表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/109

崎山優城(高校生)【6】

「どう? あんまない?」

 こちらに視線を戻して、羽島さんがもう一度ささやいた。崎山も心なしか身をかがめ、声を落とした。

「あー、いや、たまにするね、言われてみれば」

「えっ、えっほんと? どんなどんな?」

 一層ぐいっと羽島さんが身を乗り出してくる。崎山はこめかみのあたりが熱くなるのを感じた。きらきら輝く瞳をほとんど見ることができず、前を向いたままでしかいられない。

「宇都さんかわいいよなーとか」

「えー!」

「タイプかもーとか」

「ほんとー!」

 そんなふうに声をひそめて話していると、やたらと彼女との距離が縮んだような気がして、心が浮き立った。同時にそんな自分が、羽島さんとの可能性をどうしても考えてしまう自分が、恥ずかしいような、嘲笑いたくなるような気持ちも陰を差すけれど。

 羽島さんはオクタホテルの奥にいる二人に向きなおり、嬉しそうに「あらら~!」やら「まあまあ~!」やら、なんとなくおばちゃんっぽい嬌声などあげている。

 そんな彼女の横顔を見ながら、崎山の頭はぎこちなく、しかしめまぐるしく回転していた。なんと会話を続けたものだろう? 「大里の好きな子が気になるん?」とでも訊こうか――いや、気になるのはいまの質問から明らかだし、そんな軽い口調で訊けるほど近しい仲じゃないはずだ俺たちは(俺と羽島さんは)。「嬉しそうだね」とか「良かったね」がいいか?――キモいだけだ。「羽島さんのほうがかわいいと思うけど」――絶対にダメだ、言ったら終わりだ。むしろまったく関係ない話題にすべきだろうか――「そういえば、たしか羽島さんのお兄さんってここでバイトしてるんだっけ?」とか……

 完璧なコミュニケーションはいつも遅れてやってくる。いまの崎山は黙りこみ、彼女の横顔を眺めるしかなかった。

 しかしそうだったからこそ、崎山は、彼女の表情の変化を見逃さなかった。

 ほとんど一、二秒のことだった。楽しそうにきらめていた瞳が曇り、眉が怪訝とひそめられた。不審のうかがいはすぐに驚愕のひきつりへと移る。頬の筋肉がこわばり、瞼が大きく見開かれ、上唇がぶるっと震えた。そのただならぬ様子に、崎山も彼女の視線の先を追う。彼の目が窓の外のそれを捉えたのと、羽島さんの叫びが響いたのとはほとんど同時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