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罪人の孫  作者: レム
第1章 『災厄、再び』
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第8話 『デューク』

 カーテンの隙間から朝日が差し込んできて目に直撃している。熱を持っていてそれ以上に眩しい。


「なんか……スッキリしないな……」


 時間は朝の七時。

 昨日、と言うか四時間前に悪夢で起きて鼻をぶつけて止血してからやっとベッドに入って寝付くまでたっぷり一時間はかかった。お陰でいつもは六時には起きているはずなのに一時間の寝坊だ。


「朝ご飯は……自分でいっか」


 少し眠気が残っていて眦を擦りながらベッドから出る。ん~と背中をいっぱいに伸ばしてカーテンを開けて朝日を目いっぱい浴びておく。

 次に流し台まで行くと水を流して顔を洗う。横に鏡があったので自分の顔を映す。ナルシストとかそんな意味は無くて数時間前に負傷した鼻の様子を確かめているのだ。万が一にも血が付着していれば人生を一発退場しないといけない。


「大丈夫、みたいだな」


 それを確認できれば朝食の準備に取り掛かる。戸棚から乾パンとベーコンを取り出す。後、戸棚の上に置かれている箱の中から卵を取り出した。キッチンに向かってマッチで火をつけた。

 手早く調理をしてベーコンエッグに乾パン。これが今日の朝食だ。一人しかいない部屋、徒に時間を潰す事も勿体ないので早めに完食してしまうと慣れた手つきで片づけをして着替えていく。

 黒を基調としたブレザー型の制服。奇しくも記憶の中の服装と似ているのが毎回頭のどこかに棘を刺している。

 時間を見れば既に八時だ。


「おっとっと」


 少しゆっくりし過ぎたと反省して慌てて部屋を後にしていく。しっかりと鍵を閉めて走って学校に向かう。

 この部屋に住んでいる少年――デュークは国立ユーナ学院の一学生である。そもそもここはイスルギ共和国の首都カナカ。

 寮と学院は少し離れていて大通りを抜けて行かないといけない。活気があっていい街だとは思うが人が多いので気を付けて行かないといけない。

 他の国と違って名前が変なのは、ここは今から五十年前に建国された国で主要なメンバーは異世界から召喚された人だったという。初代国民代表がイスルギと言う名前だったため国名になった。首都はファーストネームらしい。

 これは大人の都合で隠された歴史だが、この国は元々ヘルブン王国だった。それは今の代表達を召喚した国だが、狂血によって滅ぼされて、その跡地に作られた新興国家。

 人通りが多く、商店も立ち並ぶ大通りを抜ければ学院はすぐ目の前だ。建国のごたごたが終わった四十年前から運営されているイスルギにおいて最も巨大な国営施設でもある。

 なんでも代表やそれに続くメンバーが満足な教育を受けられずにこっちに来たため、改めて教育の重要性を再確認したので教育機関に最も投資をしたのだ。

 まるで白亜の巨城。

 ここまでくれば他の生徒の姿も見える。その制服は白か、黒かで分かれていた。制服が示しているのは所謂クラスだった。

 白は入学試験で魔力適性が高いと判断された見習い魔法使いクラス。

 黒は、魔力適性は高くないが身体的に優れているクラス。

 以外にも男女比は余り変わらない。女性だから魔力適性が高いとか、男性だから体力的に優れているとかと言うのは無いのだ。


「おはよう、デューク」


「うぐっ、なんだディアンか」


「なんだその態度は味気ないぞ」


「うるせえ、寝不足なんだよ」


「遅くまで徘徊でもしたのか」


「ちょっと眠れなかっただけだ」


 肩を叩いて話しかけてきたのは同じクラスのディアン。後ろには歩きながら読書をしているマナークの姿も見えた。


「マナーク、読書中悪いが、前を見ないとぶつかるぞ」


「安心してください。僕は白服です。周囲に魔力センサーを張り巡らせれば誰かがぶつかってくる前に感

じ取って回避できますから」


「すげえな、白は」


 マナークは眼鏡をかけていかにも優等生で実際優等生である。ディアンやデュークと違って白服。つまり、魔法のクラスに属している。この二つのクラスは互いにライバル同士で切磋琢磨して成長し合っているが、仲が悪い事なんてない。よい隣人関係を続けている。

