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須賀涼太(警察官)【6】

 道具の保管場所を思い出そうとしているとき、二度目の悲鳴が聞こえてきた。今度も男の声だったが、さきほど聞こえてきたものとは別人の叫びのようだった。集まった人々の緊張と動揺が増し、自分が安全とは限らないと気づいて足早に離れていくものも、ちらほらと現れだした。

 悲鳴がさらに切迫の度合いを高め、店のなかから迸るように聞こえてくる。誰かがなかで危険に遭遇している以上、もちろんテロの可能性がいちばん高かった。銃声は聞こえていない。須賀の頭をよぎったのは、十年ほどまえに日本中を騒がせた、秋葉原で起こった事件のことだった。暴走させた車で歩行者を次々と撥ねたあと、車を降りた犯人が手当たり次第にナイフで切りつけたのだ。七人が死亡し、十人が重軽傷を負ったこの通り魔的犯行は、わずか十分で遂行されたのだった。いま自分がためらっている瞬間にも、犠牲者が増えつつあるのかもしれない。

 須賀は無意識に腰を探り、拳銃の握りを確かめた。これまでは制服の飾り以外であった試しもないものだが、いざというときに銃口を人に向けるのをためらうつもりはなかった。そして銃爪を引くことも――必要とあらば。それに、動揺する野次馬をまえに身ひとつでおろおろするよりも、危険に遭遇しているかもしれない人を助けに走るほうが、ともかく目的がはっきりしているだけいくらかマシに思えた。

 交番から応援の警官が二、三人向かってくる――なんて遅い!――のを見たとき、須賀はひとまず自分の任務を終わらせることに決め、踵を返して駅ビルのほうへ走った。店から聞こえる悲鳴は高く低く、途切れ途切れになっている。

自分を呼ばわる上司の声が遠く聞こえた気がするが、構っていられる余裕はなかった。

 救急車がぶち破った窓枠に取りつき、破片で手を傷つけないように注意しながら、須賀は店内に踏みこんだ。

 そこは爆弾が炸裂したようなありさまだった。壊れたテーブルやばらばらになった椅子が転がり、砕けたガラスや床タイルがそこらじゅうに散らばっている。横ざまに倒れた救急車は、音もなくサイレンを明滅させていた。すでに悲鳴は途絶えている。

 足下にうつ伏せになった女性の遺体があった。事切れているのは一目でわかった――背中に何十という大小のガラスの破片が突き立たせ、大きな血溜まりに顔を沈めているのだから。子供のころに図書館で見た一枚の絵、広島に落とされた原爆のせいで全身にガラスが突き刺さった女性の絵が思い出された。須賀は壁に手をついて目をつぶり、吐き気が去るのを待った。

 須賀の垂れた頭に覆いかぶさるように、そのとき、またも叫び声が聞こえてきた。だが今度は悲鳴ではない。はっきりとした声で、「逃げなさい!」と誰かに呼びかける声だった。須賀は顔をあげた。拳銃を引き抜き、撃鉄を起こす。ガチリという金属音が、ささやかながらも確かに須賀の心を奮い起こした。散乱したバッグや木材を避け、疵だらけの車体をまわりこんで、店を飛び出した。

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