陽の光が重なりあい、背中から輝かしい威光が放たれる。

「せい……じょ……?」

「はい?」

「ひっ、何でもありません!」

 ばれてしまったかと思い、怯えた声が出てしまう。

「な、何で怯えているんですか!?」

「ご、ごめんなさいっ!」

「だ、大丈夫ですよ!?」

「ひぃぃぃぃ!」

「な、なんでですかぁ!?」

「おい、五月蠅いぞ」

「「!?」」

 すると後ろから聞いたことある声が響く。

「「神田(薫子)先生!」」

「はぁ、何をしている。お前ら、早くしないと時間ないぞ。ほら」

 後ろにいた神田先生はそう言いながら腕時計をさし出して時間を見せてくる。

 時計の針は既に十一時に差し掛かろうとしていた。

「お前ら二人が遅れ、となるのは勘弁してほしいのだがな。片方は特別留学生だからな」

「す、すみません」

「なら、早くしろ」

「いたっ」

 すると神田先生の出席簿の角がそのままシリルさんの頭に突き刺さる。

「お前もだ、転校初日で遅れはないぞ」

「ぐへっ」

 そして、私にも突き刺さる。

 それも綺麗につむじの部分に刺さったためか、とてもじゃないが痛い。というか出席簿の角でやられる時点で痛い。そのためか刺されたところを手で擦る。

「ふん、今日は目を瞑っといてやる。だが二十分以内に来なければ残念だが遅刻という評価を付けなければいけないな。わかったな」

「「はい!!」」

 神田先生のその視線は確実に人を殺す目で、一般の人、それも何かを教えようとする教師がするようなものじゃなかった。例えば、軍人とか傭兵、獲物を狙っている時の狩人などの先を見据えたような、心を見透かしているような、そんな目だった。

 簡単に言うと『怖い』。

「じゃあな、遅れるなよ」

「「はい!!」」

 神田先生がそう言うとそのまま去っていく。

「………では準備しましょうか」

「はい」

 そうして、私たちは女子更衣室に向かった。

 女子更衣室に向かう途中は何もなかったが、私は内心、驚いていた。

 新しく作られていた学校と聞いていたが、綺麗すぎる。日の光で反射する病院のような真っ白な天井や窓際に埃一つない学校なんて聞いたことないし見たことない。これほど綺麗だと汚すのも躊躇う。

「あ、ここが女子更衣室です」

するとそんなことを考えていると、目的の場所へと着く。

 シリルさんが扉の横にある端末のようなボタンを押すと、パシュ、と音を鳴らしながら開く。

(綺麗なのかな?)

 やっぱ気になったのはそこだ。そう思いながら、開かれた先を見る。

 そこには………、

 キラーン

 綺麗な女子更衣室があった。

(予想通りー………………ん?)

だがよく目を凝らしてみると、ぐちゃぐちゃに置かれている衣類が落ちている。

「………」

 唖然とした、それと同時に安心した。今までAS使いの人は貴族のような人間味が無いのかと思ってしまったところがあったからだ。だからこそ、安心した。

 人間らしいところがあって。

 にしても………、

「汚くない?」

 よくよく見てみると、汚い。あれ、先ほどまでの綺麗さは何処にあったのだろう?

「はぁ、汚いですね」

「えっ」

 するとシリルから驚きの言葉が出てくる。

「い、いつも汚れているんですか?」

「まぁ、はい。私も慣れたんですけど汚いですよね」

「………」

「やはりここは減点するところでしょうか、ですがきちんとしている者に迷惑でしょうし、更衣室自体、プライベートの場に近い場所。ですが一応、公共の場ですし………………」

 するとなんかシリルさん、物々言い始めた!?

「あ、あの」

「あっ、そうですね。貴方のロッカー、教えないといけませんね!えっと、ロッカーは入学されたときに渡されたカードキーが必要になりますので無くさないようにしてください。あ、ロッカーは私の隣ですので大丈夫ですよ」

「は、はい」

 そう言ってシリルさんは奥にあるロッカーに案内する。

キーンコーンカーンコーン

「「あっ」」

 だが時間は無慈悲にも来てしまった。

「……急ぎましょう」

「…………はい」

 そして、初めてのAS実習授業は遅れとなった。


「着替え終わりました!」

 そう言って藍染さんは、支給されたパイロットスーツへと着替え終わる。

「あっ、先に行っていていいですよ」

先に着替え終わった藍染さんを先に行かせる。

 ふぅ、にしても……。

(また、濃いキャラの人が来ましたね~)