 三人になったところで進んでいくと学院の入り口前に巨大な銅像が置かれている。


「何度見ても綺麗だよな」


「まさに、英雄と呼ぶのに相応しいです」


「――――」


 ディアンは当然としてずっと本を読んでばかりだったマナークすら立ち止まって顔を上げている。デュークだけが複雑そうに険しい目つきで見る。

 ユーナ学院の学院長・大英雄ユーナ。

 文字通り世界を救った偉人。この世界で彼女の事を知らない人はいない。大英雄、聖女、呼び名は人の数程あるとも言われている。

 銅像は学院が出来た四十年前の姿だが現在は七十近くで当時の力は残っていないとされている。それでも彼女が持っている求心力は一切衰えていない。むしろ、こうして銅像として残る辺りこれからも語り継がれていくだろう。

 知名度としては一級。しかし、彼女が公の場に出てくる機会は滅多にない。功績だけで考えればユーナが代表を務めるべきだし一学院長で収まる器ではないのだが、頑なに権力を持つ事を嫌がる。

 学院の名前や長の椅子についても半ば強制的だったと聞いていた。


「――ッ!」


 突如として胸を殴られるような痛みが走る。原因は分かっている。彼の中の血が騒いでいるのだ。全身の血が暴れ出す。内側から血管を破ろうとする勢いだ。

 憎きユーナを殺せ、と。


「どうしたデューク」


「何でもないさ。早く行こう」


「ああ」


 絶対に悟らせるわけには行かない。

 狂血は既に滅んだ。それでいい。その血を受け継いでいる者の存在は世界に対しての害悪でしかない。

 銅像を後にして学院内に入っていく。

 最初の頃は巨大すぎて迷子になった事もある。


「そういえばマナークは貴族じゃんか、いいのか俺等と一緒で」


「愚問ですね。そういう質問自体が学院規則に抵触しかけている事を忘れてはいけませんよ」


「これは失礼」


 廊下を歩けば二色あるとはいえ同じ制服に身を包んだ生徒たちで溢れている。

 ここの学院は基本的に誰に対しても門徒を開いている。イスルギ自体が共和国で身分制度が存在していないため入学をする事が出来てかかる費用もかなり抑えてある。ユーナが出した条件らしく誰もが十分な教育を受けさせたいと言う願いから補助が出ている。

 ユーナの伝説は世界中に渡って当然王国制の国の王子も入学したいと言う。ユーナの方針で差別はせず受け入れるのだが、厳しい制約がある。

 簡単に言えば身分を笠にした行為の一切の禁止。

 学院の生徒である限り、学院の内外に問わず貴族である事、身分を主張する事をすれば一発で学院から追い出される。誰もがサインをするのだが、癖は簡単に抜けずに毎年やらかしてしまう輩がいる。

 マナークも小さいとは言え貴族の生まれ、この場合は訊いたデュークに責がある。だが気にもなる。自分は生まれて数年で母を亡くして父も二年前に他界した。家族どころか貴族を知らないのだ。


「――ク、おい、デューク!」


「――ああ、どうした」


「それはこっちのセリフだ。ポカンとして」


「あ……いや、何でもない」


 いけない、ついぼーとしてしまっていた。頭を左右に振って意識をこっちに引っ張り戻しておく。


「今日の授業はなんだっけ」


「座学中身は忘れた」


「僕は魔法学」


 座学に関しては白、黒関係なく一緒に受ける事が多いのだが、特殊座学や教養にしてもなかなか噛み合わない。


「それじゃ僕はこっちだから」


「ああまたな」


「右に同じ」


 廊下の突き当りでマナークとは別れた。野郎二人で歩くのはなかなかに辛い所があるのだが、下手に大人数と関われば頭が回らなくなってボロを出す可能性だってないとは言えない。


「デュークはどんな女が好きなんだ」


「――藪から棒になんだ」


「ちょっとした世間話だよ。ここの連中ってふわふわした話って聞かないだろ」


「そのまま返してやるよ」


「あはっ、俺に訊いちゃうんだ。悲しくなるね。仲が悪い訳じゃないと思うんだけど、そう言う関係になっているのかと聞かれれば違うんだよね」


「仕方がないんじゃないのか。ここに来ている以上、浮ついた事をしている場合じゃないんだ」


「それはそうかもしれないけど」


 隣でぶーぶー言っている奴は置いておく。でも、言わんとしている事は確かだ。ユーナ学院、ここは基本的に誰にでも門徒を開いているが、入ってくる生徒は例外なくまじめで志が高い。

 世界の英雄の学び舎で色恋沙汰に耽っている時間はないと言う事だ。誰もがここに目的をもって入学する。それは当然デュークにも言う事が出来た。でないと、自分の境遇を知っている人間がわざわざ懐に入り込むリスクを冒すはずがない。

 

「そこの二人、何をしているのですか。もうホームルームの時間は始まっています。早く教室に向かいなさい。とっくにチャイムもなりましたよ」


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