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罪人の孫  作者: レム
第1章 『災厄、再び』
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第20話 『デュークvsユーナ』

「ちぃ、悪知恵ばかり働かせやがって」


 今現在デュークは防戦一方になっていた。人質としても有効だと思っていたエミリアは僅かな隙に脱走してしまい、それを待っていたかの様に維持部隊が全方向を取り囲み防護魔法で行く手を阻むと、その奥に控えていた維持部隊が攻撃魔法で仕掛けてきたのだ。

 数にものを言わせた戦法。その気になればなんとかなるかもしれないが、ここで賭けに出るにはリスキーと言わざるを得ない。しかし、他に方法が無いのも本当。今は『血鱗』で全身をガードしているが、これでは満足に動けない。だからと言って解除してしまえば魔法によって死にはしないだろうけど、良くない事が起きる気配がむんむんしている。

 辺りは焦土を化している。市場の建物はほとんどが全壊ないし半壊して売り物もダメになっているだろう。それはどうでもいいのだが、デュークが突っ込みたいのは店の店主の恨みの目が自分に向いているのだ。

 おかしくないか、それ壊したのは最初の事故と維持部隊の攻撃なんだけどな。


「まったく悪者は辛いね。だけど、俺だってこのまま引き下がるわけにもいかないんだ」


 魔法攻撃にはリズムがあった。どうしても攻撃が手薄になってしまう僅かな時間があって勝負を仕掛けるならそこ。


「はっ!」


 噴水の様に全身から血を噴出させる。皮膚が裂けて激痛が襲って来るが段々慣れてきた。

 巻き散った血はすぐに蒸発して赤い霧になって辺りに充満していく。濃度も濃くなって視界が一メートルも無くなる。

 ここまで来てしまえばデュークの領分。彼らが使っている防護魔法は防御力こそ一級品だが、その場から動けないと言う欠点を抱えている。対して、デュークは自在に動けて今は視界がない。そして、彼らの位置は既に覚えていた。

 デュークは別に殺しを楽しみたいわけではない。そんな非生産的な事はどっかの殺人鬼に任せるとしても大切なのか如何にリスクを抑えてここから脱出できるのか、と言う事だ。 

 故に勝負をかけるのは一つの方向だけ。そこにいる維持隊の人には悪いが、気絶、最悪殺してでも道を開けて逃げないといけない。一番してはいけないのはここで長く籠城する事だ。仲間がいないので解決する事はない。


 ――よし!


 感覚を尖らせてその場から駆けだそうとした瞬間、デュークはこれまで感じた事が無い――いや、記憶の奥底から鳴り響く警鐘に足を止めた。

 辺りは血霧に遮られて視界はないはずだが、その霧に線が残った。次々と線が入っていき、その線は光を膨張させて霧を消してしまう。



「なっ!」


 いつかは風の魔法で霧散するだろうとは思っていたのだが、こうも早く、予想外の方法で止められるとは。


 ――あ~、何だろう。すごく嫌な予感がする。

 鼻が良いとはまた違う嗅覚。

 匂って来る強者の香りが。


「あなた達そこからどいてください。後は私が請け負いますよ」


 デュークが向いている方向にいた人や維持隊の人が左右に分かれていく。人海を割って現れたのは紐でくくった和服を着ている黒髪の老人。しかし、老人とは思えないプレッシャーにデュークも足が少しだけ震えた。


「初めまして、ではありませんね。この間ぶりですね」


「ユーナ……」


 維持隊の人が下がっていく。ユーナの登場によってお役目ごめんされたのだ。しかし、仕事が終わりではなく野次馬を制して距離を取らせていく。


「まず、確認をしないといけませんね。あなたは兄さん――ユートなのですか」


「答える義務はないな」


「そうですか。私としては対話を望むのであれば答える気があります」


「――っ!」


 デュークも最初こそ対話を望んでいたのだが、一回始まった戦いに今更対話をしたところでデュークの評判は変わらない。


「今更だろう。こいつらは俺の要望を聞かなかった。俺に残されている道は邪魔する人間を殺し続ける事だけ。ついでに俺を否定した世界を壊してみようかな」


「なら、これで勝負をつけるしかないですね」


 前に出した両手の中に光が集まっていき、やがてそれは一本の棒となって先端に刃がついた。確か薙刀と呼ばれている武器を光で再現したのだ。


「詳細なデータのない聖光だけど、確か、太陽光を始めとした世界に存在する光と言う光を自分に集めて自在に扱う力。その収縮率は約三パーセントから五パーセント。つってもたった数パーセントととはいえバカみたいな破壊力を持っているけど」     