 シリルが藍染の背中を見ながらそう思っていました。

「それにしても………」

 また、間違えられた。

 これでこっちに来て何回目でしょうか?男性と間違えられたのは……。

「……そんなに似ているのでしょうか?」

 そう思って、体を見る。

「やはり男装をしていたからでしょうか?」

 上から、親からの命令で男装されていたあの時を思い出す。

 大きく膨らんだ胸を無理やり押し込め男装していたあの頃を……。

「まぁ、いいですか」

 既に去った過去。今を生きるのに必要ない。今、私は今のやるべきことをやるだけだから……。

「行きますか」

 そう言うと、顔を上げアリーナへと向かって行った。


 自身に付けられたその見えない鎖を引き摺りながら。


 第二アリーナ、そこではいつものように薫子先生の言われた内容をこなしていた。当然、他の人の分も。

「何でやってくれないんですかね……?」

「だって面倒くさいからじゃないですか」

「あんたぁ」

「遅れました!」

 自分が夏目を睨みつけると、アリーナに今では聞きなれた大きな声が聞こえる。

「やっと来たか、だが安心しろ。遅れにはしなかったぞ。約束通り、藍染と一緒に二十分前に来たからな」

「先生!いつもなら容赦なく遅刻するのに、これは贔屓ではないでしょうか!」

「黙らんか、今回は特別に二十分までにした今後はない!……それをきちんと覚え説くように」

 眺めていた生徒の一人が、薫子先生に異論を唱えると綺麗な返答が生徒を撃ちぬく。

「「!!」」

 そして、薫子先生の視線が遅れてきた二人にそのまま突き刺さる。

 二人はビクリ、と体を強張わせると「はいっ!」と大きな声を出す。

「じゃあ、今回の内容は先に来ている者に聞け。分かったな」

「「はい」」

「では、行動開始。さっさとしろ」

「「はい」」

 手短い話を終えると二人はその場から散る。

 いや、シリルが藍染さんを引き連れている。あぁ、案内人かぁ……。

「珍しいですわね」

「あん?」

「だって、今まで遅れなんてなかったあのシリルさんがですよ。今日は遅れて来たなんて……」

「………さぁ、知らね。それより俺らは、こっちをやらなきゃいかんでしょ」

「む、なんだか知っているようでしたが?」

「何度も言わせんな。知らねぇ。ほらこの後の時間、戦闘訓練なんだからお前さんも手伝いな」

「え、いやです」

「やれやぁ!」

 ふいと顔を背ける夏目に目掛けて、大きな声を放つ。

「……………はぁ、分かりましたわ。手伝いましょう」

「最初からやりやがれ」

「どこをやればよろしいのでしょうか?」

「お前さんのASだろ、お前さんで考えろ、って言いたい所だが時間の無駄だ。指摘するところをやってくれ」

「分かりました。どこでしょうか?」

「まずは、右腕の関節部の関節強度の修正。少し重い設定になっている。システムの調整はこっちでやる。ドライバーを使ってネジのゆるみの確認してくれ」

「分かりました」

 夏目はそう言うとすぐに足元に置いてある道具箱からドライバーを取り出し、右腕の関節部の調整を始める。

「どうだ?できたか?」

「はい、できましたわ。次は?」

「よし、次は左脚部のノズル口から中身を見て。そこから異常がなかったらエンジン部分を開いてエンジンを見て」

「なぜ、そのように?」

「左脚部に微小な数値のズレがある。もし、無かったらOSからの見直しか検討される」

「そうですの………………あ、有りましたわ」

「お、どこに?」

「エンジン部分の粒子拡散器に少しのズレがありますわ」

「え、どのようなズレよ。……えー、まぁ、そっちで対応できる?」

「はい、できますわ」

「あっそ、じゃあ、それ終わったら。AS全体のOS調整だな」

「そこまでしますの?」

「まぁな」

 じゃなきゃ、乗って飛んだ時にうまく飛べませんとかあったら嫌だからね。こういう所はパイロットより機体の方がデリケートだからさ。

