表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/53

第40話 それでも俺はやってない

真相はどこに。

 フローリアの言うその家までやってきて、玄関のドアをノックする。

 しばらくして中からドアが開けられ、生徒の母親と思しき中年の女が出てきた。

 

「こんにちは」


 フローリアがよそ行きの優雅さであいさつした。しかし女は俺とフローリアの顔を見るなり、小さな悲鳴のような声を上げて顔をこわばらせた。

 

「『竜卓十六鱗家』の……」

「ええ、ウォズライン家の者です」

「その、どういったご用件で」


 女の額に脂汗がにじむ。緊張……というよりは恐れおののいているというような感じに見える。こちらの地位に恐縮するにしたって、度が過ぎてるような気がするんだが。

 

「最近多発している学院生の失踪事件について……」

「――わ、私は誰にも話してません!」


 蒼白になった顔面を、水を浴びた犬のようにぶるぶる振る。

 俺、ステラ、フローリアが戸惑いつつその顔を見つめていると、女はさらにもう一度ゆっくりと首を横に振った。

 

「本当に。本当です。神に誓って。人と会ってすらいません」

「……何か誤解があるようだな」


 俺が言うと、女は目を瞬かせてこちらを向いた。

 

「誤解……?」

「俺たちは『竜卓十六鱗家』としてここに来たわけじゃない。行方の知れない友人の手がかりを求めて話を聞きに来ただけだ」


 それを聞いた女は何かを考え込むようにしばらく硬直していたが、やがて目を見開くと口元を両手で覆った。

 そして頬を引きつらせてこちらを見上げる。

 

「すみません……今のは聞かなかったことに……」

「できると思うか?」


 俺は真面目な顔で女を見据えた。フローリアも黙って女の顔を見つめる。

 女は血の気のない顔で震えながら力なく首を振る。

 

「お願いします。どうかお目溢しを。何でもいたしますから」


 祈るように手を組んで懇願する姿はあまりに必死で、ただごとではない何かが裏に隠れていると確信させるには十分すぎた。

 俺とフローリアは顔を見合わせる。

 

「お母さま、『竜卓十六鱗家』の肩書に反応されたということは、十六鱗家、ひいては王国との間に何かがあったということですか?」

「本当に、それ以上はどうか……。ミレーネの他にも息子と娘が1人ずついるのです。私が殺されるだけならまだしも、国王軍の師団長である夫もただでは済まないでしょう。そうなれば子供たちは……」


 殺される、という言葉。そして背後にちらつく王家の影。

 どうやら王家が市民を殺さなくてはいけなくなるほどの重大な秘密を握っているらしい。この女には悪いが、是が非でも聞き出してやらなくてはいけなくなった。

 

「1ついいことを教えてやる。俺は王家が大嫌いだし、『竜卓十六鱗家』とかいうくだらない制度も死ぬほど嫌いだ。王家に不利になるようなことを俺に話すことでお前の不利益になることは、絶対にない」


 俺の発言の真意を計るように俺の目を真っすぐに見つめてくる。

 

「試しておられるのですか? 本当に誰にも話さないか」


 俺は眉根を寄せ、にらむような視線を飛ばす。

 ……つまりあれか? 俺が王家や十六鱗家の指示を受けて、秘密を話さないか鎌をかけに来たんじゃないかと疑ってるわけか? こいつは。

 

「俺が王家の犬に見えるなら、獣らしく言葉を使わずに問いただしてやってもいいんだが」

「ひっ……」


 思わずすごむと、女の顔は蒼白を通り越して土気色になってしまった。

 フローリアが苦笑してちらりとこちらを見る。俺はため息をついて頬をかいた。

 

「……いや、悪い。ちょっとカッとなった。まあそれくらい王家が嫌いなんだってことにしておいてくれ」


 女は安堵の息をつきつつも、気丈にまた首を振った。

 

「私が死んで済むのならそれでも構いません。ですが、お話ししてしまえば子供たちまで危険にさらされてしまいます。ですから――」

「ただいまー」


 決意のにじむ女の独白を遮ったのは、そんな気の抜けた少年の声だった。

 

「どうしたのお母さん、その人たち誰?」

「お、おかえり。ええとね、こちらは……」

「――あっ、さっきの怖い『いい人』だ!」


 先の少年のとは別の、しかしどこかで聞き覚えのある声が耳に入り振り返る。

 

「ほんとだ! さっきのお兄さん!」


 そんな甲高い声を出したのはさっき木の上で泣きわめいてた女の子で、俺をあろうことか「いい人」呼ばわりした命知らずは、木の下で困り果てていた少年だった。

 ということはもう1人の、母親に俺たちについて聞いた、見覚えのない少年がこの女の子の兄貴ということか。ややこしいから少年Bと呼ぼう。

 