「よく知っていますね」


「こんな体をしていると情報が入って来てね」


「その辺についても後でゆっくりと話を聞きますよ」


「いいのか、狂血を二度殺す事になるけど」    


「そうですね。いい気はしませんよ。でも、これが私の役目ですから」


 肌がピリピリとしてくる。ユーナは普通に振る舞っているだけなのに体の中の狂血が因縁の相手に出会えた事の喚起と強大な相手であると言う事の畏怖を感じる。


「後、これは個人的な興味なのですけど、どちらが強いのか確かめてみたいんですよ」


「くっ……」


「どうも、そちらからは来てくれないみたいなので、こっちから行きますね」


 姿が消える速度で肉薄してくることはない。ゆっくりと、ゆっくりと一歩ずつ近づいてくるが、デュークは不用意に動く事が出来ない。さっきまでとは立場が逆転して捕食者の側になってしまったのか。


「あぁああああああああああ―――――――――――――――――――――ッ!!」


 このままではいけないと思い自分を鼓舞すると、ユーナとは対照的に一足飛びでその距離と詰めると血で強化して猛獣の爪よりも鋭くなったそれで直接攻撃を仕掛けていく。この際に注意しないといけないのが聖光で作られた光の薙刀には一秒以上触れる事は出来ない。ただでさえ触れるものすべてを消滅させる能力を持っている一秒あれば狂血のガードが剥ぎ取られて肉体を焼かれてしまう。 


「はぁあああああああ!」


 出来うる限り早く動いて狙いを定めない様にしてユーナの懐に潜っていく。


「――!」


 鋭利な爪で抉りに行くが顔色一つ変える事なく薙刀で捌いていく。どれだけ早く、不規則に動いても意表を突くことが出来ない。

 ――この距離はダメなのか。

 記憶にある聖光は遠近両方に対応していたからどっちでも変わらないと思ったが、近接は思った以上に手ごたえがない。


「だったら!」


 弾かれたバネの様にその場から距離を取ると、無数の血の針を用意した。そして、考えさせる暇も与えないまま撃ち出す。どれだけ英雄と呼ばれていても、その肉体は全盛期を越えて衰え、肉体そのものだって他の人間と大差ない。デュークの血の針を一か所でも刺さってしまえばそれで勝負がつく。


「それはもう何度も見ていますよ」


 自分の前面に光の障壁を作ってしまう。その障壁に触れた針はすべて消滅して行く。


「お返しをしてあげないといけません」


「なっ!」


 デュークの針攻撃が終わって、呼吸をした瞬間。そのわずかに意識の波が下がった時に、ユーナがいつの間には接近していた。


「どうやら今発現したわけではないですね。随分と使い慣れています。ずっと昔からいつか来るこの日のために準備していたのですね」


 優しい口調とは裏腹に薙刀を腰の奥に構えると、一切の躊躇をする事なくデュークの腹部に向けて突き出してきた。その目は本気だ。これで一刺しにてデュークの命を狩ってしまうつもりだが、そんなに簡単に命をくれてやるわけには行かない。