「あ、当然、手伝ってもらうぞ」

「そうですの?」

「俺、一人でやったら半日、いやがんばってもこの授業時間、二時間分費やす。この時間に終わらせたければお前の力も必要だ。わかったか」

「わかりましたわ」

 そう言って、夏目は頷くと何故か再び口を開く。

「簡単に言えば、初めての共同作業ですのね」

辺りの空気が凍る。

 頬を押え、そう言う夏目に皆の視線が集中する。当然のように自身の目は夏目に向けられていた。いや、驚いているのではなく睨みつけているが。

 てか、なんてことを言いやがる。

「……なんですの?その顔は?」

「誰だってこんな顔になるわ」

「ですが皆さまは驚いているようですが?」

「……えっ」

 夏目に言われ、後ろに振り向くとそこには驚いた顔の皆に混じって、顔を真っ赤に染めている女子、恨み妬みが籠った視線を隠そうともしない男子達がこちらの方を眺めていた。

「ふふ」

「……………」

 なんてやつだ。いや、やりやがったなこの野郎のほうが正しいのではない?

 まぁ、どちらにしても一緒である。この女は、自分のことを苛めて楽しんでいやがるな。

 なぜかって、こいつの顔笑っているもん。それも皆から見えない的確な角度でな。

 まさにその笑みは悪魔、いやそこまでじゃないが良い玩具で遊んでいる女王様だった。なぜだか、夏目は目を潤せ、頬を赤める。その姿を一言で表すのなら妖艶、と言えるほどだった。

 あー、ここまでにしとかないとやばいかな?

「………冗談はそこまでしとけ」

「あら、冗談ではなかったのに」

「……………」

 言葉を失う。

「……始めるぞ」

「は~い」

 夏目は楽しかったといわんばかりの元気の良い返事をすると、置いてあった液晶端末を取ると液晶端末を起動し自分が使っていた液晶端末とUSBケーブルをつなぎ、作業画面を開く。

(わたくし)は一体、どちらをやればよろしくて?」

「お前は下半身の方を頼む」

「分かりました」

 そう言うと、すぐに作業を始める。

 既に自分たちは画面しか見ておらず、ただキーボードを打ち続ける。

「は、早い」

 誰かが言ったのだろうか?まぁ、そんなことは関係ない。

 画面に映る、数字とアルファベットの羅列を確認しながら、徐々に不手際と思われる場所を修正していく。

「終わった」

「こちらもです」

 そう言い合うと、時間を確かめる。

「二六分……時間かかったな」

「あら、二人ですので早いのでは?」

「……そうだな」

 いや、確かに二人では早い。そう、二人(’’)では……だ。

 逆に一人の換算では遅い。逆に上半身で自分は二六分かかったのだ。遅いの他ではない。

「はぁ、最悪だ……………………………すぅーはぁ、よし、夏目使ってみろ」

 そう言って夏目に着させようとする。

「分かりましたが、本当によろしくて」

「散々、俺に任せといて何、躊躇っている。さっさと装着しろ。そして感想を言え。使い勝手とかな」

「そうですか。なら」

 夏目がそう言うと、そのまま置かれているASを装着する。

 ASを装着し終えると膝や肘を折り曲げたり、手を開いたり閉じたり、腰に手を当てひねったりしている。無駄な工程が何点かあったがここは黙っていよう

「違和感は」

「ないですわ」

「そうか。なら次は質力調整、ホバーを行ってくれ」

「分かりましたわ」

 夏目は答えると、すぐに行動を行う。

 ホバー…それは「超低空飛行」、またはそれの維持。本来の意味とは少し違うがAS業界ではそのように言う。これでもわからないという人に向けて具体的な内容を出すとなるとそれは四~六センチほど地面に浮く、と言えば分かるだろうか。まぁ、そう言うものだ。

 ぶわぁ、

「出来ましたわ」

 夏目のその姿は間違えなく浮いていた。それを確認すると、次の指示を出す。

「よし、そのまま維持してくれ」

「了解しましたわ」

 一秒、二秒、三秒、五、七、十、……三十、よし、合格ラインに到達した!

