表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵令嬢メリスの奮闘記  作者: 紙禾りく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/65

第十五話

 いつの間にか整っていたお茶会の準備。二つしかなかった丸テーブルの椅子は、四つに増えており。

 テーブルから少し離れた場所には、銀色のワゴンと三人のメイド、ミルクシスとマイア、クインの姿が。


 てっきり、ナルシス様は私の顔を見に来ただけで、挨拶したら別室にでも移動するのかと思っていたけど……。

 どうやら、この場でお茶にするらしい。さて。そうなると私はどうすれば? やっぱり同席したほうが良いわよね。


「お母様、私もそちらに――」

「無理しなくても良いわよ。メリスちゃん」

「いえ。体の調子も良いようなので、できればご一緒したいです。お母様、よろしいでしょうか?」


「まあ、少しだけなら大丈夫でしょう。無理はしないようにしなさい」

「はい。無理はしないと約束します」

 お母様の許可が下りたので立ち上がり、姿勢良く歩くように気を遣いながら、テーブルのほうへゆっくりと向かう。


 そうして、私たち四人がテーブルに着くと……。


「失礼いたします」

 マイアとクインが、テーブルに紅茶の入ったカップを。

「こちらはナルシス様からいただいたケーキでございます」

 ミルクシスがケーキの乗ったお皿を並べた。


 さて。テーブルに着いたのものの。よく考えると、テーブルマナーも……。


「メリスちゃんの回復祝いに買ってきたのよ」

「ナルシス様、ありがとうございます」

 大人しくベッドの上にいたほうが良かったかしら? だけど、それも失礼な気がして。でも……。


(メリス。どうしよう。テーブルマナーが……)

『だから……。知らないわよ。頑張りなさいよ……』

 情けなくもメリスに助けを求めると、メリスの消沈した声が頭に響く。静かだと思ったら、落ち込んでいたらしい。


 まあ、わかるわよ、その気持ち……。


 クロード様との出会いは、素敵なものになるようにいろいろシミュレーションしていたものね。

 それなのに、この様である。それは気分も落ち込むというものよ。落ち込まないわけがない。


 ちらっと正面に座るクロード様の顔色を窺う。不快な印象を与えてないだろうか? 機嫌は良いのか悪いのか?

 うーん。駄目ね。無表情なのでその辺がよくわからない。ただ……。その整った顔はやはり。ああ、やっぱり……。


 かっこいいなぁー。


 先ほどまでとは、好きな人に駄目な姿を見られることとは違う。もっと別からくる恥じらいの感情が湧き起こる。


 クロード様がこんなに近くに……。


 やばい! めっちゃドキドキしてきた。鼓動が高鳴り、心拍数が上がった感じがする。か、顔もなんだか熱い気がしてきた。

 実は、前世の私は恋愛経験に乏しかった。無論、ゼロというわけではないが……。とにかく! 私はけっこう初心なのだ。


「あら。このケーキ美味しいわね」

「ふふっ。喜んでもらえて嬉しいわ」

 両隣のお母様とナルシス様の会話が、なぜか遠く感じる、もう一度ちらっと、クロード様のほうを見てみた。


 あうぅ……。クロード様もこっちを、私を見ている……。


(どうしようメリス! クロード様が! クロード様が!)

『ちょっと、どうしたのよ!』

(だって! クロード様がこんなに近くにいるから……)

『いや、トキメイてる場合じゃないでしょうが!」


 そ、そうよね。メリスの大きな声でなんとか持ち直す。今は体裁を取り繕うことに集中しなければ……。

 再度、クロード様のほうをちらっと見る。ああ。やっぱり素敵……。てっ、違う違う! そうじゃない。


 うーん、機嫌は……。やっぱりわからないわね。だけど、特に不快に思われるようなことはしていないはず。

 礼儀作法は駄目だったかもしれないが。だとしても、せいぜい内心で呆れるくらいで……。やっぱり呆れられたかしら?


 はぁー……。いやいや、落ち込むのも後にしないと!


「ほら、クロード。そんなぶすっとした顔をしているから。メリスちゃんが緊張しているじゃない」

 えっ、あの。ナルシス様、緊張しているのは事実ですが、態度に出てました? では、クロード様にも……。


 ちらちら見てたの気付かれてた? うわー。顔が上げられない。


「ごめんなさいね。クロードったら、無理矢理連れてきたから機嫌が悪いのよ」

「い、いえ……」

 そういえば、ナルシス様はともかく、クロード様がお見舞いにやってきたのが不思議だったけど。そういう理由だったわけ……。


「母上、別に機嫌が悪いわけではないですよ」

 クロード様はそう言うけど、内心はどうだろうか。来たくもない場所に連れてこられたら、不満に思うわよね。

 となると、やっぱり不機嫌なのかもしれない。


「そう。だったらもう少し愛想良くしなさい。メリスちゃん、クロードのことは気にせずに寛いでね。ほら、ケーキをどうぞ」

「いただきます……」


 気にしないでと言われても無理です。でも。気にし過ぎるのもいけないわね。ただでさえ、意識し過ぎているのに……。

 とにかく気を紛らわせよう。クロード様から意識を逸らすためにも、林檎のタルトケーキをフォークで切り分け、一口いただく。


 あっ。美味しい……。上品な甘さが舌に心地良くて、すぐに二口目を口に。


 このケーキ、本当に美味しいわ。前世は甘いものが好きで、休日には雑誌に載る有名店をハシゴしたこともある私。

 そんな私を以ってしても、このケーキの出来栄えは素晴らしいものだった。今まで食べた中で、確実に十指に入る。


 もう一口食べ、今度は紅茶を飲む。うん、紅茶にも程よく馴染む。口の中の甘さを香りの強い紅茶が爽やかに流し。

 さらに次の一口を引き立てる。この林檎もかなり鮮度が良い。ほどよくケーキが冷えているのは、魔法を使ったのかしら?


 これはなかなか……。いろいろ気疲れしていた私は、ケーキのあまりの美味しさに、ついパクパクと。


『ねえ。ちょっと、何やってるのよ!」

 はっ! しまった。ついつい夢中になってパクついてしまった。ちょっと、気を紛らわせるつもりが。なんてことなの……。

 ああ、不味い。ただでさえテーブルマナーが拙いのに。


 ケーキの美味しさに気が緩んでいたので、礼儀作法を意識していなかった。きちんとできていたかしら?

 いや、メリスが慌てて声をかけてきたということは、きっとできていなかったのよね。周りの反応は……。


 もうあと二口ほどになってしまっていたケーキから、ゆっくりと視線を上向け、周囲の反応を探る。

 すると、無表情でこちらを見詰めるクロード様と、ばっちりと目が合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