「『血鱗』」


 血が影の様に伸びてきて光の薙刀の一突きを防いでみせた。収縮している光によって狂血は消えているが、それでも貫かれはしていない。


「これは……」


「驚いただろう。ジジイと一緒にするなよ。俺の方が先を進んでいる」


 以前、ユートはユーナの突きを防ぎきる事は出来なかった。だから、同じ攻撃を仕掛けたのだろうけど、それは甘い。狂血は負の感情で強化されていく。

 宿主は歴代の宿主の記憶も引き継いでいくため世代を経ていくたびに当代プラス歴代の負の記憶が蓄積していく。故に、強くなっていく。

 そんな事を教えてやる義理はないが、口角だけは釣りあげて余裕を見せておく。


「らぁああああああ!」


 貫けなかったユーナの顔に戸惑いが生まれ、行動にも逡巡が出た時を見計らって薙刀を受け流すように躱すと側面に周り込んで血で強化した足で思いっきり蹴って吹き飛ばした。

 周りからは『きゃー!』と悲鳴が聞こえるが知った事ではない。

 しっかりと受け身は取っていたようだが、色々な残骸の上を転がったので和服はボロボロになって美しい黒髪にも木屑がついている。


「年寄りが出しゃばってんじゃねえぞ!」


「それはこちらが言いたいですね。もっと年寄りを敬ってほしいですね。痛たた……。本当に年は取りたくないです」


 常人なら肋骨と内臓損傷で、一撃で沈める事が出来たはずなのにケロッとしている。足を見れば血の強化が剥がれている。腹部に寸前のところで光の障壁を展開したのだろう。


「扱いに関しては兄さんの方が上ですけど、貫けなかった理由は他にあるみたいですね。教えていただけませんか」


「嫌だね。あんたは狂血を知っているようで何も知らない」


「そうですね。私も兄さんから手取り足取り教えていただいたわけではないので、知らない事の方が多いと思います。だけど、それはあなたにだって言える事でしょう」


「!」


 予備動作をなくしてこっちに迫って来た。回避しようと横に飛ぼうとしたが「くっ」ユーナが光球を撃ちだしてきてもそうもいかない。あれも消滅の力を纏っている。血で強化した部分を以外に当たればただでは済まない。

 そう思っている間に薙刀の剣線に入ってしまった。


「これはどうですか」


「ちぃ!」


 デュークの脳天からまっすぐ下に振り下ろしてくる。すかさず狂血で防ぐが体の直感が伝えてきた。これはダメだと。

 何かを知覚出来たわけではない。ただ、本能的にそこにいてはダメだと悟った。だから、横に飛んだが間に合わない。

 動いた瞬間に狂血のガードが砕けてなにもされていない脳天に薙刀が振り下ろされてきた。その速度は緩む事無く、このままだと綺麗な二枚卸しになってしまう。これ程までに時間をゆっくりに感じた事もない。動いている体に振り下ろされている刃。直撃コースは避けられそうだが、無事では済まない。


「あぁああああああああ――――――――――――――――――――ッ!!」


 体感の時間が元に戻って薙刀が振り下ろされて大地を抉る。その余波に吹き飛ばされて十メートル程後ろに飛ばされたデュークは激痛に悶えていた。いつもの狂血を使う際の皮膚が裂かれる痛みの比ではない。


「これを躱すとは狂血の扱いは及んでいませんが、身体能力はずっと上ですね。学院ではそれを隠して生活していたのですね」

冷静に状況を分析しているユーナだが、デュークにはどうでもいい事だ。


「くっ、がぁあああああああ――――――――――――ッ!」


 右側に飛んで直撃は避けられたが半分持って行かれた。脳こそ無事だったが余波で左目は蒸発して頬は抉れて左耳も溶けてしまい、腕に関しては肩から左肺まで抉られてしまった。

 横に出していた足も膝から下が斜めに切り取られていた。

 腕と足に関しては近くに転がっていたがまるで火のついた導火線の様に光が浸食して行って最後には消えてしまう。同じ事が体にも言えるがこっちは必死に抵抗している。余波程度なら狂血で防ぐことが出来た。ついでに傷口から血が漏れ出ない様に塞いでいた。


「どう……して……」


「離す義理は無いのですけど、私も押し付けられたとはいえ教育者ですからね。学院の生徒の疑問には答えないといけません。端的に言ってしまえば少しだけ光の収縮率を引き上げる事が出来たという事です」


