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罪人の孫  作者: レム
第1章 『災厄、再び』
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第11話 『密会』

 一般棟の一階部分にある会議室。そこは主に外来の人間に対しての会議を行う際に使われている。今、その部屋に灯りがついて中には男女が一人ずついる。

 密室にこもる男女、これだけだといやらしさ満載だが、そこにいる女性に手を出す男はおれど触れる事が出来る男はいない。衰えはしたのだが、その眼力や一挙手一投足は肌をピリピリさせる威圧が含まれている。


「それで、わざわざご来校された理由は――聞くまでもないですね」


「これはこれは、話が早くて助かります」


 机を挟んでソファーに向かい合っている同じ年くらいの男女。片方は未だ世界最強と名高い学院長ユーナ。対して向かい側に腰かけているのは年季の入った皺に逞しい髭だけで雰囲気抜群の執事服の男性。

 机の上では一応の礼儀としてコーヒーを出してあるが一向に手を付ける気配はなく、既に冷めきっている。


「あなたも暇ですね。それと人の頼みごとをする際には本人が来てくださいと伝えていたはずですけど」


「主は忙しい方なので、しかし、私は主から全権代理者として役目も仰せつかっているので、ここでの私の振る舞いは主の振る舞いと考えていただければ結構です」


 不機嫌なままユーナは自分に出されているコーヒーを口に含む。普段は砂糖を入れる派なのだが、ここでは威厳を見せているため無糖に挑んでいる。元の世界にいた五十年前からこの苦みには慣れない。

 ユーナが今日、わざわざこっち側に来たのはこの男性と会うためだった。


「それで話に関しては一考していただけましたか」


「――断る、とこの前言ったはずですが」


「勿体ない事を言われるのですね。これも世界平和のためですよ。確かに多少の窮屈さを感じさせてしまいますが、それでも世界のためなら」


「それはあなたの国の大事なお姫様にも言っているのですか」


「――何のことでしょうか」


「――ふふっ、いえ何でもないですよ」


 ここにいる執事の男は隣国の王の側近。執事だが、王の信頼度としては王侯貴族を凌いでいてこうして一国の全権代理として他国に足を運ぶことも許されている程に。


「エクストラの全容解明。確かそれの協力でしたね」


「はい、ぜひ英雄のあなた様にも協力を乞いたいのです。グロリアスについて解析できれば世界の平和に繋がります。当然、謝礼として莫大な資金援助を――」


「私としてはこれ以上話を聞く価値もないと思っています。しかし、一つずつ訂正と疑問を投げかけたいと思います」


 一旦呼吸を整える。


「まず、私がもう四十年前ですが、狂血を討伐したのは身内だったからで当時の私は世界の事には余り興味がなく、兄の暴走を止めたかっただけです。なので、私は英雄と呼ばれる資格は持ち合わせていません。そして、――再び歴史を繰り返すつもりですが?」


「――」


 彼もまた緊張が肌に纏わりつく様な国家間の会議に出席した事があるので多少険悪なムードに陥っても表情を崩す事はないはずなのだが、世界最強から向けられる剣呑とした雰囲気はこれまでの経験を即座に否定してしまう。


「確かあなたは私よりも年上でしたね。なら、当時を知っているはずですよ。今の子供達に教えている様なふわふわと改竄された歴史ではなく私達が歩んできた本当の歴史を。なぜ、兄が狂血を暴走させて世界を飲み込んでいったのかすべてを知っているはずです。それなのになぜ再び世界を混乱に陥れようとしているのですか」


 当時を知っている人間に無理に記憶の矯正を行う事はしなかった。失敗した過去を知っているからこそ同じ事を繰り返さないために努力していくと信じていたからだ。しかし、この執事が属している隣国ゲルフ王国は近年急速に力を伸ばしてきた。

 主に資源の採掘等で力をつけてきたが、最近、その成長に影が見えて新しく手を出そうとしているのはエクストラの研究だった。世界協定で絶対の禁忌とされているが、こんな時に、いや、こんな時だからだろう。ゲルフで高濃度の魔力石が発見されて、それをダシに研究を始めた。世界各国は協定違反だと進言したいが、見つかった魔力石はそれを拒ませる程に魅力的な品だった。

 誰もが魔法を使えるわけではない。使えたとしても魔力の資質によって使用時間は異なるし、何より利便性が足りない。教育も大事でしっかりと幼少時から鍛えないと開花せず、その点魔力石ならば技術さえ鍛えればどうとでもなる。

 灯りに、火に、移動に。

 世界からすれば喉から手が出る程にほしい。


「あなたが望まれるなら謝礼は莫大な量の魔力石でも構いませんよ」


「外交が私の管轄外ですよ。代表の所に話しをしに行ってください」


「ご冗談を。誰もが知っているんですよ。世界最強であるあなた様こそが本当の支配者だと」


「――」


 まったく、と声には出さないが心の中で思う。


「私以外のエクストラに協力を求めればいいのでは」


「それが出来ない事くらい分かっておいででしょう」


「そうでしたね」 


 犯罪者ではなく国の役職についているエクストラはもう一人いるが、研究者の傍ら人前には出てこず誰とも接点を持ちたがらない。だからと言って未覚醒、もしくは隠蔽されているエクストラを探すのは骨が折れる。


「第一王女様に酷な事をしてはいけませんよ」


「ご心配をしていただき恐縮です。王女殿下も喜ばれる事でしょう」


 白々しい、ユーナが不本意だが持っている権力は一国の王を凌いでいる。手に入る情報は多岐に渡って、綺麗な物ばかりではなく歯を噛みしめる様な情報も入って来る。特にゲルフが酷い。


「我々も危惧しているのですよ。真の歴史を知っている者は少なくなったとは言え、悪意ある物がエクストラに覚醒して再び世界を滅ぼそうとしないかを、だからこそ研究をする価値があるのです。危機が迫っていると分かっているのに対策をしないのは間違っている事なのでしょうか」


「詭弁ですね」


 口先では耳心地のいい言葉を並べているが、実際にはヘルブン王国同様に強制的に発現させる技術を確立させて軍事力的に世界から一歩前に進む気だろう。

 イスルギに関しては絶対中立を宣言している。他国の戦争に介入しないし、介入もさせない。仮に攻め込んでくるならユーナが戦場に立つ事になるが、世界のトップには彼女の戦歴を知らせてあるので、それを知った上で仕掛けてくる国があれば随分な戦闘狂か、ただのバカのどっちかだろう。


「ひとまず今日の所はこれで失礼いたします。次来た時にはいい返事を期待しておきます」


「私の答えは変わりませんよ」


 執事の男は軽く頭を下げて退出していく。強制するつもりはないが、手を引く気もない。

 世界最強と呼ばれている『聖光』それは間違っている。

 誰もいなくなった会議室でようやく緊張の糸を緩めたユーナが呟く。


「兄さんの方がずっと強かったんですよ」


 その事実は誰も知らない。

 当事者でもあるデュークすらそんな事は思っていない。


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