第6話 『最期』
――十年後。
この十年間で異世界であるここに存在しているすべての国を敵に回して結人は破壊を続けた。すべては最初の殺した沙織の殺害を特別にしないためずっと殺さないといけなかった。何よりも自分にとって最も憎い妹を殺したくて仕方がない。
全国家が牙をむいて結人を殲滅しようとしているのに彼は生き残り戦い続けた。その身に宿る最恐の異能『狂血』によってたった一人で世界を相手にした。
憎しみと怒りだけで無限に体が動く。それは世界の半分を血の海に沈めた時だった。
――終焉が訪れる。
「ここまでですね、兄さん」
「俺はまだ負けてねえ。まだ……まだだ……」
小高い丘の上、一面草原の景色が広がって太陽とのコントラストに目を奪われるものも少なくないここは今、地面が捲りあがって血によって黒く染まり地獄と化している。
丘の上にいるのは豊かな装備がぼろぼろになってなお握る光の剣は健在で、しっかりとした決意の目をしている結奈。対して、全身から血を出して肩で息をしている結人。
狂血の性質上全身から激痛が伴う出血はあって然るべきなのだが、今の結人は命を守る血までもが流れている。他には誰もいない。たった二人だけの空間。
「あれから十年ですね。なんでこうなったんでしょうか。私はこんな事望んでいなかったのに」
「黙れ! そうやって俺を憐れむな!」
彼を守っている狂血は剥がれ落ちている。
「さよなら兄さん。あなたは余りにも多くの人の命を殺め過ぎました。それ以上に苦しみ過ぎました。だから、せめて今だけは楽に逝かせてあげます」
光が瞬くかの様に一瞬で距離を詰めると結人の心臓にしっかりと光の剣が突き刺さっている。彼の血が健在ならば致命傷にはならないが、瀕死の状態ならこれで致命傷となる。
「ぐ……あぁああああ! 俺は……! 俺は……ッ!!」
光が全身を焼いていき、全身を引き裂かれる激痛に襲われている。ゆっくりと剣を抜いていく。血の奥に開いた風穴を見つめる。
「兄さん……」
「ぐあっ……はあはあ……なんだその目は……結奈……これで終わりだと思うなよ。俺は……死なない。俺の憎しみが、怒りが残り続けている限り……俺は死なない。努々忘れるなよ……俺は、俺は、俺は不滅だぁああああああああ! あぁああああああああああああああああ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」
最期は血霧になって霧散していった。
結奈は目を閉じると天を仰いで奥歯を噛む。その頬には透明な涙が伝っていた。
後に最果ての丘、と名付けられたこの場所で世界の半分を殺した大罪人結人は世界の半分を救った大英雄結奈によって討伐された。
人はこの十年間を聖魔戦争と呼んで絶対に繰り返してはいけない禁忌とした。