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宇都紗耶香(高校生)【7】

「これなんか俺、わりと好きかも――あっうわ、でも三千円? すごいね、こんなするんだ。ブランド物?」

 紗耶香のほうを向いて、大里くんが照れくさそうに笑った。

「これじゃ俺の小遣いなくなっちゃうわ」

 あはは、と笑いながら、紗耶香は手元に並ぶハンカチに目を落とす。

 ――大里くんの笑顔はなんだかまぶしくて、正面から見返すことができない。

 くしゃっと笑うと右頬にできるえくぼ、困ったように八の字に下がる眉毛。かわいい。これで笑顔までかわいいなんて反則だ、と思う。わたしが向き合うのはとてもつりあわない、と思うのだ。

 紗耶香は自分の笑い顔がコンプレックスだった。ガミースマイルというのだったか、笑うと歯茎がすこし覗いてしまう。以前母親に相談したところ「そんな気にするほどかな」と首を傾げられたものだったが、こういうことで家族の意見はあまりあてにならないし、といって友達にあけすけに話せるものでもない。目指すべきは、楽しいときにも静かな微笑や落ち着いた笑顔でいられるオトナの女性だった。

 でも大里くんと話していると、いつだって本当に楽しくなってしまって、自然と大口の笑顔になってしまっているのだ。だから紗耶香は彼から目を逸らし、去年母親にプレゼントしたものに近いハンカチを探している。探すふりを続けている。

「あたしが買ったのはね、そんなすごいやつじゃなくて――」

 そのとき、カフェ側の窓の向こう、駅ビルの外から、誰かが大声をあげているのが聞こえた。見るとたくさんの通行人がひとつの方向――紗耶香から見て左手――の何かを見ながら、一様に驚いた顔をしている。なかにはその何かから逃れようと、一目散に走っている人の姿もある。

「な、なんだろ」

 紗耶香が大里くんと顔を見合わせていると、愛璃が「えーなになに」と言いながらカフェを横切り、窓のほうに駆け寄っていった。

 救急車の大きなサイレンに気づいたのはそのときだった。さっきからずっと聞こえてはいたのだ。だがそれがいまや急速に近づいてきていた。そして屋内に届くには大きすぎるエンジン音。何かが何かにぶつかる鈍い音。悲鳴。

 状況を理解するいとまもなかった。ただぞっとして外を見た瞬間、窓いっぱいに救急車の白い車体が浮かんでいるのが見えた。それが窓ガラスに激突したのもわかった。

 破滅的な大音響とともに、粉々に砕かれたガラスの破片を引き連れて、巨大な車体が店内に突っ込んできた。

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