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侯爵令嬢メリスの奮闘記  作者: 紙禾りく


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第七話・クロード視点

「クロード! メリスちゃんの意識が回復したそうよ!」

 食堂にて遅めの昼食を食べていた俺の所に、喜色満面の母上が飛び込んできた。


「それは良かったですね」

 ここ三日ほど、母上は俺の十歳の誕生日パーティーで倒れたメリス嬢のことを、酷く心配していたからな。

 その憂いが、なくなったのは喜ばしいことだ。


「それでね! クロード。明日、一緒にメリスちゃんのお見舞いに行くわよ!」

「一緒にですか?」

「そうよ。クロードの誕生日パーティーで倒れちゃったんだから、クロードもお見舞いにいかないと」


 確かに。うちが主催するパーティーでメリス嬢が倒れたのだから、何かしらの対応をする必要があるのはわかる。ただ……。

 俺が出向く必要はないのでは? こちらに落ち度はなかったわけだし、使用人に回復祝いの品を持っていかせるだけで問題ないはず。


 メリス嬢が眠っている間のお見舞いだって、使用人に任せていたのだから、それで十分と言える。


 まあ、母上とフレール侯爵夫人は、昔から非常に仲が良かったと聞いているので、直接母上が行きたがるのはわかるが。

 しかし、それで俺まで駆り出されるのは……。どうかと思うのだ。まったくもって気が乗らない。正直、めんどくさい。


 俺はあまり令嬢という奴が好きではない。奴らは大変に煩わしくて、厄介だ。すぐに俺の周りに群がってくる。

 そのうえ、いつも興味のない、くだらない話題を振ってくる。かといって、こちらにも立場がある以上、無下にもできない。


 ある程度、きちんと応対しなければならない、面倒な相手なのだ。


「母上。できれば遠慮したい。ただでさえ、最近はパーティーが増えていますし、時間があるときはゆっくりしたいのです」

 最近は本当にパーティーが多く。その分、令嬢方の相手をすることが増えてうんざりだ。やはり王都に来たのは失敗だった。


 まったく、父上め。今まで通り、王都と領地を往復する生活をしていてくれたら、こんなことにはならなかったのに。

 仕事が忙しいからと、家に帰れないと言い出すなんて……。おかげで、母上が寂しがって、俺まで王都に来る羽目になった。


「駄目よ。クロードも一緒に来なさい」

「しかしですね。令嬢の相手は疲れるのです」

 メリス嬢は俺に会いたくて今回のパーティーに参加したと。そう母上が話していたのを覚えている。


 そういう、レクス公爵家の一人息子という立場は関係なしに、俺自身に対して熱を上げている節のある令嬢の相手は、一番したくない。

 俺の立場に群がる連中は、ある程度こちらの顔色を窺いつつ接してくるが。俺自身に対して熱を入れている令嬢方は、少し強引だからな。


 その手の令嬢はとにかく鼻息が荒く……。こちらに接する距離感が、べたべたとかなり近い。本当に煩わしいことこの上ない相手だ。

 しかも、確かメリス嬢は病弱なことで有名な令嬢だったはず。それが無理をしてまで、わざわざパーティーにやってきたことから考えると……。


「はぁー。またそんなこと言って……。まあ、でも安心なさい。たぶん、メリスちゃんは大丈夫よ」

「どうしてです。俺に会いたいなんて言っていた令嬢ですよ?」


「それはたぶん社交辞令よ。ほら。メリスちゃんには何度か招待状を出していたけど。断られていたでしょ?」

 そういえば……。招待する度、フレール侯爵夫人経由で、病弱なメリス嬢はパーティーには出席できないと、返答されていたのだったか。


「でも、今年はクロードの十歳の誕生日パーティーだったから、私がアリアにどうしてもって、頼んじゃったのよ」

 なるほど。それでメリス嬢も無理をしてパーティに出てきたと。それなら、俺に興味があるというわけではないのかもしれない。


 といっても、そうと決まったわけでもないが。


「メリスちゃん、病弱だって聞いていたのに……。パーティーでも居心地悪そうだったし、きっと無理して出てくれたのよ」

 母上は親友の娘に無理をさせたあげく、さらには倒れさせてしまったことに、罪悪感を覚えているようだった。


「だからね! クロードも来て頂戴。メリスちゃんも病み上がりだし、ちょっと顔を見せるだけだから」

「はぁ……。わかりました。明日は俺もご一緒します」

「ありがとう、クロード。それでは明日の午前中に、出かけましょう!」


 正直、未だ乗り気ではないが。しかしおそらく俺がどれだけ断ろうとしても、母上はそれを許さないだろう。

 母上は言い出したら聞かないところがあるからな。ただ、少し腑に落ちない。なぜ俺までお見舞いに連れて行こうとするのか?


 母上はフレール侯爵夫人と友人同士で、メリス嬢とも面識があるから、お見舞いに行ったら喜ばれる可能性はあるが……。

 正直、俺はメリス嬢と面識もないし、お見舞いに行ったところで、むしろメリス嬢には迷惑な話なのではないだろうか。


「そういえば、どうして俺も連れて行こうとするのです?」

「だってほら、あなたのパーティーで倒れたから」

「いや、そうだとしても。母上がお見舞いに行くだけで、十分のはずでは?」

「まあ、そうなんだけど……」


 なんだか歯切れが悪い。これは何か思惑があるな。


「母上。何か企んでました?」

「……別に企むってほどのことは、考えてないわよ」

「では、どうしてです?」


「ほら、こんな機会でもないと、メリスちゃんに会いに行ってくれないじゃない? 何度か誘ったのに一緒に来てくれないし」

「そういえば、そうでしたか……」


 思い起こせば、母上がフレール侯爵家に遊びに行こうとしたとき、何度か俺も誘われた記憶があった。

 ただ、そのときはまだ領地に住んでいたし、王都まで一週間もかかるからと。断っていたのだった。


 まあ、同じ王都に住んでいたとしても、なんだかんだ理由をつけて、おそらく断っただろうが……。


「私とアリアは仲が良いでしょう? だからメリスちゃんとクロードにも仲良くして欲しいの。だからクロード、明日は頑張るのよ!」

「……善処しますよ」

「よろしい」


 正直、仲良くしろと言われても、それは相手次第だ。だから返事は微妙なものとなったが……。

 母上は満足気に頷いたのだった。

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