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阿蘇由実(会社員)【4】

「……あのね、その……」

 電話向こうで深呼吸する音が聞こえる。

「お願いが、あって……」

「うん」

「あるんだけど……その……電話じゃちょっと……言いにくくて……」

「わかった。今日?」

「え?」

「今日会って話そうか?」

「え、うん……由実がよければ……でもぜんぜん、今日じゃなくても」

「私は大丈夫。今日ははやめにあがれるから、五時半にいつものところでどう?」

「うん」

 小さく応える声に安堵の色が窺えて、由実もすこしだけほっとした。

 じゃあね、またあとで、と言って電話を切る。自販機から小銭を回収した。もう買う気はほとんど失せていた。

 洋子のあまりの歯切れ悪さは、自分が初めて、彼女に不妊治療のことを口にしたときを思い出させた。洋子はそのことを相談した数少ないうちの一人だった――というより、親きょうだい以外で、それは洋子ひとりだった。ときに悲嘆に暮れ、ときに苛立ちも露わに愚痴をこぼす自分の話を、彼女はずっと聞いてくれた。持論やアドバイスを口にすることはまったくなく、ただ頷いて聞いてくれたあの頃のことを、由実は心から感謝している。治療になにが良くてなにが悪いかなど、雑誌やネットから仕入れた情報を訳知り顔で開陳されようものなら、由実はすぐさま彼女と距離を置いていたはずだった。そんなものはほとんど毎日のように由実自身が漁りまわっていたのだから。

 洋子になにがあったのかはもちろんまだわからなかったけれど、自分にできることならなんでもしたい気になっていたし、由実の“お願い”というのが、自分にできることであることを祈った。


 ――そしていま、待ち合わせ場所のカフェに向かうまえに、託児所から迎えた娘のみのりを今度は父に――みのりのおじいちゃんに――預けるため、由実はプラザの広場側の自動ドアをくぐっていた。

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