「止めていいぞ」

「分かりましたわ」

 夏目にそう言うと夏目は素直にその指示を聞き、ぶわっ、と砂埃が舞わせながら地面へと降り立つ。

「どうでした?」

「OK、Perfectだ」

「ありがとうございます。命都さん」

「ま、半分はお前さんの手柄だ。下半身の制御OSをここまで調整し続けるとはね。さすが特待生というべきかな?」

「いいえ、違いますわ。最後に気付かれないように私が直せなかった部分を修正してくださったのは貴方ではありませんか」

「そうかい?だが気を付けた方がいいぞ。お前があそこの修正ができないとなると先の様に綺麗に飛べてはいない」

 いや、飛べていただろうが飛んでいる最中に変な違和感が残っているだろう。ほらあ、使い勝手のいい奴から同じものだけど急に新しい物に変えると違和感が残るあれ、そんな感じ。

「にしてもすごいですわね。…………欲しいほどに」

「あ、何が?」

「いいえ、何でもありません」

「ふぅん」

 先ほど何か言っていた気がするんだが気のせいか。

 ま、そんなことは関係ない。自分のASを終わらせないと次の授業に間に合わない。

「………休み時間も潰すか」

 いや、大抵こういう二時間レンチャンの授業は休み時間など簡単に潰れる。なぜなら、間に合わないとか休み時間のうちにやって後を楽にしたいとかである。まぁ、自分の場合は前者の方だが。

「来い、『ベガス』」

 自分の右手を突き出し、コマンドを入力すると目の前に懐かしの旧式の機体が現れる。

 はぁー、久しぶりに見た。

「これは、命都さんの愛機なのですか?」

 すると、隣にいた夏目がそう呟く。

「愛機と言いますか、慣れと言いますか、レトロマニアといいますか……」

「愛機なんですね」

「えっと、そこまでじゃ」

「愛機なんですね」

「……まぁ、はい。そうですね」

「そうなんですか」

 なんでだろう。無理に押し切られた気がする。

 だがそんなこと関係なく、夏目は自分のASを眺める。

「それも、『ベガス』、ですかぁ。懐かしいものを出してきますね。第二世代初期型、中距離アサルトタイプ(強襲型)、アメリカのスマートブラウン社とフランスのアンドレスジュピテール社、の共同開発によるものですね。確か今では販売はスマートブラウン社が行っていますね」

「あぁ」

「これは、本来のベガスの姿はありませんが、どこか面影がありますわね」

「まぁな」

 戦闘をやるたびに、成長させていっている。

 それも愛機の強みという物だ。

「ベガスについている肩部の盾は、強化されていますわね。その他にも装甲を中心に強化されていますのね。盾の枚数も増やしておりますし、おや、ブースターの個数も増強されているのですね」

「あ、あぁ」

 なんでだろうか。離れてくれない。調整をしたいのに、夏目は自分のASを舐めまわすかのように、見ているため作業が始まらない。

「それにしても美しいですわね。このような綺麗なASを見れるなんて」

「あの」

「あら、何でしょうか?」

「作業したいんで、離れて」

「そうですの、すみません」

 一言いうと夏目はすんなりと受け入れる。

「あ、あと、お前の間違えを一つだけ言ってやろう」

「?」

「それ、正真正銘、『ベガス』だから。本来の姿じゃない、なんて簡単にいうなよ。一応、追加パッケージ用の武装を取り付けただけだから。……まぁ、少しはいじったけど、それでもこいつは正真正銘『ベガス』だ」

「………そうですの」

「なんだ」

 夏目は不適の笑みを浮かべる。いや、何だよ。

「いいえ、何でも」

「そうか」

 いや、そうでもないが、ここで気になっていたのでは作業に支障をきたす。というか始まらない。

「手伝うことありますか?」

「いや、無い。こいつは俺がやる」

「!!」

 目の前にあるAS、『ベガス』を見る。

 手伝って貰うのは良い。だが、それでは自身の言う愛機、いやミリタリーレトロマニアとしては許さない。許してはならない。……そんな気がする。いや、ただの我儘なのかもしれないが、この時間だけは自分でやりたいのだ。

「………そう、なら良いわ。私は見ていますから」

「んー、そう。じゃあ、始めちゃうから少し離れた場所にいた方がいいよ」

「はい」

 夏目がそのまま離れるのを確認すると、ASのケーブル差込口にケーブルを繋げ、その繋いだケーブルを液晶端末に繋ぐ。すると液晶端末には、一つのウィンドウを挟み、ロードされ情報が入る。

