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第1話 神木と親睦を深める(1/2)

王都を追い出され、山暮らしを始める――。

 殺害企図の罪で王都を追放された俺が、王国の北の国境を守るアルゴネア山で自給自足生活を始めてからはや1ヶ月。


「死ねッ! 滅べッ! 果てろッ! 朽ちろッ! 潰えろッ!」

 

 1つの呪詛に1つの拳。

 俺は山の中腹にある大木に向かって正拳を繰り返し叩き込んでいた。

 

「死ねッ! 滅べッ! 果てろッ! 朽ちろッ! 潰えろッ!」


 俺が両腕を広げても足りないほどの直径を持つ大木。こいつを拳で叩き折れる日が来たら、俺は王都に戻って1人で反乱を起こす。そう心に決めている。

 王国を滅ぼし、秩序を壊し、己の拳こそがものを言う世界を到来させてみせる。

 

「死ねッ! 滅べッ! 果てろッ! 朽ちろッ! 潰えろッ!」


 殺意を込める。個人に対するものじゃない。王国という概念に対する殺意。持って生まれた魔力を至上とし、持たざる者をを排斥する世界に対する殺意。

 生半可なものではない。なんなら神だって殺すつもりで俺は拳を握っている。

 いっそ魔王と手を組んでもいい。魔族も、魔獣も、殺人鬼も、大怪盗も、この世界の正義に抗うものなら何だって味方になるし味方になってもらう。

 ところでその魔王は今、王国のどこかに息を潜めて隠れていると言われている。

 

 13年前のことだ。突如魔族の軍勢を引き連れ現れた魔王は王国の版図の三分の一に当たる範囲を制圧し、国家の樹立を宣言した。

 なんとか態勢を立て直した王国は魔導兵士を中心に、その後5年にわたって魔王軍と一進一退の攻防を繰り広げた。しかし死をも恐れぬ魔王の軍勢は極めて頑強で、真正面から完全に退けるのは不可能に近いように思われた。

 そこで魔王軍の瓦解を狙い、魔王の暗殺を目的とする作戦が立案された。それは魔王の領土に少数精鋭からなる部隊を送り込み、魔王軍を撹乱するとともに敵の首魁たる魔王を討ち取るという作戦だった。

 その作戦を提案し、自らその精鋭たちの首班を買って出た男を人は勇者と呼んで讃えた。

 魔王軍の戦線が突如として崩壊を始めたのは、勇者たちの出立から1年半後のことである。

 帰還した満身創痍の勇者たちは悔しげに語った。あと一歩のところで魔王とその側近にとどめを刺しきれず逃した、と。

 しかし魔王が落ち延びたことで魔王軍の瓦解という目的は果たされた。人々は喜びと興奮とともに彼らを讃え、王国には平和が戻った。

 その後旧魔王領では徹底的な魔族の掃討作戦が行われたが、魔王の姿を見つけることはできなかった。それ以来人々の間ではこんな冗談が、半ば本気でささやかれるようになる。

 あなたの隣に住んでいるのが、魔王かもしれない――。

 

「隣に人なんていねえわっ!」

 

 俺は叫んで渾身の一撃を巨木に叩き込んだ。

 少し息が上がった。俺もまだまだだな。

 呼吸を整えつつ、突きの連打を再開しようとしたそのときだった。

 

(……勇者……聞こえますか……勇者よ……)


 森の中で……いや、これは俺の頭の中か? とにかくそんな声が響いた。


「死ねッ! 滅べッ! 果てろッ! 朽ちろッ! 潰えろッ!」


 幻聴まで聞くとは、いよいよもって修行が足りないな。精神の方ももっと追い込んでやったほうがいいかもしれない。俺は声を気にせず鍛錬を再開する。

 

(……あの……ちょっと……本当に……聞こえませんか……?)


「死ねッ! 滅べッ! 果てろッ! 朽ちろッ! 潰えろッ!」


(……あのー……もしもーし……そこで木を……殴ってる方ー……)


「死ねッ! 滅べッ! 果てろッ! 朽ちろッ! 潰えろッ!」


(……えっと……幻聴とかじゃないので……怪しい宗教の勧誘でもないので……少しお話を……)


「幻聴じゃないだと?」


 俺は手を止めて眉をひそめた。


(……あ……やっと……答えてくれました……無視……ひどいです……)


「いや、俺勇者とかじゃないし。対極にある存在だし」


(……樹齢1000年を超える神木を……恐れ多くも殴り倒そうとする人……勇者と呼ばずして……なんと呼ぶのです……)


「……それは確かに。それで、お前は誰なんだ」


(……察してください……あなたが1ヶ月間……欠かさず殴り続けている……その神木です……)


「いや、木と会話する趣味も特技もないから察しろと言われても」


(……声をおかけしたのは……他でもない……その件についてで……どうか……殴るのを……やめていただきたく……)


「――おりゃっ」


(……チョップも……できれば……やめて……ください……」

 

 駄目か。屁理屈ではごまかされてくれないらしい。キックとかエルボーとか試してみても無駄なんだろうな。


「嫌だ。俺は神なんてものを大切にする気はない。我慢してくれ」


 俺は言って、再び重心を少し落として突きの構えを取る。

 

(……待って……待って……ください……)


「なんだよ。……っていうか、その妙にエコーかかかって間延びした感じの声でずっとしゃべられるとなんか疲れるんだけど」


(あ、ごめんなさい)


「普通にしゃべれるなら最初からそうしろ!」


(あなたの方こそ嫌なら先に言ってくれればいいのに)


「そうだな。まあそこはおあいこだ」


(話が早くて助かります)


 話が「速く」なってくれてこっちも助かるわ……。

しんぼくちゃん、フランクになる。

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お読みいただきありがとうございます。
主にTwitterの方で更新報告などする予定ですので
よろしければそちらもご覧くださいませ。
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