「くそ……あれ以上は扱えないんじゃ」


「やっぱりあなたは記憶を持っているんですね」


「く……」


 ぼろを出してしまったのか、どこか納得した顔のユーナが頷いた。


「こんなところで俺が死ぬわけには。被害者の俺が損をしていいはずがない」


「こちらに来てください。今なら、助ける事が出来ます」


「ふざけるな……俺を見捨てた連中の元に行けるか。……どうせ、実験動物にされて終わりだ……」


 こうしている間にも全身が軋む。痛みなんて既に感じていない。それを通り越して伝わって来るのは違和感。どこが痒いのか分からない時みたいな、得体のしれない感覚。もどかしく、鬱陶しい。


「――私達エクストラは他の人から見れば神聖化されたり、畏怖されたりと特殊な目で見られることが多いですけど、ただの人間です。存在するだけで歴史を変えたり、未来に行ったりする事は出来ません。証明する様にこれまで確認されているエクストラは全員秀でた能力はいません。私の聖光だって言い換えれば光を集めて自由に出来るだけですし、狂血だって畏れられていますけど、実際には血を自由に扱えるだけです。斬られれば痛いですし死ぬ時は死にます。かかる負荷は違いますけど、それでも、構造的に私達は何も変わりません」


「そんなもので助かっても意味がない」


 デュークが瀕死状態と言えど生存しているのは狂血による血液操作で体の中の血を強制的に循環させているのだ。血管がない部分を重点的に、鬱血を避けてとにかく流れを作っている。これで失血死やショック死を回避している。しかし、失った内臓器官に関してはどうする事も出来ない。

 この状態ではただ生き永らえているだけ、迫りくる寿命を適当に伸ばしているだけに過ぎない。


「二度もあんたに負けるわけには行かないんだよ」


「――兄さんはまだ私を恨んでいるのですね」


 思い出すのは四十年前の最期の時、彼の言った言葉はこうして実現になっている。そこまでユーナを憎んでいたのか。


「なら、仕方がありません。確かにあなたは何もしていないかもしれませんが、世界の平和が一人の犠牲で成し得るのならそれは天秤にかけるまでもない事です」


「どうしてこうなった……俺は別に認められたいわけでも、嫌われたいわけでもなかった。ただ普通に暮らしたかっただけなんだ! なんで、こうなる。俺が何をした! 世界はそんなに俺を否定したいのか!」


 右目と蒸発した左目から血が溢れて来る。体中の水分を流し過ぎたため一滴でも大事にしないといけないのだが、感情の奔流に流されてここだけ制御が効かない。


「あなたに罪はありません。あるとすれば流れる血だけです」


 薙刀をデュークの首に添える。もう少し力を入れるだけですっぱりと斬れてしまう。そうなればさすがに即死は免れない。


「その血を宿しているとはいえ姪孫ですからね。せめて、最期は楽に」


 ――ふざけるな。

 これだと俺が世界のために死なないといけないみたいじゃないか。なぜ、俺がこんな目に合わないといけない。おかしいだろう。本来罪を与えないといけないのは俺を否定して排除しようとした民衆の方だ。

 俺を死ぬ事に俺は納得していない。

 これだけは使いたくなかったけど、仕方がない。


「だったら、早くすんだな。じゃないと俺が逃げるぜ」


「それは」


 ポケットから取り出したのは小型の転移装置。しかし、強制的に飛ばして目的地すら不明のランダムタイプ。法で使用が禁止されている逸品だ。決められた目的地を持っていないので少ない魔力で動いてくれるが、どこに飛ぶのか分からない。海なのか、街なのか、山なのか、緊急用で持っていたがあまりにもリスキー。この体ではどこに飛んでも詰んでいる気もするがここでむざむざと負けるわけには行かない。

 後は距離に応じて跳躍負荷がかかって来る。風の噂では瞬間移動のエクストラを持っていた人は自らの跳躍する際に生じる空間に存在する波紋上の負荷に耐え切れなくてバラバラになったと言う。

 俺も距離によってはそうなるかもしれない。だけど、誰かの手で理不尽に死ぬよりはずっといい。


「発……動!」


「待って――」


 慌てて薙刀を振るが間に合わず霧散したデュークのいた場所を薙いだだけだった。


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