崎山優城(高校生)【7】
外に面したカフェルームの大窓を破り、信じられないものが店内に飛び込んできた。窓のガラスとフレームを撃ち砕きねじまげ撒き散らし、巨大な鼻面を突き出したのは、鳴り響くサイレンを連れた救急車。それは店内に走り込んでも勢いを落とすことなく、近くにいた人々を次々に撥ね飛ばし巻き込みひきずりながら突き進んだ。身体も思考も硬直し、見開かれるばかりの崎山の目に、一人の女性の頭が砕け散るのが映った。その身体がタイヤに折り込まれるようにして下敷きになるのが、はっきりと目に焼きついた。
救急車はカフェ部分のほぼすべてを破壊し、雑貨スペースとの境のあたりで横滑りして停止した。
あまりに突然の惨事に、店内は一瞬、むしろ静寂に包まれた。Jポップの陽気な音楽を背景に、誰かれのうめき声だけが低く流れる。崎山も理解がまったく追いつかず、立ち尽くすばかりだった。
救急車が飛び込んできた? どうしよう、それじゃ救急車を呼ばなくちゃ――。
周囲の人たちは崎山よりも素早く気を取り直した。近寄るなと誰かが叫んでいる。警察を呼べ、119に電話しろ――ほとんど怒号のような声が飛び交った。
じ、事故? 自分でもじれったいほど思考が進まない。動かない。まとまらない。こんな不意打ちのアクシデント、崎山はむしろ、自分はうまく対処できるかもしれないと考えていたものだ。みんなが右往左往しているなかで自分は冷静な判断を下し、警察や消防、救急車をそつなく手配し、周囲に呼びかけて怪我人を助ける。事件を起こしたのがテロリストだったなら、もしかしたら、うまいこと一人ぐらい倒せるかもしれない……そうだ、死んだ警官の拳銃を拝借して……使い方はすぐにわかるだろう……恐怖に竦む女子を背中にかばいながら、なんとか修羅場を切り抜ける……そんな妄想をしたことがあったのに、いまの彼は、突っ立ったまま震えているただの木偶だった。
どれぐらいのあいだそうしていたのか、崎山がびくりと我に返ったのは、騒乱を縫って響きわたった悲鳴を聞いたからだった。
救急車がめちゃくちゃに破壊し尽くした店内に、大里と宇都さん、そして霧島さんの三人がいたはずだと気づいたのは、ようやくそのときだ。同時に、隣りにいたはずの羽島さんの姿がないことにも。あわてて周囲を見渡すと、いまだ続く悲鳴――というより絶叫――のもとへと駆けてゆく彼女の背中が見えた。




