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侯爵令嬢メリスの奮闘記  作者: 紙禾りく


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第二十話

 メリスのお茶会から一週間後の昼下がり。我が家の一室、少人数でのお茶会でよく利用される談話室には、三人のお客様がいた。


「三人とも、今日は来てくれて嬉しいわ。ほら、そんなに硬くならずに寛いで。お茶会を楽しんで頂戴」

 いきなりの呼び出しだったから、三人はどこか緊張している様子。なので、緊張をほぐそうと優しく微笑んだのだけど……。


 効果はないみたいね。まあ、詳しい用件も告げずに呼び出しただから当然かしら? でも、そんなに警戒しなくても。

 カトラ様は険しい表情だし、アリク様は不安そうに縮こまっている。カラミラ様も、表情こそいつも通りだけど雰囲気が硬い。


「ありがとうございます。楽しませていただきますわ。……それで。今日はどういった趣旨の集まりなのでしょうか?」

 正面に座るカラミラ様が、左右に座るカトラ様とアリク様へ、順ぐりに視線を向けながら、私へと問いかけてきた。


 ああ、やっぱり気になるわよね。呼び出した三人にそれほど接点はない。なのにいきなり集められたのだ。

 理由が気になっても仕方ない。私も「お茶会をしましょう」としか伝えていないから、困惑するのも無理からぬこと。


「強いて言うほどの趣旨はないわ。ただ、あなたたちともっと仲良くなりたいと思ってね。だから、そんなに緊張しなくてもいいわよ」

「……まあ、光栄ですわ」

「私とも。ですか? あっ、いえ。もちろん嬉しいのですが……」


 はぁー。本当のことを言ったのに……。どうやら、仲良くなりたいという理由では三人とも納得ないといた様子。

 アリク様は無言だし、カラミラ様も少しだけ訝しんでいる。カトラ様に至っては、本音がぽろりと漏れていた。


 とはいえ、それも無理からぬことではある。メリスのお茶会に参加する友人たちの中では関りが少ない方々だからね。

 だからこそ、もっと仲良くなりたいというのも本心なのだけど仕方ない。予定通り、それらしい理由をでっち上げましょう。


「ふふっ。まあ、カトラ様が疑問に思うのも当然よね。あなたとはあまり仲が良くなかったもの」

「えと……」

 黙り込むカトラ様。


 あっ、いや別に非難しているわけではないのよ?


「んっうん。ともかく……」

 なんだか余計な一言を言ってしまい。どことなく空気が悪くなった気がしたので、誤魔化すように咳払いをして続ける。


「……仲良くなりたいのも本音だけど。他にも理由があって集まってもらったの。カトラ様には頼みたいことがあるのよ」

「頼み、ですか? 私にできることでしたら、可能な限りお力添えいたしたいと思いますが……。いったいなんでしょうか?」


「そう警戒しなくてもいいわ。大したことじゃないから。……カトラ様はダンスが好きで。そして得意でしょう?」

「ええ。まあ」

「私、ダンスが苦手なのよ。だからコツとかを教えて欲しいと思ってね」


 さて、それっぽい理由を探してきたけど。これで納得してくれるかしら?