「……ふむ、異常なし。完璧」

 とはいえ、それでも心配な点があるのと前回の反省点もあるためデータの入力、調整、修正が必要だと思う。

「よし、始めますか」

 液晶端末に映るアルファベットと数字の情報とキーボード画面を目の前にして覚悟を決める。液晶端末とは少し浮いているキーボードだが、触感はあるためそのまま液晶端末の画面に映っているデータを入力していく。

「破損箇所からの、自動戦闘データの修正、入力……よし、完了。脚部ブースター質力……OK。換装状態良好。粒子拡散率、安定…………」

 ただ目の前のキーボードを打ち続ける。

「……………」

「………ん?どうした?」

「い、いえ、何も?」

 彼女らは一体何に驚いているのだろうか?ただ、破損箇所の特定からの予測戦闘データの入力、前回の自動戦闘分析システムが行ってくれたデータの入力、脚部ブースターの質力確認、換装武装の状態確認、粒子拡散率の安定化、各パーツの微調整、粒子伝達機構の活性化、C(意識).T(伝達).M(機構)(Consciousness. Transmission. Mechanism)の確認、その他もろもろ、それをできずにASの技術者ができるかと思う。ていうか、パイロットなら普通だよね。そうだよね?

「………違うと思いますよ」

「でじま!?」

 すると夏目は気まずそうに答える。

「多分ですけど」

「そうかぁ」

 少し残念な気がする。

 なぜならこれぐらいできなきゃ、パイロットとして生きていけるんだろうかと思うぐらいだ。

「あ、あの、命都さん?」

「何だよ急に、敬語なんて気持ち悪い………っていつもそんな感じか」

「普通のASパイロットではやりませんよ?」

「そう?千鶴さんのところだと嫌というほどやらされるよ?」

「そ、そうですか」

 自分が平然とした顔で言うと夏目は少し、驚いた、いや、引いた?ような顔で見て一歩下がる。………うん、引いているね。

「フーン出来なくてもいいんだぁ……ま、いいか。出来ちゃうもんだし」

「そうですか」

「さて、動かしてみようかな」

 そう言い決めると、ベガスの前に立ち乗り込むように着る。

「……我ながらいい出来だな」

 ガチャガチャと動かしてみるが、違和感が全くと言っていいほどない。

「あー、安心する」

 つい、ふとこの言葉が出てしまう。

 にしても本当に安心する。詩音との戦い以降は、余り出せてやれなかったからな~。

「さてと」

 もうそろそろ調整を終わらせなきゃいけないな。

 そう決めると、すぐにベガスから降り、ベガスの前に右手を差し出す。するとベガスは光だし、粒子となると指輪となって自分の中指に装着される。

「指輪とは素敵なものですのね」

「は?ブレスレットにしたらそれは面倒だろうが、邪魔だし」

「まぁ、浪漫がないこと」

「はぁ?この合理的で浪漫が詰まった者がこれ以外あるかね!?」

「イヤリングとかは?」

「なんでつけなきゃいけないのぉ?耳にぃ」

「面倒くさいですね」

「でしょお!?」

「命都さんが」

「え、そっち……」

 夏目のことだから、もっとアクセサリーとかにこだわるのかと思った。ほら、お嬢様だし。

 ピー!

「集まれ!」

 甲高いホイッスルの音が鳴る。

「お、もう時間か。ぎりぎりだったかな?」

「……そうらしいですね」

 夏目は左腕に付けていた腕時計を見ている。にしても見やすそうだなぁ。参考にしよう。何かとは言わないけど。

「聞こえてますわよ」

「はっはっはっ、何のことやら。おっと集まんなきゃいけないようだぞ~。んじゃ!」

「あっ!ってもう行ってしまわれましたか」

 逃げるが勝ちってな!

 そう思いながら一目散に、薫子先生のほうに向かって走っていった。


「はぁ、早いですわね。あの方は……」

 走り去っていってしまった()()さん(人)の背中を眺める。

 それにしても………、

「まさか、あそこまでとは」

 素晴らしいタイピング速度に、AS整備技術、そして……密かに手に入れた()()さん(人)の戦闘情報(データ)、知っていたとはいえあそこまでとは思わなかった。これはやはり、あの御方に感謝するしかありませんね。こうも綺麗で素晴らしい才能があるとなると、引き抜きたく(欲しく)なる(なる)というもの。だから、だからこそ、

「欲しい」

 密かに、熱く、乙女心を震わせるかのように、彼の背中をずっと見ていた。



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