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芹ケ野りさ(銀行員)【5】

 こんなにも違うものか、と思う。年上の女性にさりげない優しさと気遣いを示すことができる若者と、気になる相手との仲をどう進展させたものか思い惑うだけのアラサー女。羽島くんの白い歯が輝くあの笑顔。自信と余裕がなければあんな屈託のない笑顔はできないだろう。それに引き換え――と、思いはひたすら、自分のみっともなさに舞い戻る。

 りさはもらったスポーツドリンクを一口飲んだ。疲れた身体にドリンクが染みわたる。頭もすこしすっきりした。

 川内さんが窪田正孝似なら、羽島くんは登坂広臣かな、と、好きなドラマの俳優に引き寄せて考えた。

 そういえば、とあらためて思い出す。川内さんが観てくれたと話していた。

 先週ここで話したときに、好きなドラマや映画の話になったのだ。彼は海外の作品をよく観ていて、「ワイルド・スピード」や「ミッション・インポッシブル」、それに「イップ・マン」シリーズなどがお勧めだという。りさは映画やドラマは国内派だった。アクションが好きだというので、彼女が今はまっている「HiGH&LOW」というドラマについて熱をこめて語った。彼も興味を示してくれて、次会うときまでに観てみますよ、と言ってくれたのだ。本当にそうしてくれたらしい。

 話したい、と思う。そして聞きたいとも。自分の好きなものの話がしたい。彼の好きなものを聞かせてほしい。自分が好きなものを彼も楽しんでくれただろうか。彼の好きなものを自分は楽しめるだろうか。

 りさはフロアを見渡した。川内はチェストプレスのマシンの脇で、ドリンク片手に一息ついているところだった。こちらの視線に気づいてかどうか、彼もりさの方に顔を向け、微笑を浮かべて会釈してきた。その姿を見たとき、りさは深く考えることなくバイクを離れ、彼のほうに歩みだしていた。

 りさが何か言うまえに、川内のほうから声をかけてきた。

「お疲れさまです、今日はえらい頑張ってらっしゃいますね」

「さすがに疲れました」

 口角に意識を集中しながら、彼の隣りのチェストプレスに手をかけて、これを試そうか吟味しているような素振りをする。が、これでは数秒も稼げない。はやく口火を切らなければならないことはわかっている。

 特に口上を考えていたわけではなかった。だからといって、気持ちに正直になれば自分でもびっくりするぐらい素直にな言葉が流れ出て――というわけには、もちろんいかなかった。心臓はばくばくするし、頭は熱を出したときみたいにくらくらするし、胸元は変な汗がだらだら出るし、喉はからからで声も掠れる。りさは羽島くんにもらったドリンクを一口飲んだ。充分ではなかったけれど、なんとか話せるだけの落ち着きは取り戻せた。

「あの、川内さん」

「はい?」

 ちょっと改まった感じがしすぎただろうか、川内の目がすこし丸くなる。後悔と決心がないまぜになったような気持ちで、それでもなんとか言葉を出そうと喉に力をこめた、そのときだった。

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