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侯爵令嬢メリスの奮闘記  作者: 紙禾りく


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第五十六話

「時間までもう少し……」

 まだ誰も来ていない広間を見渡しつぶやく。今日はメリスのお茶会当日、私は早めに会場となる広間に来ている。

 右隣にはジールス兄様とカリス兄様の姿もあった。


 二人とも私のお願いを聞いて、今日のお茶会に駆けつけてくれたのだ。


「ジールス兄様にカリス兄様。今日はよろしくお願いしますわ」

「任せておいて」

「ああ」

 ジールス兄様は笑顔を浮かべて答えるが、カリス兄様は素っ気無い。


 そんなカリス兄様を見て、やっぱりちょっと苦手ねと思ってしまうのは、ゲームの知識があるからかしら?

 とはいえ、記憶を取り戻してすぐに会ったときに比べると、カリス兄様への恐怖の感情は、随分と薄れていた。


 カリス兄様はゲームの私にとっての死神だったけれど、現実の私はゲームの私とは違う道を歩んでいる。

 自分の行いを反省して頑張っている私は、ゲームのように家に迷惑をかけるようなことをするつもりはない。


 だからきっと、カリス兄様に処分されることもないはず……。


「それでメリス。ナルシス様はアリク嬢とカトラ嬢、カラミラ嬢の三人に会うために、お茶会に参加するのだったね?」

「ええ」

 カリス兄様の確認するかのような問いかけを肯定する。


「ナルシス様が三人に会いたがっている理由は、メリスと仲良くしている友人だから、それで間違いないね?」

「その通りですわ」

 なんだろう。だいたいの経緯は手紙に認めたはずなのだけど。


「ふむ……。他の子はいいのかな?」

「他の子。ですか?」

「メリスは三人以外にも……。例えばエルベル嬢やプラム嬢とも仲良くしているだろう。ナルシス様のお目当ては三人だけなのかな?」


 ああ。なるほど、ナルシス様の目的をはっきりさせておきたいのね。


 手紙には私と「仲良くしている友人」のアリク様たちに、ナルシス様が興味を抱かれたと、そのような書き方をしたから。

 カリス兄様は他の「仲良くしている友人」は良いのか疑問を持ったのね。うーん、他の子のことはあんまり話していないし……。


「たぶん。その三人だけです。他の子のことをナルシス様に話したことは、ほとんどありませんから」

「なるほど。よくわかったよ」

 満足そうに頷いて会話を切り上げるカリス兄様。


 すると今度はジールス兄様が口を開く。


「そういえばメリス……」

「はい。なんでしょう?」

「メリスは、随分とクロード様に気に入られているみたいだね」

「そ、そうなのでしょうか?」


 ジールス兄様は笑顔を浮かべているけど、目だけは笑っていなかった。


「最近よく、クロード様がメリスを訪ねていると聞いているよ」

「それは。魔法のことで、いろいろと相談に乗ってもらっているだけですわ」

「相談に?」

「はい。ですので気に入られているわけでは……」


 クロード様が私を訪ねてくるようになったのは、私の特別な目が気になっているからで、それ以上でもそれ以下でもない。

 とはいえ、私のこの目のことはお兄様たちにも秘密にしておかなければならず、どうにも煮え切らない返答になってしまう。


「クロード様はお優しい方なので、拙い私の魔法を見かねて。それで手ほどきをしてくれているのです」

「優しい方ね……」

 小さくつぶやき。目を細めるジールス兄様。


 はぁー……。ジールス兄様のシスコンぶりを甘く見ていたようね。


 私とクロード様の関係は、ようやく友人と言えるにようになった程度だから、問題ないと思っていたのだけど……。

 しかし、ジールス兄様にとっては、私に近しい殿方というだけでも、敵と認定するには十分な理由だったらしい。


「なるほど。だけどあまりクロード様の優しさに甘えてはいけないよ。ちゃんと家庭教師だっているのだから」

「そ、そうですわよね。これからはできるだけ迷惑をかけないようにします」

「そうしなさい」


 とんだ計算違いだ。ジールス兄様なら話し相手に最適だと思ったのに……。


 これ。ちゃんとクロード様の話し相手になってくれるのかしら? なんだかとっても心配になってきた。

 よしんば、クロード様の話し相手になってくれるとしても、私を溺愛するあまりに変なことを言わないかしら?


