第四十四話
「特に陰で悪口を言うのは、感心しない。それは卑怯だし。なにより、陰で言われても直しようがないでしょう?」
私は咎めるような口調でプラム様に言葉をかける。プラム様も私の機嫌を損ねたとわかればすぐに態度を改めるはず。
「そ、そうですわよね。申し訳ありません」
私の狙い通り、慌てた様子で頭を下げるプラム様。まあ、納得はしていなさそうな顔だけれど……。
ともかく、後はこのまま話題を逸らしてしまおう。
「そんな風に頭を下げて謝らなくても。わかってくれればいいのよ。ほら、この話はもうお終いにして……」
適当な話題を探す私だったが、なかなか出てこない。ただ、話題を変えたかったのはプラム様も同じだったようで。
「そうですわよね! 話していても仕方ありませんものね。そうだわ。メリス様、昼食の後はいかがなさいますか?」
私の言葉を引き継いで、プラム様のほうから話題転換をしてくれた。ありがたく思いながら、渡りに船と乗っかる。
「昼食の後は……。そうねぇー」
「予定が決まっていないのでしたら、私に任せていただけませんか? いろいろご案内できますわよ?」
「うーん……」
当初の予定では、いろいろと回ってみる予定ではあったけど……。正直もう、さっさと家に帰りたい気分。
なんだかどっと気疲れしてしまっているし。そうでなくとも、こんな風に妖精に監視されている状況じゃあ……。
てっ? あれ? いつの間にか妖精が……。いない!
「メリス様、どうなさいました?」
「……」
話の途中でいきなりキョロキョロと周りを見始めた私を、プラム様が不思議がるが、私は何も答えずに尚も辺りの様子を窺う。
完全にいなくなっているわね……。ちょっと目を離した隙に、いつの間にか忽然といなくなっていた二体の妖精。
まあおそらく、私が頑なにマリウス様の悪口を言わないようにしていたから、マリウス様も諦めてくださったのだろう。
「はぁー」
「お嬢様?」
ようやっとマリウス様から解放された安堵感から、盛大なため息をこぼすと、今度はマイアにも不思議がられてしまった。
「ああいえ。なんでもないのよ。ちょっと疲れが出ただけ」
「大丈夫ですかお嬢様?」
「ええ。大丈夫よ。……でもそうね。本当に疲れたから、昼食を食べたら帰ることにしましょう」
マイアを誤魔化しつつ、どうせなので疲れていることを帰るための口実に使う。
「二人とも。構わないかしら?」
「はい」
「ええ」
私の問いかけに答えるアリク様とカラミラ様。
「プラム様、ごめんなさいね。そういうことだから、案内はまたの機会にでもお願いするわ」
「そうですか……。残念ですけれど、仕方ありませんわ」
残念そうな様子を見せるプラム様。
そうして、丁度話が一段落したタイミングで、料理が運ばれてくる。
「お待たせいたしました」
何人かのウエイトレスが、私たち四人の前にヘルシーそうな見た目をした料理と、飲み物を並べていく。
へぇー。これが噂の、痩身効果がある食材をたくさん使っているというダイエット料理なのね
ダイエット料理だというから、あんまり期待していなかったけど、思ったよりも美味しそうだ。
「メリス様、知っていますか? ここの料理は美味しいうえに、ダイエットにも効果があるのですわよ」
「ええ。それが売りなんですってね。いただきましょう」
楽しそうに話すプラム様へと適当に返しながら、料理に手をつける。
あら。これはなかなか……。美味しい料理に舌鼓を打つ私。そんな私に深刻そうな声色でメリスが話しかけてくる。
『ねえ……。ずっと考えていたのだけど。さっきのマリウス様への対応は、不味かったように思うのよ』
(どういうこと?)
メリスの言葉の意味が、ちょっとよくわからない。
予期せずマリウス様と出会い、さらには揉め事を起こしてしまったことを、憂えているといった感じではないわね?
それなら私も憂えているけど……。メリスの言葉のニュアンスからは、揉め事を起こした後の対応が不味かったと読み取れる。
『えーっと……。ほら、ゲームの知識をよく思い出して考えてみなさい』
(ゲームの知識?)
どういうことだろう。ゲームの知識と言われても。この場合、マリウス様に関する知識を指すのだと思うけど……。
「美味しいですわね」
「ええ。とても……」
同じく料理を食べ始めたカラミラ様とアリク様の二人が、楽しそうに話しているのを横目に、思考を巡らせる。
ゲームのマリウス様はダークブルーのセミショートヘアに茶色の瞳をした、優しげな風貌の美青年。
その性格は一見すれば軟派な色男といった感じだけど、実は繊細でそして人間不信を拗らせている。
この人間不信を拗らせているところが、マリウス様ルートの肝で…………。
(ああ、なるほど。そういうことね……)
『どうやら私と同じ結論に至ったようね。はぁー。あなたも同じ結論となると、やっぱり、不味いわよねぇ……』
(ええ。ちょっと不味いかも)
しまったわね。そうだった。マリウス様の人間不信はヒロインとのフラグのための、大事な大事な設定だった……。
人間不信のマリウス様は、裏表のない性格のヒロインに惹かれていく。それがマリウス様ルートのシナリオの根幹。
ああ……。なんでこんな大事なことを失念してしまうかな。
いやでも、仕方なかったのよ。だって、マリウス様との出会いは予期せぬもので、しかも揉め事まで起こしてしまったから。
だから冷静に考えることができなくて。とにかくマリウス様を不快にさせてはいけないという思考に、囚われてしまったのよ。
攻略対象者は将来ヒロインを押し付ける相手だから、嫌われると動きにくいと、普段からそんな考えを持っていたことも悪かった。
それに、そもそもマリウス様は四大貴族だから、貴族的な慣習から不心得な態度を取るわけにはいかないと、真っ先に思ってしまっても……。
てっ。私はいったい誰に言い訳しているのだろう。
はぁー。どうしよう……。振り返ってみると、私がマリウス様に取った一連の行動は間違いなく悪手だった。
今さら言っても仕方ないが、不快に思われたとしても、私は陰でマリウス様の悪口を言っておくべきだったのだ。