「お前、この家の子供だったのか?」


 尋ねると、女の子がうなずく。

 

「あ、あの、さっきはどうもありがとうございました。お礼言いそびれちゃってたから会えてよかったです」

「知らん。人違いだ」

「えー……」


 俺がぴしゃりとはねのけると、女の子は戸惑うように苦笑いした。

 

「でもお兄さん今、私のことわかったのに」

「別のやつと間違えただけだ」


 適当にあしらうように言って手を振る。そむけた顔がちょうど少年Bの方に向く。

 

「ま、待って……ベ、ベル・ウォズライン……さん?」


 少年Bがなぜか目をキラキラ輝かせてうわ言のように言う。

 

「そうだが、なんだ?」

「うっそ、じゃあリアンナが助けてもらったのってベルさんなのか!? なんで言わないんだよ!!」


 少年Bは俺の問いには応えず、妹を責めるようににらんだ。

 

「何? ベルさんって。わかんないから言うも何もないよ」

「俺もこの人知らないけど」


 妹と友だちの反応を聞いた少年Bは、憤慨したように足を踏み鳴らした。

 

「おまっ、2人とも冗談だろ!? あのウォズライン家だぞ! 『竜卓十六鱗家』の! その次期当主! 次期トップって言われてたゼルバートをとの決闘に勝ったベル・ウォズライン! お前決闘見なかったのか!?」

「私は家にいたし」

「俺も見に行ってない」


 少年Bはまくしたてたせいで息を荒くしながら、キラキラ輝いた目でこちらを一瞬見やる。

 

「すごかったんだぞ! 血まみれになりながらもまったく動じないで、最後はゼルバートを完全にコケにしてぶっ飛ばしたんだ! なんであんな展開になったのかはよくわからなかったけど、魔導武器なしであのゼルバートをコテンパンにしたんだよ、この人は!」


 俺と妹と少年Bの友人は、そろってぽかんと立ち尽くしていた。

 少年Bはなおも輝いた瞳で俺を見上げてくる。

 

「ベルガのファンなんだね」


 ステラが耳打ちしてくる。

 

「ファン? ……ファン?」

「そうだよ。どう見ても英雄に憧れる無垢な少年の目だよ、これは」


 意味がわからない。別に俺はこいつを楽しませようと思ったわけでも、こいつの手本になってやろうと思ったわけでもない。ファンとか言われても困る。

 

「あ、握手してもらってもいいですか!?」

「お、おう……」


 少年Bは手を差し出そうとしてから慌てて引っ込め、シャツの裾でごしごしと手汗を拭った。そして改めておずおずと手を差し出してくる。

 俺が手を出すと、少年Bは力強く手を握って俺の手ごと小さく振った。

 

「あ、ありがとうございます」


 手を離すと、深々と頭を下げて礼を言う。

 ……駄目だ。まったく話の流れについていけてない。

 そんな俺の困惑などお構いなしに、今度は妙にかしこまった様子の母親の女の方が俺を見つめてくる。

 

「あ、あの……ところで娘がお礼を申し上げたのはもしかして、娘が木から降りられなくなって、枝が折れて落ちてしまったとかいう件のことでしょうか……?」

「そんな話知らない」


 徹底して否定する。俺はそんなことはしていない。自分自身にも言い聞かせながら、力強く首を横に振って頑なに否定する。


「嘘だよー。絶対人違いなんかしてない」

「うん、絶対この人だ。落ちてくるリアンナを飛び上がってキャッチして華麗に着地してた」

「魔導武器なしでそんなことできるのベルさんしかいないしな」


 ……あれ、なんか今わりと論理的に立証された?

 確かにあれができる身体能力を持ってるやつなんて王都にはほとんどいないか。そもそも「ベル・ウォズライン」だってことも否定しておくべきだったな。

 

「あの、本当でしたらきちんとお礼を申し上げないといけませんし……」


 母親が真面目な顔で見上げてくる。そして何か覚悟を決めたように1つ深呼吸をした。

 

「娘の恩人を無下になどできません。中に入ってお話させてください」


 ……それはつまり、そういうことか?

 俺が視線で問うと、母親は無言でうなずいた。

 

「……わかったよ。わかりました」


 俺はうんざりしながら盛大にため息をつく。


「そうです。俺は娘さんを助けてしまいました。何を血迷ったか、俺は通りすがりに子供を救ってしまいました。……ほら、これで満足か?」


 懺悔するように、過去のあまりに愚かな行いを悔いるように俺は告白した。


「はい。その節は、本当にありがとうございました」


 母親は柔和に笑って、ゆっくりと頭を下げた。

それでも俺はやってない(やった)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます。
主にTwitterの方で更新報告などする予定ですので
よろしければそちらもご覧くださいませ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