第15話 『日常』
俺が狂血について、自分がそれを受け継いでいる事を知ったのは、今は他界した父親に聞かされた日。そう、今から十年前に遡る。最初は信じられなかったし、狂血が持っている意味や周りの人間の印象も分からなかったが、今になれば父の偉大さが嫌って程よく分かる。
親父は一回も使わなかった。きっとその選択は正しい。魔性の力程一度使えば取りつかれてしまい、自分ではどうする事も出来なくなる。親父から狂血に関する事を聞いた時、歳甲斐もなく泣いていたのをよく覚えている。
――狂血。
それは特殊なエクストラ。
国や政府からすればただの最悪な『番外なる血統』に過ぎないが、一際強力な能力に、遺伝する事はまさに埒外の真実なのだ。しかし、狂血がすべてにおいて優越な存在と言うわけでもない。様々な制約が存在している。
例えば狂血を覚醒できるのは当代で一人だけ。つまり、親子揃って狂血を扱えるわけではない。親父は第一子である俺に狂血を遺伝させた。その時点でジジイから受け継いだ狂血は親父を経由して俺に受け継がれた。
父が生まれた時はジジイも生きていたので、その間だけは父が発現する事はないらしい。
故に父は悲しんでいた。父は不屈の精神で狂血を抑え込んでいたので、生まれた俺には発現する可能性がずっとあった。
だが、俺はそれを制約だとは思っていない。こんなものはただの呪いだ。他にも数多く存在しているが一番生活に直結してくるのが極度の疲労感だろう。
「はあ……」
「どうしたんだよ、デューク。えらく疲れているみたいだけど」
「人生に疲れてしまったのですか」
「それは大変だ。すぐにドロップアウトした方がいいんじゃないのか」
「おいこら、二人して勝手に俺を殺そうとしてんじゃないの」
いつもと変わらない日常。
今日とても、今日も学校はある。正直、昨日は疲れた。いつもは使用時間について限界に挑むことが多かったのだが、昨日は機能性を確かめてみた。
「なんか、俺等と別々に帰った日だけ次の日の疲労感すごくないか」
「そうですっけ」
「そうだよ。俺よく覚えているか」
「――偶然だよ。それに、この年頃だ。あるだろ色々と疲れるイベントが」
君の様に勘のいいガキは嫌いだよ、と言いたくなるところで喉のギリギリの部分で押しとどめて飲み込む。咄嗟に出てきた言い訳にしてはなかなかいい感じにまとまったと思うが、ディランもマナークも心なしか頬を赤くしている。
「んあ、どうしたんだよ、二人共……」
「いや~、なかなか勇者だと思って」
「流石です。僕には真似ができません」
「何を言って――」
意味の分からない事を言いだす二人に半眼のまま問い返そうとしたのだが、ふと自分の発言を思い出してみれば、男子学生として聞いてみればそっちの方に聞こえなくもない。
むしろ、それを意識してしまえばそれ以外に聞きようがない。
一夜にして疲れイベントで、そこに健全な男子学生と入ってくれば、それはもう……そっちの事になってしまう。
「ばっ! 違うわ! 何勝手な妄想をしてんだよ」
「いいんだよ。恥ずかしい事じゃないさ。男なら当然と言える。逆にやった事が無いって言った方が驚きだ。そう、恥ずかしい事じゃない。だって人間だもの」
「何悟った風にこっちを見てんだこら!」
「――――」
「マナーク! お前は無言で肩をポンポンするな!」
男子学生の無言の意思疎通は非常に便利なのだが、一度かみ合わなくなれば再び噛み合うまで長い対話が必要になる。
これは俺の日々。
確かに俺は狂血を受け継いで入るが、それを使って世界征服とか考える程バカじゃないし、何よりも争いのない日々の方がいいに決まっている。
女っ気がない生活なのは今に始まった事ではないし、家族もいない。血の事がバレれば今の生活を一瞬にして失ってしまう糸の上を渡っている状態なのだが、それでも現状が変わらなければ問題はない。
少なくともデュークから何かを変える事はない。
「早く学院に行こうぜ」
だけど、そんな生活が長続きする程、世界は甘くない。