 さすがのジールス兄様でも、友人程度の間柄の相手に、嫉妬心全開で向かっていったりはしないと思うけど。

 でも、クロード様が私に相応しい相手か、見極めてやる! みたいな。そんなことを考えるくらいはしていそうだし。


 とはいえ、注意するわけにも――。


「メリス。エルベル嬢が来たよ」

 不安を抱く私の耳にカリス兄様の声が入った。見れば、開け放たれた扉を通って、広間に入ってくるエルベル様の姿が……。

 エルベル様は広間に入ると、奥にいる私たちのほうへ近づいてくる。


「メリス様、ごきげんよう」

 お客様が来てしまったし、ジールス兄様のことはもう祈るしかないわね。

「ごきげんようエルベル様」

 不安は拭えないけど、気持ちを切り替えて笑顔で挨拶を返す。


「ジールス様、カリス様。ご無沙汰しております」

「エルベル嬢、久しぶりだね」

「久しぶりですね」

 エルベル様は私に挨拶した後、隣にいる兄様たちとも挨拶を交わす。


 そしてエルベル様は、私の左隣へと移動した。


「あらっ。エルベル様。それは新しいドレスかしら?」

「はい。先日購入したドレスです」

 そうなのね。半ば予想通りだけど、ナルシス様やクロード様が参加することもあって、気合の入った格好をしている。


「素敵なドレスね。似合っているわよ」

「ありがとうございます」

 エルベル様と軽く雑談をしていると、また別の招待客が広間に入ってきて、それを皮切りにその後も続々と……。


 そうしてしばらく応対を続けていると、アリク様とカラミラ様がやってきた。


「メリス様、エルベル様。ごきげんよう」

「ごきげんよう……」

「カラミラ様、アリク様。ごきげんよう!」

「お二人とも、ごきげんよう」


「ジールス様にカリス様。ご無沙汰しております」

「ご、ご無沙汰しております……」

「二人とも、久しぶりだね」

「久しぶりです」


「二人とも、今日は一段と綺麗ね!」

「まあ。ありがとうございますわ」

「あ、ありがとうございます」

 やってきた招待客皆がそうだけど、二人も気合の入った格好をしていた。


「今日は楽しんでいって頂戴ね」

「はい……」

「それでは。失礼しますわ」

 二人は挨拶を済ますと、窓際近くのテーブルへと移動していく。


 それをちょっと寂しい気持ちで見送った。


 あいかわらずメリスのお茶会では、エルベル様やプラム様と行動していることもあって、三人とは距離を取ることが多いのよね。

 プラム様が三人と顔を合わせると、軽い口論になるので、できるだけ三人とプラム様が接触しないようにしないといけないのだ。


 あら。噂をすればなんとやら。プラム様が広間に入ってくる。


「メリス様。ごきげんよう」

「ごきげんようプラム様」

「エルベル様も、ごきげんようですわ」

「ごきげんよう」


「ジールス様、カリス様。ご無沙汰しております」

「プラム嬢、久しぶりだね」

「久しぶりですねプラム嬢。お父上は息災ですか?」

「はい……。変わらず元気ですわ」


「そうですか。それは良かった。お父上にはよろしく言っておいてくれるかな? 私が気にかけていたと」

「う、承りましたわ」

 カリス兄様に話しかけられたプラム様は、萎縮して見える。


 そういえば、プラム様はカリス兄様が苦手だったわね。


「よろしく頼むよ」

「はい……」

 答えると、プラム様は避けるようにカリス兄様から距離を取り、私を盾にするように間に挟んだ位置へと移動した。


「メリス様。ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 プラム様の後にも、招待客が次々にやって来る。いつもより集まるのが早いのは、やはりナルシス様たちが来るからかしら。


 広間を見渡すと、招待客の半分以上が集まっていた。

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