「……それだけですか?」

「ええ。それだけ。教えていただけるかしら?」

「もちろん構いませんが。メリス様には家庭教師がついていますよね?」

「いるわよ。だけど、なかなか上達しないの。だからお願い!」


「わかりました。微力ながらお力添えいたします」

「ありがとう」

 なんとか言い含めることができたって感じかしら? ともかく。これで今後もカトラ様を呼び出す口実ができた。さて次は……。


「カラミラ様、あなたも疑問をお持ちではなくて?」

「いえ。そのようなことは。ですが。仲良くなること以外に、私がお茶会に呼ばれた理由があるのでしたら、なんなりと」

「ええ、あるわ。あなたからは情報が欲しいのよ」


「情報。ですか?」

「あなたって、情報通でしょう? 私、あんまり社交界に出てないから、いろいろ教えて欲しいことがあるのよ」

「なるほど。そういうことでしたら、お任せください」


 よしよし。こっちもうまくいったわ。もっとも、カラミラ様は如才ないから、理由付けはいらなかったかもだけどね。


「あ、あの。私も……。仲良くなりたいという理由以外に何か、呼ばれた理由があるのでしょうか?」

 まあ、この流れなら当然気になるわよね。大丈夫よ。ちゃんとアリク様を呼んだ理由も用意している。


 といっても、アリク様の場合は仲良くなりたいという理由を、ちょっと補強してやるだけで良い。


「いいえ。アリク様を呼んだのは、仲良くなりたかったからよ」

「そ、そうなのですか?」

「ええ。ほら、あなたっていつものお茶会では、たいてい隅っこにいるから、なかなかお話する機会がなかったでしょう?」


 そう。アリク様とは普通に接点が少ないので、もっと仲良くなりたかったという、本来の目的がそのまま使えるのだ。


「なのでもっとお話がしてみたくて。それで今日お呼びしたのよ。だから、もっと気を楽にして頂戴な」

「で、ですが……。私などと。その……。話をしても、面白くないと思います」


 弱弱しい口調で話すアリク様。やっぱり相当な人見知りね。しかも、どうやら自分に自信もないみたい。

 うーん、もう少し話せる子だと思っていたのだけど。現にメリスのお茶会のときはもう少しマシだった。


 この慣れない場が余計なプレッシャーを与えているのかしら?


「そんなことは、実際に話してみないとわからないわよ。ねえ、カラミラ様とカトラ様も、そう思うでしょう?」

「ええ」

「ま、まあ。そうですね」


 どうにもアリク様は、私に対して萎縮してしまっているようだから、他の二人の力を借りようと思ったのだけど。

 話を振られるとは思っていなかったといったカトラ様の反応が、いまいち興味にかける返答だったせいで逆効果に。


 しかしまあ。同意は得られたので、強引に話を進めさせてもらう。


「ほら。お二人ももっとお話したいと。仲良くなりたいと言っていますわ」

 後に続くように、カラミラ様とカトラ様に目配せをする。さあ、今度こそちゃんとした援護をしなさい。

 特にカトラ様には念入りに目配せを……。


「え、ええ。アリク様とは、もっとお話したかったの」

「私も、もう少し仲良くしたいと常々思っておりました。無論、アリク様がお嫌だとおっしゃるのであれば。無理強いはしませんが」

「ああ、そうね。アリク様が嫌なら、無理にとは言わないわ」


 カラミラ様の言葉に乗っかる。良い援護をしてくれたわ。ちょっと卑怯かもしれないけど、こう言えば断れないだろう。

 アリク様の性格を考えれば、私と話すのが嫌とは答えられまい。立場を笠に着ているようで、ちょっと気が引けるけど……。


 それは他の二人に対してもだし。こうしないと親睦を深めるきっかけがね。


「いえ。もちろん嫌ではなく。嬉しいのですが。ただ――」

「嫌ではないのね。それなら良かったわ。ならば親睦を深めるために、今後も定期的に三人でお茶会をしましょう!」

「……はい」


 うだうだ言いそうだったアリク様の言葉を遮り、力強く宣言すると。さすがのアリク様も頷いた。

 よし。良い感じね。さらりと三人でのお茶会を定期的に行うことも宣言できたし、後は押し切るだけ。


「では。アリク様、それにカラミラ様とカトラ様も。定期的に我が家に招待するから、これからよろしくね」

 断られないように少し威圧的な笑顔を浮かべ、全員の顔を見渡しながら、言質を取りにいく。すると……。


「わかりました」

「よろしくお願いしますわ」

「よろしくお願いします……」


 カトラ様は少し固い表情で。カラミラ様はそつなく笑顔を浮かべ。アリク様は半ば流されるように。了承した。

 よし! 内心はどう思っていたか不明だが、とにかく三人と約束を取り付けた。あとはゆっくりと仲良くなっていこう。


「ありがとう。とても嬉しいわ。では、お茶会を楽しんでいって頂戴」

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